デート?とバカと剣の奇跡
「ふーん、あんたセンスはいいのね、変態だけど」
「だから使用用途を説明したろ、変態変態言うんじゃねぇ」
普通に普通の服に身を包んだごく普通じゃない美少女と言うのはなかなかに可愛らしい、まぁ、不用意に近づくと魔道具である指輪内に格納された美少女愛用の大剣で仕留められるだけなのだが…
「そういえばなんでいつもみたいに剣で全部解決してねぇんだ。できなくはないだろ」
「はぁー、奇跡はあんまり打ちまくり過ぎると弱くなんのよわかってて言ってるでしょ」
ッチ、そういうところはしっかり管理してやがって…こいつの奇跡は魔法と違い過程も工程も無茶苦茶に見えるが実際にはその剣が生み出す軌跡とそれによって発生する事象には明確な法則性がある。だがそれがわかったところで因果律やら黄金律やらへの直接接続を防ぐ方法は少ないし、こいつの剣筋を見極められる学生などそうそういない…
まぁ、『神秘の秘匿』と言うのは結局のところ自衛手段である。奇術にタネも仕掛けもある様に魔法には体系だった構造があり強みがあれば弱点がある。俺は純粋な魔法使いであり呪文使い、特化型魔道具は弱点が露見しても押し切れるだけの出力や研ぎ澄まされた強みが有るがそれがないやつは普通できる限り手札を伏せておくのが重要だ。
「そう言っても人気が無いとこで適当に呼びだしゃいいじゃねぇかよ、服の一枚や二枚だろう?もしくは治しちゃえばよかったろ」
「はぁーわかってないのねあんた」
何がわかってないと言うのか…スリーサイズは知らんし興味もないが…
「昨日死ぬほどぶん殴ってくれちゃったのはアンタでしょうが…」
「あ?あぁ…なんだ副作用か」
そうか、そういえば仕込んだな劣化再現魔法北欧ルーン式『アンサラー』アレには相手の攻撃の予兆を自動検知し『硬化』『強化』『加速』を五重発動、その後肉体の反射限界を越えて自動的に相手をぶちのめす魔法だが、その際グローブやブーツには無意味混沌による発動体の無効化と術式破壊・鈍痛などのデバフを押し付ける魔法を発動させる様になっている。
「んでもさっきまで剣が使えなかったって訳でもねぇだろ」
「まぁね、そこまでやわじゃないし、でもめんどくさいのよ」
まぁ昔は毒食らって魔法を打てるだけでも一流だったそうだし、特化型魔道具全盛の今も状態異常を喰らった時に平静を保てるかどうかと魔法を使えるかどうかはかなりの難題だ。
「ついたわね」
そこは学生用の購買というにはあまりにも大きすぎた。豊富な品揃え、良心的な価格、広さそのどれを見ても超大型アウトレット並みの商業施設だった。
ま、おふざけはこれくらいでさっさと中に入ろう。こいつを風呂に入れたり服を着せたりしてるうちにもう紐傾き始めている。
「ん、そうかじゃあさっさと済ませようぜ」
「バカね、こんな美少女といるんだからどんな長い買い物でも付き合うのよ、いえ、もはや感謝すらしてほしいわ!」
「へいへい、かわいい女の子と買い物できてウレシーデスー」
脇腹をどつかれたがマジで急がないと…
「なんでそんな急いでんのよ」
「一応購買だからなここ、18時にはしまんだよ24時間やってんのは食料品とか売り場だけでお前のほしい家具やら食器やらはそこで終わり、どうせ部屋ん中すっからかんなんだろ?」
「え…16時じゃん今!やばいわ!」
だから言ってんだよ!
