凶竜の姫様、静かに狙う
こうして<凶竜の姫様>の行動を観察した錬義は、ますます彼女に惹かれていった。
そして、糞を済ませた彼女がしばらくするとまた他の動物に目をつけたらしいのを察する。
今度は、地面に掘った穴から頭を覗かせて周囲を窺っていた、イグアナに似た動物だった。さっきは河に住んでいた水棲の種だったようだが、こちらは近似種だが陸棲ということだろうか。
「陸イグアナ竜の仲間か」
双眼鏡で確認し、錬義が呟く。その彼が見詰める<陸イグアナ竜>に狙いを定めたらしい凶竜の姫様が、地面に体を伏せてじりじりと迫っているのが確認できる。腹はもうかなり凹んできていたようだ。
しかし、陸イグアナ竜の方も、何やら得体の知れないものがいることに気付き、穴の中に隠れてしまう。この陸イグアナ竜は、<プレーリードッグ>のような生態をしているようだ。群れを作り、地面に穴を掘り、多くの時間をその中で過ごす。地面には、そのための穴がいくつも開いていた。
陸イグアナ竜が姿を消したのとは別の穴からも、顔を出しているものがいる。こうして周囲を見張っているのだろう。
凶竜の姫様は地面に伏せたまま動きを止め、機会を窺う。先ほどのサススクロファ竜の幼体を仕留めた時とはまるで違い、実に静かな攻防だ。このような狩りの仕方もできるということか。
実に強かな命を持っているというのもこれで分かる。
そして、固まってしまったように動きを止めて数分。再びさっきの穴から陸イグアナ竜が頭を覗かせた。
瞬間、凶竜の姫様の姿が消えた……!
いや、違う。すさまじい速度で移動し、穴から顔を覗かせた陸イグアナ竜の首を掴んだと同時に握撃で仕留めたのだ。一瞬で首の骨が圧壊した陸イグアナ竜がぐったりする。
そして凶竜の姫様は、捕らえたそれを頭からバリバリと貪り始めた。今度はそれこそ骨ごとだ。このくらいの大きさの生き物であれば、骨ごと丸ごと食えるということだと思われる。溢れる血も、残さず飲み干しつつ。
全長七十センチはあろうかという陸イグアナ竜を頭から齧って尻尾まで綺麗に食べてしまった凶竜の姫様は、取り敢えず満足したのか立ち上がってまた歩き出した。
その彼女の前を、太陽がゆっくりと地平線に向けて下りていく。
「そろそろか……」
赤く染まる空に包まれている錬義も、そんなことを呟いた。ミネルバの翼の一部を構成しているソーラーパネルからの発電が、消費電力を下回ったからだ。
なので、凶竜の姫様の観察は一時中断。今夜の寝床を探したのだった。




