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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
23/96

心理的な影響を与えるための機能

錬義(れんぎ)が仕留めた川イグアナ竜(イグアニア)を放り出したのは、そちらに関心を向けさせるためである。それにより自分に襲い掛かる川イグアナ竜(イグアニア)を減らすのだ。


その狙いは見事に当たり、死んだ仲間を貪るために川イグアナ竜(イグアニア)らはそちらに群がった。おかげで彼自身は三匹相手にするだけで済んだ。


水筒にたっぷりと水を汲み、川イグアナ竜(イグアニア)一匹を捕らえた錬義(れんぎ)は悠々とミネルバの下まで帰ってきた。


「ブーン…」


ミネルバがまたプロペラを回転させるものの、それはまるで、


『おかえり』


とは言いつつも少し不機嫌そうなそれのようにも聞こえた。とは言え、ロボットであるミネルバに<心>も<感情>もない。それっぽい反応をしてみせることで、自身の主人に心理的な影響を与えるための機能だった。


<強い孤独感を味わわせない機能>


とでも言うべきか。要するにペットロボットが主人に愛嬌を振りまくのと同じである。


錬義(れんぎ)は、それを承知している。承知した上でミネルバを<相棒>だと思っている。心のあるなしは重要じゃない。自分がミネルバを必要とし、信頼しているならそれで充分、相棒になる。


そう思っているのだ。


だから、


「ごめんごめん」


と労ったりもする。自分がミネルバの存在に癒されていることを表現するために。


そしてコンロとコッヘルを用意し、まずはまたラーメンを作り始めた。水は先ほど汲んできたものを使う。濾過されその上で煮沸するとは言え、地球人ではそれすらためらうかもしれないことを、彼はまったく平然と行う。


それが当然であるがゆえに。それができる生態を自身が有していることを知っているがゆえに。


湯が沸くと、ラーメンをそこに投入。二分ほど待つ。さっそく、スープのいい匂いが立ち込めてくる。


が、その時、


「ブンッッ!!」


ミネルバが強く鋭くプロペラを回し、身じろぎさせた。まるで警戒を促すように。もっとも、錬義(れんぎ)も同時に察していたが。


闇の中に、金緑色の光が二つ。獣の目が、コンロの炎の光を反射しているのだ。


その距離、約二十メートル。まさかここまで接近を許すとは。確かに基本的にはウルトラライトプレーンとしての機能が優先されて作られているミネルバのセンサーの感度は、警備用のそれらに比べれば低い。しかしサススクロファ竜(サススクロファ)などが近付いていれば、数百メートル先からでも察知できる。


なのに、気付かなかった。錬義(れんぎ)さえも。


けれど、錬義(れんぎ)は笑っていた。嬉しそうに。


「ははっ! まさか彼女から来てくれるなんて……♡」


それこそ、想い人を出迎えたかのように。



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