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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
18/96

凶竜の姫様、錬義を睨み付ける

こうしてまるで妊娠したかのような大きな腹を抱えた<凶竜の姫様>は川から上がり、とぼとぼと荒野を歩き出した。そんな彼女を、錬義(れんぎ)が双眼鏡越しに見る。


「あはは! 本当にすごいな! まさに<凶竜の姫様>だ! 素敵だよ!」


旋回するミネルバの操縦席で上げた錬義(れんぎ)のその声が届いたかのように、


「……」


凶竜の姫様がギロリと上空を見上げた。いや、本当に聞こえたのだろう。あの、


<なんか不快な獣>


であることを確信して、警戒したのだ。しかも、双眼鏡越しに錬義(れんぎ)と目が合う。


すると彼の胸がドキリと高鳴った。


「あはは♡ これはこれは! もしかするとこれが<恋>ってやつかな!?」


彼はそう声を上げて、自分を抱き締めるように腕を絡める。と、


「ブーンッ!!」


と急にミネルバがプロペラの回転を上げた。抗議の声を上げるかのごとく。そんなミネルバに、


「なんだよ! いいじゃないか! 僕だって(おす)なんだ! 素敵な異性と出逢ったら恋くらいするさ!」


と応える。


「彼女をお嫁さんにできたら、本当に素敵だろうな!!」


テンション高く錬義(れんぎ)は声を上げる。そしてミネルバは、


「ブーン! ブーンッ!!」


と再びプロペラの回転を上げたのだった。




そんなこんなで、錬義(れんぎ)は本格的に彼女の観察を決めたようだ。取り敢えずは、上空から彼女の行動の把握に努める。


彼の使っている双眼鏡は、光学補正の機能が付いた高性能なものだった。最大、二キロ先の小石まではっきりと捉えることができるという。これも、<失われた技術>で作られたものであり、すでに作られてから三千年以上経っているそうだ。


それを、朋群(ほうむ)人達は代々大切に使ってきた。今の彼らの技術では、同じものは作れないがゆえに。


もっとも、単純なレンズだけの双眼鏡や望遠鏡であれば作ることはできるし、実際にそういうものが一般に流通もしている。


けれど、まだまだ<失われた技術>を部分的に模倣しているにすぎず、技術格差は数千年分あると言えるだろう。


しかし彼らは、それで困っているわけでもない。非常に高い身体能力で、たいていのことは補えてしまうからだ。彼らは、裸で自然の中に放り出されても自力で生き延びてみせる。数日どころか数年レベルで。


生物としてのバイタリティが、野生動物のそれなのだ。


だから、<生きる力>が強そうな者こそがモテる。錬義(れんぎ)が凶竜の姫様に惹かれたのも、当然と言えるかもしれない。彼のタフネスぶりには、彼女こそが釣り合うがゆえに。


とは言え、相手はどうやら人間の言葉すら通じない様子。となれば、アプローチも人間相手のそれとは異なって当然だと思われる。



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