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一夜と用意とダル絡み


さて、荷物と呪具を補充できるだけ補充し部屋のレイアウトをがっつり考える昼下がり、今日は明日の始業式前のちょっとしたモラトリアム的なアレであり、ざっくりと分類するならば休みである。

片手間で触媒の錬成や呪具の準備をするためにベランダには洗濯物ではなく鉱石や生物の死骸が吊るされそれぞれ水溶液に使っていたり陰干しだったり天日干しだったりと様々な様相を呈している。キッチンも同様に俺の影から構成された仮の肉体を操る帽子に練金釜や魔女釜を火にかけてもらいつつミキサーやミンサーで粉末にしたりミンチにしたり下準備や加工をしている。

「はぁー他の魔法使いだったらこんな前時代的な前準備大儀式の時くらいしかしないだろうなぁ…」

「そう愚痴るなよ、手塩をかけてヤンネェとまともなもんができないぜ?」

わかっているがめんどくさいもんはしょうがない、それに結局俺とあいつは互いに別の分身を生み出しさらに別の作業に割り振っている。

『棚のネジを閉めた!』『木片チップの挿入完了!』『ボンドの塗布を開始!』

部屋のあちこちをせせこましく走るのは俺の血液、俺の影の一部と魔力でできた木製小人の群れ、何を思ったか黄色いヘルメットを被り毎工程ごとに『ヨシっ!』と指差し確認するので現○猫的なものを感じるが、基本的に単純作業を行わせる彼らの知性は低めに設定してある…うん…そのはず…だよな?

『ぬわーっ!』『畳みかけろー!』『オンドゥルウラギッタンディスカ!』『俺は悪くねぇっ!』

…動画サイトが原因だな、何匹かは常に別空間内で作業をさせているからその時?いや、だがスマホもネットもない筈…謎は深まるばかりだ。

しかし、触媒作りは大変で根気も努力も必要だがいつになっても楽しい物だ。素材の配分や魔力の入れ込み具合でも少しずつ効果や魔法への影響が変わってくる。…そういえば金ピ君生きてるかな、一応保健室に送り届けたけど結構思い切り殴ってしまったからな、悪いことをしたとは思うが…俺は杖の魔法使い、その唯一の強みが再現魔法だ。初対面ではなかったにしろ親しくもない奴にいきなり教えられるようなもんでもないし、俺もそこまでお人好しじゃない、彼が薬学的な魔法薬や錬金術やその秘術を教えてくれるってんなら話は別だったが…

「明らかに錯乱してたからなぁ…」

場合によっちゃ魔法までぶっ放してただろう。それくらい彼は何かに追い詰められていた。

だが…とても残念なことに俺もそしてアンジェリカも、それこそきっと彼が師事する相手であっても彼の望むような技術や力の使い手じゃないだろう。

「ふぅ…」

「どうした、昨日の小僧か?」

俺のため息に反応してか帽子が声をかけてくる。

「ああ、まぁね」

「ふん、金の亡者なお前にしては珍しいな他人にまともな興味を持つなど」

人をなんだと思っているんだこのクソ帽子が…と、思ったがたしかにコイツを被り始めた頃からコイツのまではずっと俺は金集めモードだったな…ゴリゴリと薬研で乾燥した熊の胆嚢や竜の爪を粉状になるまですりつぶしてながら少し考え込む。

彼が反応した死者の蘇生、それ自体はありがちだ。誰しも死者への思いというのは多かれ少なかれある物だ。

そして多くの魔法体系では死者の蘇生は禁じられているができないこともない、勿論動死体の作成などのネクロマンシー系の魔法もあるにはあるが、あれは蘇生ではなく使役だ。

…しかし彼のソレは通常の死者蘇生をさしているのではないだろう。そうなってくると思い当たるのは完全な死者の蘇生くらいだ。なにせ彼の執着は俺の再現魔法というよりは万能にして幻想の大秘宝『聖杯』や彼女の奇跡、魔法や魔力にも働くこの世に蔓延る法則を食い破るような物ばかりだった。



ピピピピ…ピピピピ…


「おい、時間だ。」

「そうみたいだな?」


電子音で現実に引き戻される。俺はエプロンを外し道具を大雑把に片付ける。しかしエプロンの甲斐もなくというよりはエプロンしていたからその程度で済んだのだが、体についた煤や埃を見て少しゲンナリし服を着替えることにした。

なにせ相手はお嬢様、出かけのマナーにはうるさいのだ。

手早くジーンズ、ワイシャツ、薄手のパーカーを手元に呼び出し汚れた服をタライに入れた無意味混沌の溶液に沈め、声をかける。

「すまん、頼む」

「了解だ。マイマスター無事の帰還を祈ろう」

演技でもないことを言うなと言いつつお気に入りのブランドの赤いスニーカーを履き外へ飛び出した。


快晴、春の陽気が気持ち良い



のだが、まるでそんな陽気の届かない日陰でちょっと震えながら腕を組んで無駄に尊大に構えるバカ発見

「遅い!」

「おいおい、集合時間30分前だぞ…」

集合住宅の下、まぁ学生寮の出入り口で落ち合うと言う話だったのでそこまで待たせるつもりはなかったし、そもそお俺のほうが早く着くもんだと思っていたのだが…妙だ。なんだかんだ言ってこのバトルジャンキーはいわゆる乙女的な思考持ち、俺相手だとはいえこの剣バカがラブコメのセオリーを無視するとは思えない、

