錬義、接待攻勢に出る
このようにして徐々に斬竜との距離を詰めていこうとする錬義に対して、斬竜の方も、明らかに警戒を緩めつつはあっただろう。
だから、日が暮れて錬義が地上でビバークを始めると、どこからともなく斬竜が現れた。もっとも、ラーメンの匂いに誘われただけかもしれないが。
しかし錬義もそれは十分に予測していたので、彼女にラーメンをそのまま渡す。もちろん、食べやすいように冷ました上で。
すると斬竜も当たり前のようにラーメンが入ったコッヘルを受け取って、やはり手掴みで食べ始めた。すっかり気に入ったようだ。
錬義の方は、また川イグアナ竜を捕えて串焼きにしていた。今度は斬竜の分もしっかりと用意していたので、彼女が食べている間に自分も食べる。ラーメンについては、残りも彼女に与えるつもりだった。
これはいわば、
＜求愛行動＞
だろう。野生動物にも時折見られるもので、雌に餌を貢ぐことで気を引こうというものだ。もっとも野生動物の場合には、
『自分はこうして確実に餌を確保できる優秀な雄だ！』
とアピールすることにもなるので、地球人のように、自身の生活に支障のない程度の贈り物をすることで気を引こうというようなささやかなものではない。もっと生きる上で切実なものだ。さりとて、地球人の場合に無理をして贈り物をしたところで、
『この程度の贈り物で生活が破綻する程度の資力なんだ』
となるとその時点で＜魅力＞には繋がらないだろうが。加えて、
『経済観念がない』
と見られればその意味でもアウトだろうし。
そもそも地球人は、
『自分達は野生の動物とは違う』
と吹聴している種族なので、いくら野生動物の真似をしたところでそれは『人間としての魅力には繋がらない』という根本的な問題がある。それを理解しなければ、当然ながら上手くはいかないだろう。
けれど、ここ朋群ではまだまだ＜野生の論理＞が十分に生きており、しかも斬竜はそれこそ野生として生きてきたので、十分に効果も望める可能性もある。
彼女がそれに魅力を感じる感性を持っていればの話だが。
例えば、＜求愛ダンス＞のようなものでアピールするのが当然の種であれば、やはり求愛ダンスを見せないといけないだろうし、他にも、『立派な巣を作ってみせる』ことによって雌にアピールするような種であれば彼女が気に入るような巣を作る必要があるわけだ。
彼女がどれを魅力と感じるかは今のところ分からないので、まずはこうして、
＜接待攻勢＞
を掛けているという感じか。
さて、それがどうなるかはこれからである。
