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凶竜の姫様  作者: 京衛武百十
出逢い
17/96

錬義、姫に夢中になる

「すごい……! すごいな、彼女……!!」


錬義(れんぎ)は、ミネルバに乗ったまま上空から一部始終を観察した。


ストルティオ竜(ストルティオ)の亜種もサススクロファ竜(サススクロファ)の亜種も気になったが、それ以上に彼の眼は、凶竜の姫様に釘付けになっていた。


けれど、ストルティオ竜(ストルティオ)の亜種もサススクロファ竜(サススクロファ)の亜種も去ったことで余裕ができた凶竜の姫様が、自分の上を旋回する異様な<鳥>に改めて意識を向けて、


「ぐぅるるるるっるるるぅぅ……っっ!!


血まみれの口から牙を剥き出して威嚇するように睨み付けた。


もちろん、錬義(れんぎ)はそんなことでは怯まない。しかし、


「食事の邪魔をするのはさすがに野暮かな……」


そう呟いて操縦桿を引き、ミネルバを上昇させた。そして、旋回の半径も大きくとる。当然それでも凶竜の姫様からは見えるものの、諦めたようにも見えたのか、それとも、自分が食べ終わった後の屍肉を狙っていると考えたのか、また獲物を貪り始めた。


なお、この時、先に錬義(れんぎ)が放ったドローンも少し離れたところから記録していたのだが、こちらは掌くらいの大きさしかないこともあってか、凶竜の姫様が気にしている様子は特になかった。


こうして彼女は、固い皮膚を引きちぎって捨て、柔らかい部分にぞぶりと喰らいつき、噛み切り、ぢゃぐぢゃぐと租借し、溢れ出る鮮血と共にごぐりと飲み下す。その所為で彼女の顔の下半分から、胸、腰、脚に至るまですべて真っ赤に染まり、恐ろしい姿となっていた。


さらに、彼女の食欲はすさまじく、およそ人間では普通は食べられないであろう量を喰らってみせた。それによりサススクロファ竜(サススクロファ)の幼体の首から胸の辺りまですっかり骨だけとなっていく。


反対に、彼女の腹は、まるで妊娠でもしたかのように膨れている。それから彼女は、その場で突然、じゃああっ!と盛大に尿を放った。たっぷりと血を飲んだことで十分に水分が補給でき、体内の老廃物を尿と共に排出したのかもしれない。


それからおもむろに立ち上がり、周囲を睥睨するかのように視線を巡らせて、膨れ上がった腹を抱えて歩き出し、そのまま川に入っていった。体についた血を洗い流そうということだろうか。


彼女が離れると、それを待っていたかのごとくに、どこから現れたのか鳥やトカゲのような小動物が集まってきて、サススクロファ竜(サススクロファ)の幼体を貪り始めた。


川からも、イグアナに似た動物が何匹も上がってきて、やはり屍肉に群がる。一部は凶竜の姫様にも襲い掛かろうとしたようだが、彼女の手に捕らえられて、そのまま握り潰されて死に、さすがにもう食欲は満たされたらしい彼女が川に放り出すと、イグアナに似たその動物は、死んだ仲間にも群がったのだった。



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