斬竜、またラーメンを堪能する
部屋の食糧保管庫からカップラーメンを三つ取り出し、錬義は部屋に備え付けられたIHクッキングヒーターではなく、備品の一つとして収納されていたカセットコンロを取り出し、鍋で湯を沸かし始めた。
というのも、斬竜はこれまで、錬義がコンロで湯を沸かしているところをずっと見ていたため、
『火で湯を沸かす』
ことについてはある程度の理解を示していた。が、IHクッキングヒーターは火を用いないので、今の彼女にはよく理解できず、かえって危険な可能性があったのだ。なにしろIHクッキングヒーターでは<火>が用いられないので見た目では分かりにくい。それでいて、鍋やヤカンが熱くなるため、知らないと気付かずに触れてしまうことがある。
その辺りも徐々に理解していってもらわないといけないので、まずは慣れた形で行うということだ。
こうして数分で湯が沸き、錬義はカップラーメンの中身を敢えて鍋の方へと投入した。カップラーメンに湯を注ぐ作り方を斬竜は知らないからだ。だから彼女にも分かる方法でまず作る。
そして出来上がったラーメンに水を注いで冷まし、斬竜の前に置くと、
「うあっ!」
彼女は嬉しそうに声を上げて、十分に冷めてるかどうかを指先で軽くつついて確かめてから手を突っ込んで食べ始めた。
『湯が熱くて痛いことがある』
というのはもう理解しているらしい。火傷するほどではないがいきなり手を突っ込むと痛いということがあったからだ。
そうして彼女が食べている間に、錬義は今度はヤカンで湯を沸かし始めた。
「? …?」
それを、ラーメンを食べながら斬竜が不思議そうに横目で見ている。
彼のすることを、斬竜はいつも見逃すまいと注視している。それと同時に、少し離れたところから自分達を見ているアンデルセンに対しても警戒は解かない。錬義がアンデルセンを警戒していないので危険は少ないとは察しているものの、だからと言って完全に油断することもないのだ。野生がまだまだ強いゆえに。
錬義もアンデルセンも、それをよく承知している。
錬義の母もそうだった。彼の母親である<天照>は、突然現れた恐竜人間として保護された。恐竜人間としては二人目であったが、一人目は比較的すぐに人間としての感覚を得ることに成功したが、天照は結局、ほとんど人間としてコミュニケーションがとれるようにはならなかった。
もしかすると、今の斬竜以上に扱いが難しい存在だったかもしれない。そういう先例があるゆえに、焦ることはないのだ。




