ミネルバ、合流する
このことからも、斬竜が、ロボット全体をひとまとめにして認識しているのではなく、ある程度は区別もできているというのが分かる。
ただやはり、
『ミネルバなのに形が違う』
ことについては不思議そうな様子だった。しかも、
「こんにちは、斬竜」
<鳴き声>も違う。前は、「ブーン」と唸るような鳴き声だったのに、今は錬義のそれに近い。でも、
『まあ、いいか……』
とでも言いたげにホビットMk-XXXの見た目をしたミネルバに近付き、バンバンと頭を叩いた。彼女なりの挨拶ということだろうか。
「いたたた、斬竜、痛いです。乱暴にしないで」
ミネルバはそう言うものの、ホビットMk-XXXに痛みを感じる機能はない。ただ、どの程度の衝撃かを検出することはできるので、それを基に、
『痛みを感じるほどの衝撃である』
ことを感覚的に伝えるために<痛いという表現>を用いているだけである。
「ほらほら、ミネルバも痛がってるから、勘弁してあげて」
そう言う錬義に頭を撫でられて、斬竜は不思議そうに彼を見ながらも、叩くのはやめてくれた。
こうしてミネルバも合流し、再び<総合研究施設アンデルセン>内を散策。今度はそれこそ誰とも顔を合わせることなくただ歩いた。
とは言え、ここでは百人ほどの人間の職員と、数千体のロボットが働いている。対象者と顔を合わせずに観察できるように作られているだけだ。
<キャシー天田>は、斬竜が人間を見た時にどういう反応をするかを見るために敢えて姿を晒したのである。万が一にも怪我をさせるわけにはいかないのでドーベルマンSpec.V3が間に入ったものの、実はキャシー自身、野生の猛獣相手にも十分に自らの身を守ることができる実戦的な格闘術の心得があり、だからこその人選だった。
そのキャシーも、カメラ映像をはじめとして次々送られてくるデータを解析していた。ロボットによる数値的な分析だけでなく、人間による感覚的な分析も行うために。
そして、
「今のところは、彼女にとって人間は間違いなく<獲物>でしかないでしょうね。時間をかければその辺りについても認識を更新していける可能性はあるけど、容易じゃないと思う。私達なら対処もできるとしても、そもそも彼女自身がそれを望むかどうか」
キャシーの前に映し出されたアンデルセン(のアバター)に向かって話し掛ける。するとアンデルセンも応えたのだった。
「やはりキャシーもそう思うか。おおむね、私の見解と同じだな。人間世界で暮らすことが彼女にとって幸せか否か。錬義の母の天照に近い事例になりそうだ。天照も最後まで人間社会には完全には適応できず、生涯をここで過ごしたからな」




