ミネルバ、錬義に寄り添う
岩の上で自身の翼を屋根代わりに眠る錬義に、ミネルバはただ寄り添った。
彼女は単なる<ウルトラライトプレーン型のロボット>だが、錬義とは長年を共にした<相棒>でもある。そんなミネルバは、自身のセンサーをフル稼働して、錬義のバイタルサインを収集した。彼の体調を確実に把握するためである。
<連是>では、ロボットは人間達にとっても大切な<仲間>だった。あくまで<道具>でもありつつ、ミネルバくらいの性能を有するロボットは、新たに作り出すことができない希少なものなので、特に大切にされる。
ミネルバの機体を構成するパーツを作るための材料がもう手に入らないのだ。だから、現在稼働中のロボットの多くがすでに製造されてからも数百年が経過している。特に、七賢人と呼ばれる最古のロボット群の中でも<メイフェア>と<イレーネ>に至ってはすでに製造されてから三千年の時間が経っていると言われている。
実は、竜女帝を退けた際のダメージという以上に、メンテナンスを行うための資材すらもう残り少なく、それを節約するために、百年単位の<眠り>につくことになったのだ。
その間にも、必要とあらば随時目覚めることにはなっているものの、幸い、竜女帝の一件以降は七賢人の力を頼るほどのこともなく、眠りを妨げずに済んでいる。
朋群人達は、その眠りの意味を理解しており、極力、七賢人の眠りを妨げないようにも心掛けていた。
ミネルバ達、七賢人らに続いて作られたロボットも、先達の眠りを妨げないように自身の能力を最大限に活かし、人間達を支えてくれていた。
そしてミネルバ自身、すでに三百年も活動を続けている。錬義は<七代目の主人>だった。
これまでの六人の主人に比べても、錬義はいささか無鉄砲が過ぎる主人だっただろう。いくら身体能力が朋群人の中でも飛び抜けて高いとはいえ、別に不死身というわけでもない。
ただただ頑健だというだけだ。
だからミネルバとしては、無茶は避けてほしいと思っている。ロボットは、人間を危険から守り、その寿命を全うする手助けをするのが役目なのだから。
とは言え、眠っている時の錬義は、幼かった頃からさほど変わっていないようにも見える。とてもあどけない寝顔だ。それをカメラで捉えて記録しつつ、周囲の警戒も怠らない。
何か危険が迫れば、すぐに錬義を叩き起こして臨戦態勢を取る。これまでにも散々行ってきたことだ。
でも、この日は幸い、穏やかな夜だった。
そんなミネルバと錬義を包むかのような夜空に、流れ星がサッと奔ったのであった。




