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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
43/96

錬義、なんだかむず痒い

ある意味では朋群(ほうむ)人の中でも<異端>であり、ゆえにパートナーを得ることには縁がないかもしれないと思っていた自分にも、一人の女性の姿が頭から離れなくなることがあるなどとは、錬義(れんぎ)は思ってもみなかった。


それがなんだかむず痒い。


とは言え、斬竜(キル)とお近付きになることだけが目的というわけでもないので、鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)の観察も続けるわけだが。


取り敢えず、その期限もあと三日。携帯食として持ってきた食糧のうちのラーメンが尽きたら、いったん、連是(れんぜ)に戻ろうと考えていた。始祖<錬是(れんぜ)>の名を冠した、朋群(ほうむ)人達の生活圏である台地へ。


できればそれまでに斬竜(キル)を射止めたい。射止めるところまではいかなくても、彼女が自分についてきてくれるようになってほしい。


そう思う。思うものの、さて、そんなにうまくいくものだろうか。


分からない。分からないが、可能性だけならまだあるはずだ。


『とにかく、また明日だな……』


そう思いながら、眠りについたのだった。




そして翌朝。


「え……?」


空が明るくなり始めたことで錬義(れんぎ)が目を覚ますと、彼の前に誰かの姿が……


斬竜(キル)だった。いつの間にか斬竜(キル)が彼の前で眠っていたのだ。危険が迫れば錬義(れんぎ)の体は自動的に反応するし、ミネルバだって黙ってはいない。なのに彼女がいる。


それは彼女が敵意を持って近付いたわけじゃないという何よりの証拠。


だから錬義(れんぎ)も、間近で斬竜(キル)の寝顔を堪能することができた。おそらく彼が警戒したら、彼女も同じように警戒し、目を覚ましてしまったかもしれない。


『睫、長いな……髪も肌も土まみれだけど、よく見ればキメは細かいし、すごく健康そうだ。血色もいい……』


そんなことを考えてしまう。そして、すごくむず痒いような感覚。何もしていないのに体温が上がるのが分かる。顔が熱くなってくる。こんな気分は初めてだった。


『触れたい……彼女に……』


そうも思う。が、それは我慢した。触れたら、いや、触れようとしただけで彼女はきっと目を覚ましてしまうだろう。それよりも今はこうしてただ彼女の顔を見ていたい。


胸が高鳴る。血が激しく体中を駆け巡るのを感じる。視線が勝手に彼女の体の方へと移り、でも彼女が生まれたままの姿なのを改めて思い知らされて、慌てて視線を顔へと戻す。


すでに彼女の体のすべてを見ているというのに、その時には別に何とも思わなかったのに、急にそれが気恥ずかしくなってくる。


『見ちゃダメだ……!』


って思えてしまう。それは、彼女に対して強く異性を意識しているということに他ならない。



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