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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
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斬竜、スペニスキダエ竜と戦う

フーラは、<総合研究施設アンデルセン>が擁する<自然環境>の一つだった。リゾート用の湖などではないのだ。だから普通は近付いたりしない。必要と考えられた時に利用されるだけである。そして錬義(れんぎ)は、斬竜(キル)の気晴らしのために立ち寄った。


その狙いは的中し、斬竜が発する気配が以前の彼女に戻っていた。スペニスキダエ竜(スペニスキダエ)は決して容易ならない相手ではあるが、今の彼女にとっては手頃な相手だったようだ。


「カアアアアーッ!!」


ペンギンと言うかカラスと言うか、独特の鳴き声を上げながらスペニスキダエは猛然と斬竜に襲い掛かる。けれど、鋭い爪の攻撃を体を回転させて躱しつつ足を蹴り上げ、ヒレのような羽のような腕を足の爪で切り裂いた。


しかしそれも、致命的なダメージにはならない。守りが固い。フーラに限らず錬是(れんぜ)にある湖の多くは水温が決して高くなく、長く水に浸かっていると体温を奪われるので、皮膚と皮下脂肪が分厚く進化したのだろう。しかも骨も頑丈で、特に頭蓋骨は三十七口径程度の弾丸ではよほど運がよくないと貫通しない。


ゆえに、『ここ』という弱点が見当たらないのだ、もちろん生き物なので弱い部分はあるものの、さすがに初めて相手をして見抜くには難しい事例だったかもしれない。ちなみにフーラにおいては最上位捕食者(プレデター)に当たる種である。


けれど、斬竜はむしろ嬉しそうだった。思い切り体を動かせることが楽しかったのだろうか。確かに命のやり取りではあるものの、彼女にとってはそれは<普通>だったのだ。ここに来てからの方がおかしな状況が続いている。


それを見て、錬義は思う。


『やっぱり彼女にはこういう緊張感のある暮らしの方がいいのかもね……』


そしてこの光景は、アンデルセンも見ていた。あらゆるところに仕掛けられた監視カメラを通じて。この総合研究施設の名前そのものが<アンデルセン>とされたのは伊達ではない。ここのすべてがアンデルセンと繋がっており、今ではもう、


『この町そのものがアンデルセン自身』


と言っても過言ではないのだ。


「ふむ。確かに彼女には人間社会は窮屈そうだ。となれば、彼女が暮らせる場所の候補もおのずと絞られてくる」


誰に説明するでもなくそう呟いた。


地球の日本と同等の広さを持ちながら、現時点ではまだ七百万人という人口ゆえに、錬是(れんぜ)には多くの自然がそのまま残されている場所も多い。そして敢えてそういう場所で野生に近い暮らしをしている者達も現にいる。


斬竜がもし錬義と共に暮らすとしても、そういう形が望ましいのかもしれない。



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