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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
38/96

斬竜、錬義と共に寛ぐ

真っ裸で大きな腹を抱えて前を走る斬竜(キル)を見て、錬義(れんぎ)はなんだか嬉しそうだった。性的にどうとかというのではなく、あくまで彼女とこうして一緒に全力疾走していることが楽しかっただけではあるが。


そうしてルプシスの群れから十分な距離を取ると、斬竜(キル)は川へと向かって、襲い掛かってくる川イグアナ竜(イグアニア)を払い除けながら川に頭を浸けて水を飲んだ。


錬義(れんぎ)も同様に口を付けて川の水を飲む。


普通に考えれば人間がしていいことではないものの、錬義(れんぎ)の肉体は野生動物のそれに近く、当然、免疫力も地球人とは比較にならないくらいに高い。


だからこの程度はそれほど問題ではないのだ。念のために濾過した水を煮沸して使うようにしているだけである。


そうして二人は、川辺に座り、時折襲い掛かってくる川イグアナ竜(イグアニア)を掃いながら寛いだ。斬竜(キル)も、錬義(れんぎ)が自分と一緒にルプシスを退けてくれたことを理解しているようだ。


とは言え、完全には気を許しているわけでないのは分かる。錬義(れんぎ)も、別に馴れ馴れしくしようとは思っていない。ただ、彼女とこうしていられるのが嬉しいだけだ。


そこに、ミネルバが着陸してきた。すると錬義(れんぎ)はそちらに向かって歩き出し、そして乗り込み、飛び立っていった。そんな彼の姿を、斬竜(キル)は目で追う。


斬竜(キル)との距離を、こうして少しずつ詰めていくのが錬義(れんぎ)の狙いだった。まずは彼女にとって危険な敵ではないことを理解してもらうのが先決と考えている。


比較的おとなしい鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)に特に接近して観察する時に行う手法そのものだった。


野生の動物は確かに危険ではあるものの、だからと言って常に攻撃的なわけでもない。警戒する必要のない相手に対しては傍にいてもさほど気にしないものである。そういう、


<警戒する必要がない相手>


になれれば、傍にいることもできるのだ。ただし、それは些細なことで崩れ去る危うい関係でもあり、油断してはいけないが。錬義(れんぎ)ももちろん分かっている。万が一それで命を落としても恨んだりはしない。自分の不手際が原因だからだ。同時に、危険が迫れば生きるために容赦もしないが。


それも当たり前のことでもある。


ただ、斬竜(キル)に対しては、


「うん、手応えあり……!」


笑顔でそう呟いた。


「ブーン……」


ミネルバはそんな彼に溜め息でも吐くようにプロペラの回転を上げる。


「あはは、ごめんごめん。愛してるよ、ミネルバ♡」


錬義(れんぎ)は笑いながら応える。『愛してる』という言葉に嘘はない。彼はミネルバの存在を敬い、感謝しているのだ。


ただ、斬竜(キル)に対するそれとはまた違うというだけである。



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