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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
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青黒い髪と翡翠のような瞳を持つ褐色少女、憎悪と殺意を見せる

青黒い髪と翡翠のような瞳を持つ褐色少女は、完全に容赦なく錬義(れんぎ)を殺すつもりで蹴りを放っていた。彼を睨み付けるその表情からも、激しい憎悪と殺意しかないことが察せられる。


それで錬義(れんぎ)は悟った。


『あちゃ~っ! これは凶竜の血縁かな……やっちまったか……!』


自分が、構わなくていい相手を構ってしまったことを察し、その上で、


『人型の凶竜……<竜女帝>の子孫か……』


とも。


そこまで悟ってもなお、


『でも、こいつは面白いのを見付けた!!』


と考え、


『ワクワクしてたまらない!!』という笑顔を浮かべる。実際、彼にとってはまたとない研究対象だっただろう。


しかし、褐色少女の方にとってはそれこそそんなことはどうでもよく、牙を剥き出して、


「がああっっ!!」


咆哮と共に彼に襲い掛かった。それは、獲物に襲い掛かるトラやライオンすら凌ぐ動きだった。


そんな少女の両手にはこれまた恐ろしい鉤爪が伸びていて、確実に相手を殺傷するためのものであるのが窺える。存在そのものが<殺意>とも言えるだろう。


なのに錬義(れんぎ)はむしろ彼女に向かって体を動かし、爪を払いながら交差した。


『強い…! 力はたぶん僕以上だ。でも、記録にあった<竜女帝>とはかなり姿が違うな。ずっと人間に近い……! 竜女帝に同種がいたという記録はないし、単性生殖にしては姿が違いすぎる。自家受精……?』


体には緊張感を漲らせながらも、頭では猛烈な速度で様々な思考を行っていた。それが錬義(れんぎ)の特技だった。


なお、<自家受精>とは、雌雄同体の生物において、同個体の雄雌それぞれの生殖細胞間で受精が起こることを本来は言うのだが、ここ、惑星<朋群(ほうむ)>においてはさらに別の意味を持ち、自身の体に複数の遺伝子を持つ種が、それぞれの遺伝子を持った生殖細胞同士で受精が起こることを言う。


特に、<竜女帝>のような<透明な体を持つ個体>では稀に見られる現象で、クローンとも異なるものだった。何しろ親とは別の遺伝子を持って生まれてくるのだから。


それにより、姿形も大きく異なることも多い。ただ、性質は、親のそれを受け継ぐ場合が多いので、<凶竜の子>となれば、当然、人間を激しく憎んでいる場合がほとんどだとされていた。


もっとも、実は凶竜から生まれたからといって必ずしも<凶竜>になるとは限らない。


<凶竜の定義>


は、


『生まれた時点で、一切の外的な干渉もないままに人間を激しく憎んでいること』


が第一義なので、


『後天的な経験や学習で人間への憎しみを獲得した』


場合には、<凶竜>とは呼ばれない。それを知っているからこそ、錬義(れんぎ)は、


『さしずめこのコは、<凶竜の姫様>って感じかな』


少女の攻撃を躱しつつ、そんなことを考えていたのだった。



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