エレファントス、散々な一日
そのエレファントスの全長は三十メートル余り。そしてティランタスの全長は十五メートル余り。倍以上の差があるが、エレファントスの場合は首だけで十メートル以上ある上に尻尾も長いので、胴体部分だけのサイズで言うと、実はそれほど差はなかったりもする。
とは言え、エレファントスの方が大きいことは変わりなく、普通に考えれば圧倒的にティランタスの方が不利だっただろう。しかしティランタスの顎の力は、その不利を一撃でひっくり返してみせるほどのものだった。
「ボォオオオオエェェェーッッ!!」
首の根元に食らい付かれたエレファントスは、悲鳴を上げた。その大きさからこの群れの最長老クラスだと思われるが、その個体がたったの一撃でそう悲鳴を上げたのだ。
なおも生きるために抗おうとするものの踏みとどまるだけで精一杯で、押し返すこともできない。
ゴリゴリと恐ろしい音を立てながらティランタスの牙がエレファントスの肉を切り裂きながら奥へ奥へと潜り込んでいき、やがて、
ゴギンッッ!!
と何とも言えない音がその場に響き、突然、エレファントスの動きが止まった。最後までティランタスの体に反撃を浴びせようと動いていた首も力を失って頭が地面に落ちる。と同時に膝が折れ体が地面に崩れ落ち、逆にティランタスに支えられる形になった。
首の骨が折られ神経が断たれ、命を維持できなくなったのである。
「ボオオオオーッ!」
仲間達は悼むように声を上げるが、獲物を仕留めたティランタスはもうこれ以上自分達を襲ってこないことが分かっているのか、巣へと戻っていく。
だがその時、
「バアアアアーツッ!!」
別の方からまた声が上がる。巣だ。巣を守っていた仲間が緊急事態を告げたのだ。
錬義が視線を視線を向けると、直径五十センチ以上あるエレファントスの卵を抱えている者の姿が。
「姫!!」
思わず嬉しそうに錬義が叫ぶと、それを合図にしたかのように、<卵泥棒>が走り出した。
凶竜の姫様だ。凶竜の姫様が卵を奪って逃走したのである。
巣に戻ってきたエレファントスのうちの数頭が、卵を抱えて走る凶竜の姫様を追う。
始めて彼女を見付けた時の錬義が見たのも、おそらくこうして卵を奪ったかどうかして追われていたところだったのだろう。
「あはは! さすがだな♡」
と錬義は嬉しそうに笑うものの、エレファントスにとっては、仲間の一頭はティランタスに殺されるは卵は奪われるはで、散々だったに違いない。
さりとて、これもこの世界の<日常>に過ぎないのもまた、事実ではある。