「二手に分かれるのは悪手だなとりあえずお前がほしいものがある店を片っ端から行くぞ、荷物は全部仕舞う」
「わかったわ、んじゃ三階の奥、寝具店から行くわよ」
ふーん、ベッドからねまぁ入らなくはないけど…ちょっと心配になってきたな
案の定というか、当たり前だが俺の持ってる亜空間は家の家具を全部しまえる様なもんじゃない、ベッドと椅子、テーブルはとりあえず詰め込み雑貨と服は最低限を収納、残りの買い物は全部郵送だ。
「んがー終わったわ」
「疲れた…」
時刻は17時30上の階は店じまいの準備中だ。今はコイツの奢りでケーキと紅茶で疲れを癒している所…俺はチーズケーキとコーヒーだが、まぁ喫茶店で茶をしばいているといえば間違い無いだろう。
だが平穏というのは容易く崩れるものだ。
「へい、一年生、俺たちと飯でも食わね?」
「アニキ彼氏持ちじゃないですカァ…」
「いいんだよお前、杖使いだろ知ってるぜ校舎そばで雑魚ババアに焼かれてたもんなぁ?」
あー、めんどくさ、とりあえずコイツらの命を心配しないといけないのでチラッとアンジェリカを見るが…
「(きゃー、デート中に柄の悪い男に絡まれるとかマジラブコメ!遭ってみたかったのよこういう展開、さすがトラブルメーカーね、完璧すぎるわ!)」
あ、だめだいい具合にトリップしてる。剣を取り出してバラバラはしなさそうだがこれはこれでめんどくさい、そう思ってると逆にあいつからガンを飛ばされる。
「(なんとかしてよね、そうじゃないと…もぐわ)」
アッハイ、もがれたく無いので頑張ろう。
「あー、上級生の方で「うっせぇしゃべんな雑魚が!」…ハァ」
やばい、どうしよう。こういう時脳死でブン殴れればいいんだが慰謝料とか正当防衛とか考えると先に手を出すわけにはいかないのだ。
「っへ、兄貴にビビってんのかぁー?」
そんで俺の前にチンピラっぽいのが立ち塞がり、
「いいからこっちで遊ぼうぜぇ?」
「キャッ(歓喜)」
あのゴリラがアンジェリカの腕を掴み引っ張る。
うん、マジでテンプレみてぇな展開だなぁ…じゃあ何、俺はどうすればいい訳ですかね!?…いいや、あほくさチーズケーキ食ってから考えよう。
…
……
「え、お前助けに行ったりしないタイプ?」
沈黙に耐えかねたのかチンピラが話しかけてくる。
「ちょっと待ってくれ、チーズケーキ食ってから行くよ最近金欠で甘いもんとか久しぶりなんだ」
再びチンピラが硬直する。その間に俺はコーヒーを飲み、一息ついたのでぬるりと抜け出す。
「お、おう?そうか、まぁだがこっから先は「んじゃ御馳走様ー支払いはあいつのカードで」ぬ!?」
外に出るとちょうどこのクソ広い割に防犯がしっかりしている店からようやく出る所だったらしい、まぁ人一人抱えてたらそれくらいか、俺は空間遷移でアンジェリカの近くに出現する。
「うぐぉ!?お前どうやって」
「アキラくん!(遅いよ!もっとスパッと助けてよ!)」
…しょうがないので持ってた財布とラブコメバカの位置を入れ替えお姫様抱っこで助けてみる。
「きゃっ、あ、ありがと…(やればできるじゃん!もっとそういう感じで)」
「…マジで俺何やってんだろぅ…もうなんかマジで疲れてきた」
とりあえず一応彼女を後ろに庇ってゴリラチンピラを見上げる。いやぁでかいな、何センチあんだろ3mくらい?
「空間遷移!高等魔法じゃねぇかさては杖がメインじゃねぇな!?」
「いや、杖使いで合ってるよそういうあんたは…ナックルとピアスかな、系統は肉体強化系と治癒、多分遠距離がちょっとかな隙がなくていいっすねぇ」
ゴリラの気配は大きくなる。身体強化…純粋な魔力操作によるものか、ナックルは刻まれたルーンで効果と強化と硬化に相乗を組み合わせた殴り合い3点セット、ブーツには回数制の加速宝珠…おいおいガチ装備すぎんだろ毎日こんなことしてんのか?
