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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
28/96

ティランタス、エレファントスを狙う

こうして夜を過ごし、空が白みだした頃、錬義(れんぎ)は目を覚ましてそそくさと片付けを始めた。


その上で地面に穴を掘ってそこに糞と小便を済ませて埋め直し、ミネルバに乗って離陸した。地上にいると鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)に狙われるからだ。


別に狙われるのは構わないが、あまり彼らの生活を乱すことも望んではいない。


そして彼は、上空から小さな湖になっている場所を見付け、そちらに向かった。その湖の周りには決して大きくはないものの木々も生い茂り、草も豊富に生えていた。それをエレファントス竜(エレファントス)をはじめとした草食の鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)らが食んでいる。


凶竜の姫様に初めて出会った時に彼女を追っていたエレファントスの姿もあった。錬義(れんぎ)は、かなりの確率で一度見ただけで鵺竜(こうりゅう)亜竜(ありゅう)の個体の区別がつく。初めて会った相手の顔を覚えていられる人間がいるのと同じ程度の感覚だろう。彼にとっては。


十数頭のエレファントスが集まっている中心には枯れた木が集められていて、そこに卵が見えた。エレファントスの巣だった。凶竜の姫様はそこから卵を奪い食べたのだろうか。それで追われてたのだろうか。


その辺りはもはや確認のしようもないだろうが、いずれにせよ今のところはおおむねエレファントスらも落ち着いているようで錬義(れんぎ)もホッとした。


しかしその時、落ち着いていたはずのエレファントスの群れがざわつくのが見えた。その理由も、彼はすぐに察する。


タイラント竜(ティランタス)……」


地球においては<ティラノサウルス=レックス(T-REX)>の名前の由来となった<タイラント>にあやかりつけられたその名を、口にする。


その彼の視線の先にあったのは、全長十五メートル超の、T-REXによく似た鵺竜(こうりゅう)だった。それが、エレファントスの群れに近付いていたのだ。もちろん狩りのために。


地球におけるT-REXは、その巨体ゆえにあまり素早く動くことができず実際には狩りをするよりも死んだ動物の肉を食べていたのではないかとも言われているが、鵺竜(こうりゅう)におけるタイラント竜(ティランタス)は、T-REXと違い前足も長く太く、場合によっては四本足で歩くこともできた上に前足を手のように使い獲物を捕らえることもできるからか非常に能動的に狩りをする。もちろん、たまたま死んだ動物が見付かればそれを食うこともするが。


いずれにせよ、タイラント竜(ティランタス)は、現在の地球の動物で言うとチーターに近い狩りの仕方をするとみられていた。基本的に単独で、走って獲物を捕らえるのが多いからである。



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