錬義と斬竜、水浴びする
この後、しばらくして大の方もすることになり再び庭のトイレを使うことになったが、斬竜は一度目よりもさらに慣れた様子で使ってみせた。
そうして今度は、風呂に入ることにする。
「こっちで水浴びしようか」
敢えて<水浴び>と表現し、湯温も二十五度と、湯と言うよりは<ぬるい水>といった感じの温度にした。いきなり湯だと彼女が驚く可能性もあったからだ。ぬるい水なら普段から使っていたからさほど違わないだろう。
「? ?」
とは言え、まるで洞窟のような狭い場所に連れてこられて、斬竜は少し戸惑っていた。ただ、水が溜まっているのを見ると、口をつけて水を飲み始める。水飲み場と思ったようだ。
原野の生水を普段から飲んでいたのだから、それに比べれば浴槽の水などむしろ清浄なくらいだろうが、
「あはは♡ ここの水は飲まなくてもいいよ」
錬義は笑顔でそう言った。とは言え、それを彼女が理解するにはまだ少しかかるだろうから、今は別にいい。
彼女のシャツを脱がせると、斬竜はまったく抵抗することなくされるがままになり、錬義も服を脱いだ。そうして錬義が風呂桶で水を汲んで自分に掛ける。するとさすがに斬竜も水浴びだと察して、浴槽に手を入れてバシャバシャと自分にかけ始めた。そんな彼女に錬義が風呂桶で水を掛けると、自分で掛けるのをやめて風呂の床にどっかと座る。彼が掛けてくれるのに任せることにしたようだ。
すると錬義が頭から水を掛けて、斬竜はブルルッ!と頭を振った。
本当は石鹸で洗いたいところだったが、今日のところは風呂に慣れてもらうだけにして、掛け湯しただけで浴槽に入る。彼が入ると斬竜も続けて入ってきた。普通にリゾートで利用してる客としてならいささか好ましくないかもしれないが、ここはあくまで、斬竜のような者を保護する施設でもある。人間の暮らしに少しずつ慣れてもらえればいいので、誰も気にしない。洗えば済む話だ。
二人でも入ってもそれほど窮屈でもない浴槽に体を浸し、ゆったりする。斬竜も、おとなしく入ってくれている。
そこで錬義は、彼女の髪を浴槽の中でほぐすように洗い始める。
『頭を洗う』
という習慣がないので、髪の毛に汚れがこびりついてバサバサになっていた。たまに水浴びしてゆすいだくらいでは、完全には綺麗にならない。
すると水がすぐに濁ってくる。これもこういうものなので、錬義は気にしないし、施設管理者であるアンデルセンも承知の上だ。
なんでも一朝一夕にやろうとしてはいけない。特に、野生を相手には。




