錬義、握撃
しかし今度は、昨夜の<いくつもの巨岩が重なり合った場所>のようなものは見当たらなかった。数頭のストルティオ竜が集まっているのは確認できたが、そこは地面に穴を掘って<巣>にしているだけのものだった。基本的にはそれがストルティオ竜の種の巣である。
さすがにそれは錬義の寝床にはならない。
「仕方ないか。今日は」
そう言って彼は川から百メートルほど離れたところにミネルバを降下させ、精々高さ十センチ程度の草がいくつかまとまって生えているだけの場所に降り立った。できれば昨夜のような場所が好ましいものの、それがないなら逆に見通しのいい場所で、危険な動物が接近していたらすぐに察知できるようにするのがいつものことだったのだ。
錬義自身、優れた目と耳と鼻と皮膚を持ち、一キロ先に鵺竜が現れても察知できる能力がある上、ミネルバが常に全周囲を警戒してくれるため、近くに鵺竜や亜竜さえいなければ、たとえいたとしても草食のそれであれば、あまり気にしないでいられる図太さもある。
なので錬義は地面に下りると早速ビバークの準備を始めた。と言っても、やはり食事をとり<着る寝袋>にくるまってミネルバの翼の下で寝るだけだが。
そんなわけでまず食事の用意である。が、水筒の水が残り少ない。そこで錬義は、百メートルほど先にあった川へと向かった。川の辺でビバークしてもよかったのだが、いかんせん例の水棲の<川イグアナ竜>が生息しているのは分かっているので、あまり近くにいると襲い掛かってきて面倒なのは分かっており、少し離れたところに下りたのだ。
「ブーン!」
まるで心配するかのようにミネルバがプロペラを回転させるものの、錬義は、
「大丈夫、心配ないよ、ヤバくなったら呼ぶから」
折り畳み式の水筒を手に河へ向かって歩き出した。川までは何の問題もなく辿り着けた。川の辺には、背の低い草が生い茂っている。サススクロファ竜などはこの草を目当てに川の傍を拠点にする。とは言えここにはいない。
が、錬義が水を汲むために水筒の口を川に浸けようとすると、
バシャッ!!
と水音をさせながら川イグアナ竜が牙を剥いて飛び出してきたものの、錬義は逆にそれを空中でキャッチ。凶竜の姫様と同じく握撃で瞬殺する。それを川に向かって放り投げると、続けてもう二匹、飛びかかってきた。
けれど錬義は慌てることなくそれらを両手でキャッチし、握撃で仕留める。そして一匹はやはり川に放り投げ、もう一匹は手にしたまま川に浸けた水筒を拾い上げた。すると水筒には水が目いっぱい溜まっていた。実は口の部分が濾過機を兼ねたポンプになっていて、自動で水を吸い上げ濾過してくれるのである。




