斬竜、野生の肉食獣の貌になる
こうして斬竜を伴い、錬義は通りまで出てきた。そこは、<シーズンオフのリゾート地>と言った風情の、静かな場所だった。気候はいいのでその点では『シーズン真っ盛り』な印象もあるものの、何度も言うようにここはリゾート地ではない。心理的な負荷がかからないように配慮された作りの<研究施設>である。
だが、そこに、
「あら、おはよう! 錬義! 久しぶりね!」
声が掛けられた。前から道路をインラインスケートで走ってきたタンクトップにホットパンツという、どこかスポーティな印象の女性が笑顔で近寄ってきたのだ。
しかし、その瞬間、
「!!」
斬竜が弾かれるようにその女性目掛けて奔ろうとした。けれど同時に錬義も反応し、彼女の体に自分の体そのものを巻き付かせるようにしてもろとも地面に転がった。
「ダメだ! 斬竜! この人は獲物じゃない!!」
そう声を上げつつ。こうなることは十分に予測しつつ動けるようにしていたので、反応できた。
「ガウッ!! グルルルルッ!!」
だが斬竜は、完全に獲物を前にした肉食獣の貌になっていた。当然だ。彼女からすれば、目の前に現れた女性など、どう見ても<獲物>でしかないのだから。
まあ、実際にはこの時にはまた少し別の意味もあったようなのだが。
いずれにせよ、今の彼女は完全に野生の肉食獣である。すると、インラインスケートを履いた女性が、
「錬義、彼女には<肉体言語>の方が説得力があるでしょ?」
とウインクする。それに錬義も、
「……分かった。用意はいい?」
言葉を返す。そして、女性が「OK!」と答えるのを受けて斬竜を押さえつけていた力を緩めた瞬間、彼女は再びバネのように女性目掛けて飛び掛かった。が、そんな斬竜と女性の間に何かが割り込んでくる。
ドーベルマンSpec.V3だった。さっきのとは別の機体だ。このような事態のために随所に配置されていたものが、現れたのである、
「!?」
さすがに、さっきのドーベルマンSpec.V3には自分からは飛び掛からなかったものの、こうして間合いに入ってきたものに対しては、もはや容赦もなかった。
「ガアッッ!!」
吠えながら鋭い爪を備えた手を繰り出す斬竜に、ドーベルマンSpec.V3も確実に反応する。彼女の手を受け流しつつ捉えたのだ。
「ギッ!!」
すると斬竜は自身の体を回転させ、地面に足を着く。ドーベルマンSpec.V3が捉えた腕を極めにきたのを察して、対処したである。
「!? ヒューッ!」
そんな彼女の動きを見た女性が、口笛を鳴らす。見事な反応に感心したからであった。




