錬義と斬竜、ゆったりと過ごす
彼女の青黒い髪は、汚れていたことでより暗い色になっていただけのようだ。浴槽の中でほぐすようにして洗うと汚れが落ち、まるで鳥の羽毛のような艶やかな青色に変わっていく。とは言え、全部を丁寧に洗うことはできないので、途中までだ。急ぐ必要はない。斬竜にはゆっくり馴染んでいってもらえばいい。
ちなみに、斬竜は保護されている上に錬義は彼女の保護観察者という立場なので、<宿泊料>はかからない。改めて言うがここはそもそも<研究施設>であって<宿泊施設>ではないのだ。
浴槽の中で髪を洗ったことで水がすっかり汚れてしまったものの、元より二人ともそんなことは気にしない。そして風呂の湯もすべて回収されて分析され、危険な病原体を持っていないか等について徹底的に調べられる。
つまり、<汚れ>ではなく重要な検体>である。それらの分析は、このコテージ風の建物から少し離れたところにある分析施設で行われている。ちなみに、トイレの排水も同じだ。すでに斬竜は小も大も済ませているので、それこそ貴重な資料として徹底的に調べられる。
それは、ロボット達によって一日中休みなく行われ、もうこの時点で斬竜の腸内細菌の分析までほぼ済んでいた。そしてこの時点では、危険な病原体については検出されなかった。ほぼすべて既知の細菌類であり、新たに発見されたものも即時解析され、現在の薬品薬物薬剤で対処可能なことが判明する。
そうとは露知らず、斬竜は錬義との水浴びを楽しみ、リラックスしていた。
こうして一時間近く水浴びをして上がった時には、斬竜の体がかなりさっぱりした印象になっていた。日に焼けて褐色になっていた体も、汚れが落ちたことでかなり明るい印象になっただろうか。
髪については、頭の方はまだ完全には綺麗になっていないものの、首から下の部分はすっかり汚れが落ちて、サラサラとした青色の、美しいそれに変貌している。
さりとてこれすらただ水洗いしただけなので、きちんとシャンプーをすればもっと綺麗になるだろう。だがそれも急ぐことはしない。彼女にとって不快な場所になっては意味がないのだ。
それを忘れてはいけないし、忘れない社会だからこそ、決定的な衝突を起こさずに済んだ社会なのである。
<凶竜>のような、それこそ問答無用で人間を憎んでいる存在以外とはだが。
しかし同時に、<凶竜>のような、和解が決して敵わない埒外の存在がいることにより、『備えを怠らない』という意識が保たれているというのもあるだろうが。