「お前何時間前からいたんだよ、こんなに冷え切って…」

「っむ!全然待ってないし!元から冷え性なのよ!」

とりあえず上着を被せる。抵抗はないが瞬時に組んだ腕が解け上着の端をひしと掴んで何かを隠すようにピッタリと閉じた。

「…はぁ、何がいいココア?コースープ?」

「……おしるこ…」

建物の影にいたバカに温かい飲み物を買うついでに調査魔法を発動するとどうやら2時間前から居たらしい、まぁそこにはもう突っ込まないでおく、問題は奴の服装だ。

「あいよ」

「アリガト…」

恥ずかしいのか強がりなのか早口で礼を言うと両手でハムスターのように大切にお汁粉缶を持って体を丸めるようにして缶に体を押し当てる…相変わらず見た目は清純派というか、庇護欲をそそる可愛らしい感じだ。

「んで、なんでそんなボロっちいんだお前」

だがなぁ…明らかに昨日のまま、腕を組んで一生懸命支えているが昨日戦闘が終わった時から全く変わっていないボロ雑巾のような服装なのだ。

「…ないのよ」

なんでそんな格好をと思った疑問をぶつけるとそれに対しての返答が空気に溶けた。いや、違う。あまりに小さくて聞こえなかったのだ。俯いて羞恥なのか寒いのか真っ赤な耳が見える。そして息を吐いたと思うとやはり無駄に尊大に、しかし真っ赤な顔で言い放った。

「服がないのよ!修練場から出てきて家にもよらずそのままきたから一枚たりとも服がないの!」

…とりあえず、非常に外聞は悪いが一度戻ろう。



「ずいぶん早いお帰りだな、風呂場の片付けは済んでいる。使えるぞ」

「あいあい、ありがとさん」

「お邪魔するわ」

煽ってくんな帽子の分際で、てか一応主人なんだよ?

『風呂準備開始ー!』『運び込めーっ!』『『『わーっ!』』』

風呂が沸くまで少しかかる。俺は適当に彼女を座らせ服やタオルを影から取り出す。

「んあー、下着はねぇな流石に」

「入ってたらそれはそれで怖いわよ…というかなんで女物の服があんのよ」

「俺が着る用だよ、ってもこのまま着るわけじゃないがな」

そういいおわると風呂の方から軽快なメロディが流れる。

「お、風呂沸いたみたいだな入ってこいよ用意してるから」

が。なんのアクションもリアクションもない首をかしげて横を見ると本日2回目の真っ赤なアンジェリカを発見した。

「へ…」

「へ?」


「ヘンタイよっ!!?」

「ちげーよ!?てかいいだろ俺の話はお前さっさと風呂に入れっ!」

俺はあらぬ疑いをかけてきた彼女を風呂場にぶち込んだ。

「全く。なんて事を言うんだあいつ」

「…いや、客観的に見て女物の服を着ると言い切ったお前は相当の変態だぞ」

…いや、ちゃうねん、俺の修めている魔法体系の中には当たり前の様に男と女で使える魔法が違ったり、女専用、男専用の魔法も勿論あるのだ。んで場合によっては女の状態で何日か過ごしたりあまり考えたくはないがそのまま戦闘したりする訳だ。

「…目の前で女体化して見せるべきか…」

「それはそれでやばいぞ我が主人…」

ちなみにお金稼ぎに使ったことはない、一度女の姿で1年ほど過ごすことがあったのだが電車でオッサンにケツを揉まれた時の怖気は今も忘れない…いろいろ割り切ったとしても処女の方が都合がいいのでそう言うお仕事には向かないのだ。

「まぁいいや、下着作るか…」

あいつわりかし巨乳だからめんどいなぁ…俺の場合はいつもさらしだし、パンツに至っては共用なのだ。裁縫道具で1から作るとアホみたいに時間がかかるので布のまとめ買いでセットについていたレースとかいろいろついた布を紙に書いた服飾用魔法陣に載せ、リボンとワイヤーも添加、スマホの画像で大体の構造を把握して工程を開始する。

まぁ、魔法陣といっても組み込んだ魔法はほとんど成形と縫い付けの二種のみ魔力で動く裁断機兼ミシンみたいなもんだ。

「ふーん、こう言うふうに服はできるのね」

「ま、普通は工場機械とか、高級品なら手縫…い…?」

「どうしたの、あ、あと服を着せてちょうだい道着以外自分で着たことないのよ」

さっきまでの真っ赤とは違いほんのりと桜色に上気した肌、ツインテールも巻きも取れて真っ直ぐになった髪が僅かに湿っておりタオルに包まれた身体は見えてないと言う美しさとエロさが…

「どぅわぁぁ!?なぜぇ!?」

「は?何故って…そりゃ私が超が付くレベルの貴族令嬢だからに決まってるでしょ!」

Q.しゃがんだ状態から勢いよく立ち上がり、あまつさえポーズを決める。その瞬間バスタオル君がどんな挙動をするか魔法物理学的な考察とともに述べなさい

A.惑星表面にあるエネルギー、物体、現象全てに働く惑星重力は星の中心に向かって発生するのでタオルもその例に漏れず星の重力に惹かれ落下する。

「『impact』ぉ!」

タオルが落ち切る前に目を瞑り一工程の術式を通した魔力砲でアンジェリカを布団にぶちこんで乱暴に状況を終了、ついでに完成した下着と服、ドライヤーを布団巻きになったバカの横に添える。

「で?誰がなんだって?亡国の姫様ヨォ…今の時代は女に裸を見せられたって訴えることも可能なんだぜぇ?それとも何か、親切で服と風呂を用意した俺を社会的に殺すのが恩返しかぁ?」

「なによぉ!昔は着せてくれたじゃん!いいじゃんいいじゃん!」

「もうテメェも俺もいい年頃なんだよ!繁殖可能な雌雄はみだりに肌を見せあっちゃいけないんだよ!」

とりあえず服を着せる事には成功した。




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