心理的な影響を与えるための機能
錬義が仕留めた川イグアナ竜を放り出したのは、そちらに関心を向けさせるためである。それにより自分に襲い掛かる川イグアナ竜を減らすのだ。
その狙いは見事に当たり、死んだ仲間を貪るために川イグアナ竜らはそちらに群がった。おかげで彼自身は三匹相手にするだけで済んだ。
水筒にたっぷりと水を汲み、川イグアナ竜一匹を捕らえた錬義は悠々とミネルバの下まで帰ってきた。
「ブーン…」
ミネルバがまたプロペラを回転させるものの、それはまるで、
『おかえり』
とは言いつつも少し不機嫌そうなそれのようにも聞こえた。とは言え、ロボットであるミネルバに<心>も<感情>もない。それっぽい反応をしてみせることで、自身の主人に心理的な影響を与えるための機能だった。
<強い孤独感を味わわせない機能>
とでも言うべきか。要するにペットロボットが主人に愛嬌を振りまくのと同じである。
錬義は、それを承知している。承知した上でミネルバを<相棒>だと思っている。心のあるなしは重要じゃない。自分がミネルバを必要とし、信頼しているならそれで充分、相棒になる。
そう思っているのだ。
だから、
「ごめんごめん」
と労ったりもする。自分がミネルバの存在に癒されていることを表現するために。
そしてコンロとコッヘルを用意し、まずはまたラーメンを作り始めた。水は先ほど汲んできたものを使う。濾過されその上で煮沸するとは言え、地球人ではそれすらためらうかもしれないことを、彼はまったく平然と行う。
それが当然であるがゆえに。それができる生態を自身が有していることを知っているがゆえに。
湯が沸くと、ラーメンをそこに投入。二分ほど待つ。さっそく、スープのいい匂いが立ち込めてくる。
が、その時、
「ブンッッ!!」
ミネルバが強く鋭くプロペラを回し、身じろぎさせた。まるで警戒を促すように。もっとも、錬義も同時に察していたが。
闇の中に、金緑色の光が二つ。獣の目が、コンロの炎の光を反射しているのだ。
その距離、約二十メートル。まさかここまで接近を許すとは。確かに基本的にはウルトラライトプレーンとしての機能が優先されて作られているミネルバのセンサーの感度は、警備用のそれらに比べれば低い。しかしサススクロファ竜などが近付いていれば、数百メートル先からでも察知できる。
なのに、気付かなかった。錬義さえも。
けれど、錬義は笑っていた。嬉しそうに。
「ははっ! まさか彼女から来てくれるなんて……♡」
それこそ、想い人を出迎えたかのように。




