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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
32/96

小さな獣達、実に抜け目ない

斬竜(キル)がエレファントスの卵を食べるために入った穴は、どうやら彼女自身が掘って作った<隠れ家>の一つのようだった。穴の中には、卵の殻や動物の骨も散乱している。完全にエレファントスが去ってしまった後、彼女は卵を傾けて最後の一滴まで食べ尽くし、空になった殻を手に穴から出て、周りに何もいないのを確認して、卵の殻を放り、その場にしゃがみこんで小便をした。


まったくもって何一つ隠し事のない<命の営み>がそこにはある。


それから小便に爪で土を削ってかけて埋め、穴に戻った。どうやら寝るためだったらしく、三時間ほど出てこなかった。


一方、ティランタスの方も、捕らえたエレファントスをその場で貪り、腹が膨れるとそこに糞を残して去っていった。実はティランタスの糞は非常に臭く、その存在を強烈にアピールする効果がある。なので縄張りを主張するためにも残すのだ。


これにより、食い残した分も他の鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)に奪われる確率が減り、また戻ってきて食うこともできるというわけである。


ある種の<知恵>でもあるのだろう。


が、中にはそれをものともしない連中もおり、川イグアナ竜(イグアニア)もその一種だった。近くを流れる川から血の匂いを嗅ぎつけてやってきて、ティランタスが食べ残したエレファントスの肉を貪り始める。


さらには、ティランタスをネコくらいの大きさに縮めたような、マステラ竜(マステリア)と呼ばれる獣もどこからともなく現れて、川イグアナ竜(イグアニア)と互いに牽制し合いながらやはり貪っていく。


実に抜け目ない。


それらの一部始終を、錬義(れんぎ)が放ったドローンは記録していた。


そのドローンから送られてくる映像を端末で確認しながら、錬義(れんぎ)は満面の笑みを浮かべる。


「大収穫だ!」


実に嬉しそうに。ポケットに入れてあった干し肉を齧りながら。


そうして一通り観察を終えて、錬義(れんぎ)はミネルバを地上に下ろした。周囲一キロ四方に取り敢えず危険がないことは確認して。


小便をして、さらに体をほぐすためである。


すると彼の足元に忍び寄る影。ヘビだった。正確にはヘビによく似た別の動物ではあるものの、便宜上、ここではヘビと呼ぶ。しかも毒ヘビだ。


「ブーンッ!」


ミネルバがセンサーでそれを捉えて錬義(れんぎ)に知らせようとした時には、彼も察していて革製の分厚い靴で蹴り飛ばしていた。ヘビの方も噛み付こうとしたが、それよりも錬義(れんぎ)の方が早かった。


とてつもない身体能力である。


もっとも、それでなければこんなところでは一日と生きていられないだろうが。



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