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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
71/96

斬竜とスペニスキダエ、勝てない戦いは続けない

ここまでの様子を見る限り、斬竜(キル)は、人間に対してはことさら憎しみを抱いているわけではないものの、言葉を自在に操れるようになれそうな兆候がまったく見られず、完全に人間社会に順応するにはかなりのハードルの高さが窺えた。


となれば、この錬是(れんぜ)の地で暮らすとしても、無理せず野生の中で暮らすことの方が好ましいのかもしれない。


そんな風に推測するアンデルセンの見ている前で、斬竜は、スペニスキダエの動きを圧倒し始めた。いよいよ調子が戻ってきたということだろうか。


すると、


「ケエエーッッ!!」


スペニスキダエは、ためらうことなく身を翻してフーラに飛び込んだ。自身が不利になったことを察したのだろう。だからこそ能力が最大に活かせる水中へと戻ったのだ。


ただ、斬竜も敢えて追いかけなかった。一瞬、追いかけようとするような仕草を見せたが、水中のスペニスキダエの動きを見て、思いとどまったようだ。彼女が察したとおり、水中ではおそらく斬竜に勝ち目はなかっただろう。だから避けた。危険を冒すことを。


人間のような<誇り(プライド)>に囚われないからこそのものだった。


『勝てない勝負は挑まない』


勝てるはずのない相手に挑むのは、それこそ、


『死中に活を見出すしかない』


ような状況に限られる。逃げられるのなら逃げるし、戦う必要さえない避けられる戦いなら避ける。


そういうものだ。


こうして、斬竜とスペニスキダエの戦いは、決着がつかないまま唐突に終わった。けれどそれはあくまで人間の感覚でしかなく、互いに相手の力が分かってそれが自分を上回っていて、避けられる戦いだったという<結論>はしっかりと出ているのだから、これでいいのだろう。


人間、と言うか地球人が、


<自分が見て分かりやすく面白いもの>


を求め過ぎなのだ。自然は人間が消費するための<エンターテイメント>ではない。というだけのことだろう。


錬義(れんぎ)も、斬竜が諦めたのならそれでよかった。何より、さっきのドーベルマンSpec.V3とのことは吹っ切れたようだし。


「僕が勝手に連れてきただけだもんな。君が馴染めないなら無理をさせる必要もないよ。もうしばらくここで様子を見て、ダメだったら麓に帰ろう……」


スペニスキダエが去った水面を睨み付けながら、


「グルルルルルルル……!」


と喉を鳴らす彼女の頭を撫でつつ、錬義はそう声を掛けた。


もっとも、こうやって彼が頭を撫でてもそれを嫌がらないのだから、彼女はもう、錬義と一緒にいることは嫌じゃないのだ。


ただ、<苦手なもの>があるというだけで……



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