人間って本当に面倒な生き物だよな……
人間以外の動物は、自身が裸であることに羞恥を感じない。けれど朋群人も、野生がまだ強く残っていることで、基本的には地球人ほど強く羞恥は感じない。
が、それでも、<性>を意識すると途端に『恥ずかしい』という感覚に囚われるようになる者もいる。実に奇妙な生態だった。
性を<恥ずかしいもの><猥褻なもの>と認識するのは、結局、そう感じる者自身がそう捉えているからに他ならない。斬竜の体のすべてを見ても、錬義はそこに何も特別な感情を抱かなかった。
最初の段階では。
だけど今は、意識してしまう。
とは言え、当の斬竜自身は何とも思っていないだろう。たとえ錬義を異性として意識するようになったとしても、彼女には<性>を特別視するという概念そのものが存在しないからだ。少なくとも、今はそう思える。
たとえ犬や猫が人間に恋をしたとしても、自分が服を着ていないことを恥じたりはしないのと同じに。
『人間って本当に面倒な生き物だよな……』
錬義は自嘲気味に笑みを浮かべてしまった。と、
「……」
斬竜がうっすらと目を開けた。そして錬義を見る。
「……」
慌てるでもなく、焦るでもなく、ただそこにいることを確認するかのように見る。
すると、安心したかのようにまた目を閉じてしまった。錬義も、そんな彼女を見てホッとした。彼女は、彼と一緒にいることを選んだのだ。
それが、彼をパートナーとして認めたからかどうかは、今のところは分からない。発情でもしているのならそれこそ今すぐにでも求めてくるだろう。野生の動物は人間のように回りくどくない。必要とあればその場で即断即決だ。
けれど、そこまでの様子はない。ということは、彼と番うことが目的ではなく、あの<美味い物>を手に入れるには都合がいいということで一緒にいることを選んだと推測できる。
でも、それでよかった。そこから先はまた改めて考えればいい。彼女にとって都合のいいだけの存在であることを、まず喜びたい。
ようやく第一段階に至れたということだ。
だから錬義も、彼女と共に横になる。
が、残念ながら、この野生の世界はそうやって二人きりの時間を楽しむことを許してはくれないようだ。
「!?」
「っ!!」
斬竜と錬義の体に同時に緊張が走り、錬義は着る寝袋を素早く脱ぎ捨てた。そしてミネルバの翼のトランクに詰め込んで、
「タキシング!」
錬義が声を発すると、すでに飛び立つ準備を万端整えていたミネルバがプロペラを回転させ、ゆっくりと動き出した。
「斬竜…僕と一緒に行くかい……?」
錬義は彼女にそう問い掛けたのだった。




