凶竜の姫様、猛然と攻撃を続ける
「があっ! ぐぅあああーっっ!!」
錬義が<凶竜の姫様>と称した、
<青黒い髪と翡翠のような瞳を持つ褐色少女>
は、まったく疲れる様子もなく猛然と攻撃を続けた。しかし錬義も、怯むことなくその攻撃を凌ぎ続ける。
<凶竜の姫様>の攻撃は、ある意味では<デタラメ>極まりない。ただただ自身の身体能力のすべてを衝動任せに繰り出しているに過ぎない。それでいて、一撃一撃が圧倒的な威力を秘めていた。一発でもまともに食らえば確実に死ぬ。そういう種類の攻撃だった。
錬義はそれをことごとく躱していなして受け流しているものの、実は見た目の印象ほど余裕があるわけでもなかった。一瞬でも気を抜けば終わる。それを凌ぎきれるだけの集中力を発揮しているだけに過ぎないのだ。
『これ、アンデルセン爺ちゃん以上かもしれない。エレクシア様、メイフェア様、イレーネ様なら、圧倒するんだろうけど……!』
そんなことを考えてはいるものの、余裕があってそれができているわけでもない。身体能力を極限まで高めていても思考だけは別に行えるという、彼の<特技>というだけのことだ。
でも……
『でも、ここでやられちゃ、始祖の名の一部を受け継いだ者の一人として、エレクシア様に会わせる顔がないな……! そういえば一ヶ月後にはエレクシア様がお目覚めになるのか……! その場にいられないというのも、<錬是の民>としては不敬の極み……!』
そう考えた瞬間、錬義の動きがさらに加速した。彼の顔を捉えようとした<凶竜の姫様>の右の爪を、表皮一枚で滑らせて受け流し、自身はアクセル全開のドライブシャフトのように回転して、彼女の横っ面に左の裏拳を叩きつけてみせた。
相手の見た目が<少女>であろうと何であろうと関係ない。そうするしか止める術がないと思えば容赦はしない。
『それに、これくらいじゃ壊れもしないだろうしね』
そう考える錬義の視界の隅を、まるで自動車にでも撥ねられたかのように吹っ飛び地面を転がる<凶竜の姫様>の姿がよぎった。
『壊れなくても、さすがに痛いか……』
とも思いつつ、錬義は身構える。彼女の反撃を予測して。
だが、少女は、尻を上にした状態で地面に頭が刺さっていた。ちょうど頭がすっぽりと入る程度の穴があったようだ。
しかも、その状態で動かない。
「う、うわわっ!! 大丈夫っ!?」
さすがにこれには錬義も慌てた。下手をすると首の骨が折れているかもしれない状態だったからだ。
と言うか、普通の人間ならもう完全に死んでいるだろう。
そんな少女の腰を掴んで、錬義は彼女を持ち上げたのだった。
彼女の<すべて>が自身の眼前にある状態で。




