錬義、斬竜をエスコートする
ミネルバとは明らかに違うストレッチリムジンを、斬竜は警戒していた。錬義は彼女を無理に乗せようとはせず、それでいて自分が乗ろうとしている気配を発し続けた。
先にリムジンに乗り込んだアンデルセンと兵士達も、ただ黙って待っている。焦っても良い結果が得られることはないと知っているからだ。
野生の生き物は、人間の都合など考えてくれない。だから地球人は、痛みを与えたり追い詰めることで操ろうとしたが、結果、反発を招いたり反抗させたりして大きな被害を出すことも少なくなかった。
だから、餌などを使って誘導する方法を考えたりもした。
また、その生き物の習性を利用することで進んで入らせたりもする。ネコが狭いところに入りたがったりするのを利用して<ネコ鍋>なるコンテンツが生み出されたりもしたという。
結局、必要なのは、
『相手をよく知ること』
なのだ。相手が何を望んでいるかを知れば、それに敢えて合わせることでこちらの望みを叶えることもできる。
錬義は、今の斬竜が自分を必要としてくれているのを知っていた。だから彼がいれば彼女がそこに来てくれるのも分かっていた。しかし同時に、
『よく知らないものは怖い』
のは、人間とて同じ。それが怖くないことを承知してもらうには、急いではいけないのだ。錬義がそれを恐れておらず、警戒もしてないのを斬竜に納得してもらう手順が必要なのである。
すでに七百年以上の時を過ごしてきたアンデルセンも、そのことをよく知っている。そしてここ<総合研究施設アンデルセン>に努める職員達も、それを理解している者達だ。
だから焦らない。力尽くで相手を従わせようとしない。万が一を想定して狙撃者を配置したりもするものの、アンデルセンにおいてその備えが実際に使われたのは、数百年の内でも数えるほどだ。
そして錬義は提案した。
「ラーメンを用意してもらえますか? たぶん、それが一番早い」
「分かった。用意させよう」
アンデルセンはためらうことなく応え、自身の通信機能により情報を伝達。近くの職員用休憩施設でラーメンを作ってもらい、それをドーベルマンSpec.V3に届けさせた。
斬竜からは死角になる位置からリムジンに近付き、窓を開けてドーベルマンSpec.V3が手にしたラーメンをアンデルセン自らが受け取り、リムジン内のテーブルに置いた。
「……!」
すると斬竜が途端に興味を示す。が、警戒はまだ解けていない。いないが、興味津々なのは間違いなかった。
だから錬義が少しラーメンに近付く仕草を見せると、斬竜も逆らわずついてきた。そうなるとあとは早かった。
こうして三十分をかけて二人はリムジンに乗り込み、斬竜は久々にラーメンにありついたのだった。




