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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
35/96

斬竜、若いティランタスと対峙する

そのティランタスは、先ほどエレファントスの群れを襲った個体よりも若そうだった。まず大きさが違う。まだ十メートルにも満たない程度だ。とは言え、人間の十代半ばくらいの少女ほどの大きさしかない斬竜(キル)に比べれば圧倒的に巨大なのも事実。真っ向やり合えば当然ながら勝ち目はないだろう。


そう見える。


が、斬竜(キル)は、歯を剥き出して身構えて、若いティランタスを威嚇していた。すさまじい気魄だった。明らかに、


『お前を食い殺す!!』


と言わんばかりの。


彼女には、勝算があるらしいのだ。どう多く見積もっても六十キロ弱くらいしかなさそうな少女が、少なく見積もっても一トンを大きく超えているであろうティランタスに対してどんな勝算があるというのか。


けれど錬義(れんぎ)も焦っている様子はない。彼女と<手合わせ>したことでその力の一端を垣間見たからだ。


ただし、いつでも手助けに行けるように準備は整える。


「ブーン…」


ミネルバは不満そうにプロペラの回転を上げるが、言って聞くようなタイプでないことも分かっている。ならば、彼の力になるだけだ。


すると、弾かれたように斬竜(キル)の体が動いた。普通の人間なら一瞬見失ってしまうくらいの速度で。明らかに<一般的な地球人>の身体能力とは比べ物にならないことが察せられる。世界記録保持者のアスリートであっても、真似できるそれではなかった。


そんな彼女の姿を、若いティランタスも見失ったようだ。


「ッ!?」


明らかに動揺したのが見て取れる。そして次の瞬間、若いティランタスの太ももの付け根辺りからバアッと噴水のように血飛沫が上がった。


「ガアッッ!?」


若いティランタスが悲鳴を上げる。悲鳴を上げつつも自身の体に何が起こったのか確かめようとしてか頭を動かす。なのに今度は、反対側の太ももの付け根から同じように血飛沫が上がった。


その出血の勢いは、一見しただけで尋常なものでないのが分かる。見る間に地面に血溜まりができていく。間違いなくすぐに対処しなければ死に至る量だった。


斬竜(キル)だ。彼女が若いティランタスの太ももの付け根にある大きな動脈を切り裂いて致命的な傷を負わせたのだ。


彼女はそれを知っていたらしい。ゆえに彼女にとってこの若いティランタスは、


<危険な強敵>


ではなく、


<のこのこ自分の前に現れた迂闊な獲物>


だったのだ。もっと大きく育って皮膚と皮下脂肪が分厚くなればこんな簡単には十分な傷を負わせることはできなかっただろう。それを得る前に彼女の前に姿を現した未熟なティランタスの過ちであった。


そう。そんな些細なミスが死に直結する。これがこの世界なのである。



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