他の命も守れなくなる
<炙り卵>と言うか、作り方としては、
<卵の殻そのものをフライパン代わりにして作った目玉焼き>
といった感じのものに胡椒らしきものを振りつつ、錬義は木の匙でそれをモリモリと食べていった。
彼に卵を奪われたストルティオ竜も、それ以降は彼が姿を見せず、残りの卵も無事だったことで気持ちを切り替えたのか、落ち着いた様子だった。この辺りがやはり<野生>というものだろう。いつまでも過去に囚われていては、他の命も守れなくなるからだ。
そして卵を食べ進んだ錬義は、遂に<黄身>へと辿り着いた。それは、ニワトリの卵に比べると、かなり赤みの強い色をしていた、むしろ<血の色>を思わせるような赤さだったかもしれない。
しかし錬義はそれにも構わず胡椒を掛けて匙で掬って頬張る。
「おお~っ! 亜種らしいとはいえやっぱストルティオ竜の卵は味が濃いなあ!!」
嬉しそうに声を上げた。すると、岩の下にいたストルティオ竜らがギロッと上を見上げる。再び警戒しているようだ。
もっとも、さすがに自分の頭より大きな卵を一つ平らげては腹も満たされて、錬義は布切れでコッヘルを拭いて片付け、空を見上げた。
日は傾き、すでに明るい星は光を放ちつつある。その中で。
「もう少し見てられるかな」
岩の上から下を覗き込み、ストルティオ竜の亜種らしき亜竜の様子を見届けた。
まだわずかに警戒している様子も見られつつ、落ち着いている。
『やっぱり、模様のパターンがストルティオ竜とは少し違ってるな。錬是の麓にいるのとは若干違う種って言っていいだろうな……』
研究者らしくそんなことも考え、同時にメモに書き込んでいった。その上で、
『卵は美味い』
とも。
こうしてストルティオ竜(の亜種)の観察を続け、完全に日が暮れて、地上は闇に包まれ、空は無数の星に包まれたところで、
「ま、今日はこんなところかな」
メモのページをミネルバのカメラの前にかざして画像としてもそれを残し、バックアップが終わるとメモをポケットに収め、
「ふう……」
小さく溜息を吐いた。
『今日の仕事はおしまい!』
とでも言いたげに。
そんな彼の溜息が少し白くなっていた。
この辺りは乾燥しているため、日が暮れると一気に冷え込んでくる。昼間も、防寒着は着込んでいてもそれ自体が日差しを遮ってくれるので意外と暑くないという気候だった。
なので、装備していた寝袋を着込む。もっとも、<寝袋>と言っても手足が自由に動く、
<着る寝袋>
と呼ばれるタイプのものだったが。
それをまとった錬義は、ミネルバの翼をまるで屋根代わりにしてごろんと横になり、
『そろそろ体も洗った方がいいかなあ……』
なんてことを考えながら、すぐに寝息を立て始めたのだった。




