凶竜、人間に対する憎悪
凶竜の姫様が焼いた陸イグアナ竜を貪るのを見ながら、錬義も陸イグアナ竜にかじりついた。けれど、彼女は自分の分を食べきるとまた視線を送ってくる。
それを見て錬義はまたもう片方の後ろ脚を掴んで同じように引きちぎり、彼女に向かって差し出す。すると今度は、彼の手からひったくるようにして受け取り、ガツガツと貪る。
その様子もまた、錬義は目を細めて見ていた。本当に愛おしそうに。
彼にとってはたまらなく愛らしい姿だったのだろう。
それと同時に、
『<凶竜の姫様>には、人間に対する憎悪がない』
ことを改めて確認する。そう、<凶竜の姫様>は、<凶竜>ではないのだ。凶竜は必ず人間を激しく憎んでいる。いや、逆に、
『人間を激しく憎んでいるからこそ<凶竜>と呼ばれる』
のだ。
しかし、その憎悪は必ずしも子孫には受け継がれないことも、予測されていた。錬是から遠く離れた場所に移送された凶竜の監視を続けていると、種の近い鵺竜や亜竜と番ったり、自家受精して子を残したりした凶竜がいて、その子供らは明らかに親である凶竜とは異なる性質を見せた。
もちろん、実際に人間が近付いて確認するのは危険なので行われてこなかったが、凶竜の子供らは、監視のためのドローンが近付いても、警戒はするものの露骨に攻撃を加えようとはしない傾向にあったのである。
ただ、親がゴキブリやクモを恐れていると子供もゴキブリやクモを恐れるようになるように、人間や人間の存在を窺わせる機械などが近くにいて凶竜がそれに激しく反応すればその親の姿を学び取る可能性はあったものの、基本的に凶竜を刺激し過ぎないように近付くことは避けられていたこともあり、学び取る機会もあまりなかったようだ。
しかし同時に、凶竜は基本的に非常に攻撃的で凶暴な性格をしているものが多く、そういう部分についてはやはり似る傾向にもあるとも推測されている。
そして今まさに、錬義はその仮説が正しい可能性が高いことを自ら実証してみせたのである。
凶竜の姫様は非常に攻撃的で凶暴な一面も持ちつつ、人間そのものには強い憎悪を抱いているわけではない。もし人間を憎悪していたなら、今頃、確実に殺し合いになっていたはずだ。
けれど錬義は、最初に彼女に出逢った時にはもうすでに確信を得ていた。彼女が人間そのものを強く憎悪しているわけじゃないと。凶竜は基本的に、人間を前にして逃げることはほとんどないのだ。ただとにかく人間を殺そうと、自身の命すら顧みず攻撃を仕掛けてくる傾向にあったのである。




