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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
72/96

斬竜、お気に入りがもう一つ

どうやら斬竜(キル)が人間社会に馴染むのは難しそうだと感じつつ、あと数日はここに留まる必要があった。斬竜についてのデータ収集のためだ。ここまでのところでは<竜女帝の娘ゆえのリスク>はそれほど大きくないと見られるものの、さらに精査する必要もあるからだ。


それもあり、スペニスキダエ竜(スペニスキダエ)が去った後も、錬義(れんぎ)と斬竜はフーラの辺を散策していた。その中で、斬竜が、水を飲みに来ていたトカゲ(に似た動物)を捉えて食べたりもする。


やはり、コテージにいた時よりも生き生きしている印象はあった。ラーメンは気に入ったらしいものの、人間社会とは噛み合わないだろうとも感じる。


ただ、


「……」


不意に斬竜がもじもじし始めた。その様子に、


「ん? トイレ? その辺にすればいいよ」


錬義はそう言うものの、斬竜は少し困ったような表情になる。


「あ、もしかしてトイレも気に入った……?」


察して、


「じゃあ、戻ろう!」


言いつつ、コテージ風の建物の方へと走った。斬竜も一緒に走る。そして、一番近くにあったコテージ風の建物の庭に備え付けられた、あの<トイレトレーニング用のトイレ>に駆け込む。


すると斬竜は完全に使い方をマスターしていて、改めて教えなくてもちゃんと使ってみせる。もちろん、使った後は水も流して。


「臭いが残らないのが気に入ったのかな……? 自分の巣に臭いを残さないようにするために離れたところにするくらいだから、割と気にするんだろうし……」


とも推測する。もっとも、地球人が排泄物の臭いを忌避するのとは意味が違うのかもしれないが。あくまで、強い臭いで巣に外敵を呼び寄せてしまわないようにというだけで。


それがどちらにせよ、これには錬義(れんぎ)も苦笑い。


「ラーメンのこともそうだし、トイレも気に入ったのなら、完全に元の場所に帰るってわけにはいかないか……」


そんなことも考えつつトイレから出ると、二人の前にホビットMk-XXX(サーティ)が。しかも、


「錬義」


と彼の名を呼ぶ。瞬間、錬義もハッとなって、


「ミネルバも来たのか」


と口にする。そう、ミネルバだ。彼の愛機の。まさかウルトラライトプレーンの状態では街中には入ってこられないので、ホビットMk-XXX(サーティ)の機体を借りてやってきたのである。本体はあくまで整備工場の中だが、<リンク>という形で他のロボットの体を借りることもできるのだ。


しかも、ホビットMk-XXX(サーティ)の姿を見て、一瞬、怯んだような仕草を見せた斬竜も、錬義がミネルバの名前を出したことで、不思議そうに首を傾げつつ、落ち着きを取り戻す。形が違っている所為だろう。


どうやら、ロボットすべてを毛嫌いしているわけではなくて、ドーベルマンSpec.V3に対して特に苦手意識を持ってしまっただけのようだ。



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