「去ねやぁゴラァ!」
「あら早い」
目測で3メートル近い巨漢の姿が掻き消えんばかりに加速して突っ込んでくる。まぁ良けりゃいいんだが一応後ろに人を庇ってるってこともあるし、一発擦り傷でもなんでも喰らっておかないと正当防衛が認められないので俺も自分自身に硬化のルーンと混成積層物理障壁を三十二枚、張り巡らせた。
ゴガァ!と言うまるで人間の出す音とは思えない様な爆音が響き渡り軽めに貼ったとはいえ障壁が全損したうえでクロスした俺の腕にバッチリと相手の拳が命中していた。
「ハンっ!大した事「大した事ないなぁ、特化型だろあと三倍は威力がないとなぁ?」っ!?」
俺の手がやつの腕をガッチリと掴む。勢いよく引き抜いて拘束を緩めようとしているが…
「な!なんだ!何をした!?」
「掴んでるだけだよ…なるほど鍛え方が甘いのかな?」
拳を固め、相手を引き寄せ一切の魔法を使用せずぶん殴る。
「オゴッ!?」
だが腐っても魔法学園の生徒、咄嗟のルーン魔法による硬化でダメージを抑え活性で簡素な治療を施している。だが…
「おっぐ!アガッ!?」
二撃三撃、続けば続くほどに相手の集中は乱れていく。いくらタフでも、幾ら痛みを堪えて魔法が使えてもその両方を責め続ければ心は持たない、
「っが、っぐ、っご、っごぉ!?ぐげ!」
腕を引いて体勢を崩しどこを殴るも自由自在、こっちは魔法ありの強撃だったが俺のは魔法無しのただの殴打だ。だがまぁ…
「こんなもんだな」
パッと手を離す。すると3メートルからまた少し成長した男はなんの抵抗もなく地面と熱い抱擁を交わしたのだった。
「…満足いただけたか?」
「えへっ!最高ね!まぁちょっと王子様力が足りてないけど…あんたレベルの男ならしょうがないわね」
俺レベルの男とは一体…あ、つれのカードでデザートを食う程度の男という意味か?そういう事か?そんなクソどうでも良いことを考えつつ彼女に手荷物を返し、咄嗟の転移からの着地がうまくいかず捻ったらしい足を治そうとするが、彼女は手刀で空間をなぞると小規模な現実改変によって負傷を無かったことにし笑みを浮かべる。
「ところで…このあと空いてる?」
まぁ笑顔は笑顔でも血に濡れた俺の拳を持て口の端を歪め三日月めいた弧を描く凶笑めいた笑顔だ。もちろん俺の答えは決まっている。
「やんねぇぞ、触媒の仕込みは夜が本番なんだよ昨日使った分ちょっとでも補填しねぇと後で地獄だからな」
特にブードゥー人形に魔法と呪術をかけるのは昼夜と時刻が非常に重大な意味を持つ。まぁ俺が実際にやる事は丑の刻参りに近い何かである。時間短縮や必要材料の簡略化、何よりも発動触媒としての確実性を向上させるためいろんな魔法体系をぐちゃぐちゃに混ぜる必要があったため見た目はほんとにトンチキ儀式になってしまっている。
「ちぇっ、せっかく昂ってるのに…あの金髪サンドバッグがしばらく起きれない様に細工したのが仇になったわね…」
オイオイオイ今聞き捨てならないことを聞いたぞ、このバカあの貴重なヒーラー枠をぶっ潰したっつった?
「んなことやってたのかよ…まぁ良いや、どうせ飯作るのもさせようってんだろ、死合いはしないが料理は恵んでやる。」
まぁ良いやというのは彼のことがどうでも良いということではない、彼女の引き起こした因果律への干渉は基本的に魔法での修復ができない、それゆえに奇跡とまで言われているのだ。だから運悪く彼女の逆鱗だか琴線だかに触れてしまった彼は…まぁもう無事を祈るしかないだろう。良いやつほど早く逝くとはこのことだ…
「はぁーん?私の料理スキルに向上がないだろうなんていう舐めた考えぶっ潰してやるわよ!」
そう言って息巻いていると向こうから誰かが走ってくる。
「あ、アニキ!?クソっ!俺が仇を!」
それはよく見ればチンピラくんであり、ふと隣を見ると彼女は剣を納刀していた。
カチンとほんの僅かだが金属の砕ける様な音がしたと同時に彼は音もなく倒れ伏した。
「…おい、殺してないよな」
念のために調査魔法で生命探知をするが引っかからない、呼吸音や心拍すら聞こえない、
「……ちぇ、わかったわよ蘇らせるわ」
…やはりこいつは好きじゃない