何となく気まずかった
ただ、こうやってミネルバで空を飛んでると、ほんの一時間くらいで斬竜がそわそわし始めた。
「あ……トイレか」
錬義も察する。『恥ずかしい』という感覚はなくても、こんなおかしな状況で排泄をするというのはさすがに落ち着かないだろう。
なので、地上の様子を確かめ、取り敢えず近くにはエレファントス竜しかいない川の近くへと降り立った。
すると斬竜は座席から飛び降りて、地面に穴を掘り、そこにしゃがみこんだ。やはりトイレだったようだ。
なのでついでに錬義も同じように用を足す。男女で並んでそうしてるというのも地球人の感覚からすれば異様にも見えるかもしれないが、野生の感覚がまだまだ強い朋群人には別にそんなにおかしなことでもなかった。
ただ、錬義は斬竜の方には視線を向けないようにしていたが。
何となく気まずかったからだろう。
とは言え、出すものは出さないと始まらない。が、どうも出そうになかったことで錬義は早々に諦め、川の方に近付いていった。すると彼を狙ってだろうか川イグアナ竜が何匹も水から上がってきて襲い掛かってくる。
もっとも、川イグアナ竜程度では錬義は怯むことはない。飛びかかってきた川イグアナ竜を手ではたき落として頭を踏み潰し、それを何匹か繰り返して、そのうちの一匹を川に放り込んだ。
するとそちらに川イグアナ竜が集まり、その隙に頭を踏み潰したのを五匹ばかりまとめて尻尾を掴んで抱え上げ、ミネルバの方に戻ってきた。
と、ちょうど斬竜も用を足し終えたのか穴を埋めて戻ってくる。
その彼女に、
「はい」
声を掛けながら川イグアナ竜を一匹投げ渡すと、斬竜もそれを空中で掴んでそのまま食らい付いた。バリボリと骨を噛み砕く音をさせながら、彼女は躊躇なく貪っていく。
やはり実にワイルドだ。
錬義は残りの川イグアナ竜をミネルバの機体に括り付けると、水筒を持って斬竜に近付き、川イグアナ竜を食べきった彼女の前で水筒を傾けて水を流した。と、彼女はそれを手で掬って自分の顔に掛けていく。血を洗い流しているのだ。と同時に、水も飲んでいる。
そうして錬義がミネルバに戻ると、斬竜もついてきた。座席に座った彼に続いて、後ろに座る。すっかり心得たものだ。
彼女の振る舞いには、錬義に対して媚を売るようなそれは見当たらなかった。むしろ彼が自分にかしずくのが当たり前であるかのように振る舞ってさえいた。
そんな彼女に、
『うん。やっぱりお姫様だよな』
なんてことを思ってしまう。それがまたなんだか嬉しかったのだった。




