斬竜、油断しない
錬義がカップラーメンに湯を注いでラーメンを作る様子を、斬竜はラーメンを食べながら見ていた。そして錬義はさらにもう一個、カップラーメンに湯を注ぎ食べられるように用意する。
「……」
鍋に手を突っ込んでラーメンの麺を口に運びつつ、斬竜はしっかりとその手順そのものを脳に写し取っていく。それなりの年齢にはなっているはずだが、彼女の脳はとても柔軟に新しいものを吸収しているようだ。
実はその様子を、アンデルセンは自身に備え付けられた各種センサーと、コテージそのものに備え付けられたセンサーで読み取っていた。ここはそのための部屋でもある。斬竜の脳が非常に活発に活動している様子が見て取れた。
『これはこれは。やはり天照よりは人間社会に順応できそうだ。ただ同時に、言語野の働きはそれほどでもないようだが』
ゆったりと部屋の隅に陣取りながらも、アンデルセンは自身のAIを猛烈に働かせながら、斬竜の解析を行っていた。人間社会にとって脅威になるならそれに合わせた体制を取るし、融和してくれるならやはりそれに合わせた体制を取る。どちらに場合にも確実で堅実なそれを行う。適当では済ませない。
アンデルセンはそのためにここにいるのだから。
それでいて、
「錬義、いい娘だな」
それこそ初めて息子の彼女を紹介された父親のように、アンデルセンは言葉にした。
「だろ? 僕もビビッときたんだ。これまでどんな綺麗なコを見たって感じなかったものを彼女からは感じた。『このコが欲しい!』って思ったんだ。だから一緒にいる。それだけだ」
錬義がきっぱり言ってのけると、アンデルセンも、
「そうか。お前がそう思うのならそうすればいい。私はお前の判断を支持する」
穏やかに応えた。そのやり取りも、斬竜はラーメンのスープを飲みながら意識を向け聞き耳を立てていた。やはり油断はそこにない。
彼女は自分の安全が確保されていることを自身で確認していないからだ。
『知らない場所は危険』
斬竜は常にそう判断する。何が起こってもすぐに対応できるように警戒は怠らない。とは言えそれは野生であれば当然のことなので、錬義もアンデルセンもそれ自体を気にすることもない。
なお、ラーメンは塩分や油分が非常に多いので野生の生き物に与えることについてどうかと思う節はあるだろうが、彼女の代謝機能は非常に高く、後の精密検査で、日常的な一日の消費カロリーは一万キロカロリーを超え、塩分などへの耐性も地球人の十倍以上ということが確認されているので、ラーメンを一日に二杯や三杯食べたところで、彼女にとってはおにぎりを一個食べたほどの影響もなかったのだった。




