錬義、姫に夢中になる
「すごい……! すごいな、彼女……!!」
錬義は、ミネルバに乗ったまま上空から一部始終を観察した。
ストルティオ竜の亜種もサススクロファ竜の亜種も気になったが、それ以上に彼の眼は、凶竜の姫様に釘付けになっていた。
けれど、ストルティオ竜の亜種もサススクロファ竜の亜種も去ったことで余裕ができた凶竜の姫様が、自分の上を旋回する異様な<鳥>に改めて意識を向けて、
「ぐぅるるるるっるるるぅぅ……っっ!!
血まみれの口から牙を剥き出して威嚇するように睨み付けた。
もちろん、錬義はそんなことでは怯まない。しかし、
「食事の邪魔をするのはさすがに野暮かな……」
そう呟いて操縦桿を引き、ミネルバを上昇させた。そして、旋回の半径も大きくとる。当然それでも凶竜の姫様からは見えるものの、諦めたようにも見えたのか、それとも、自分が食べ終わった後の屍肉を狙っていると考えたのか、また獲物を貪り始めた。
なお、この時、先に錬義が放ったドローンも少し離れたところから記録していたのだが、こちらは掌くらいの大きさしかないこともあってか、凶竜の姫様が気にしている様子は特になかった。
こうして彼女は、固い皮膚を引きちぎって捨て、柔らかい部分にぞぶりと喰らいつき、噛み切り、ぢゃぐぢゃぐと租借し、溢れ出る鮮血と共にごぐりと飲み下す。その所為で彼女の顔の下半分から、胸、腰、脚に至るまですべて真っ赤に染まり、恐ろしい姿となっていた。
さらに、彼女の食欲はすさまじく、およそ人間では普通は食べられないであろう量を喰らってみせた。それによりサススクロファ竜の幼体の首から胸の辺りまですっかり骨だけとなっていく。
反対に、彼女の腹は、まるで妊娠でもしたかのように膨れている。それから彼女は、その場で突然、じゃああっ!と盛大に尿を放った。たっぷりと血を飲んだことで十分に水分が補給でき、体内の老廃物を尿と共に排出したのかもしれない。
それからおもむろに立ち上がり、周囲を睥睨するかのように視線を巡らせて、膨れ上がった腹を抱えて歩き出し、そのまま川に入っていった。体についた血を洗い流そうということだろうか。
彼女が離れると、それを待っていたかのごとくに、どこから現れたのか鳥やトカゲのような小動物が集まってきて、サススクロファ竜の幼体を貪り始めた。
川からも、イグアナに似た動物が何匹も上がってきて、やはり屍肉に群がる。一部は凶竜の姫様にも襲い掛かろうとしたようだが、彼女の手に捕らえられて、そのまま握り潰されて死に、さすがにもう食欲は満たされたらしい彼女が川に放り出すと、イグアナに似たその動物は、死んだ仲間にも群がったのだった。




