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再演と再現と再生と


「はぁー生き返りましたわ!」

会いたく無かった様な会いたかった様な…やっぱり性格も何もかも噛み合わないので会いたく無かった奴上位に入る彼女は、どうだろうか、こんなにも綺麗な笑顔で血糊さえついてなければ絵画の様ですらあるその満面の笑みで俺への好意を伝えてくる。

勿論、loveはloveでも殺し合い死合い殴り合い合い愛な感じで異性としての魅力は一ミリも感じられていないようだが、俺のような本と知識と資本主義の奴隷にはあまりに眩しく映った。

「それはそうだろうな、死んでたんだから…いや、マジで何なのアンナお前こっからどう強くなるつもりか知らないがほとんどのことを可能にするお前さんにここでの学びはあるのかね?」

「そんなのやってみなきゃわからないですわ!……それに…」

照れ隠しじみた、言い訳じみた様な言葉が口をついて出るが、それはある意味俺の懸念でもある。彼女は彼女であるというだけで既に彼女が先生と呼ぶ存在よりも『剣』として完成していた。このあまりに天真爛漫で我儘で見た目だけならラブリーエンジェルな彼女の本性が…

「ただ殺し尽くすというのも、それはそれで楽しいですわ!」

世紀末ヒャッハーも真っ青なエゲツナイ殺意に満ち満ちているというのは…使う技術に対して性格がバランスをとっているとしか思えないほどの歪みっぷりである。

「ハァ…」

なんだろう。胃が痛くなってきた…可笑しいなぁ、金持ちになるためにきたのにそれより前に胃痛で死ぬのでは?これは精神的ハラスメントとして慰謝料を取るべきでは?俺がそう考えているのを知ってか知らずか彼女は凶暴な笑みを引っ込めて美少女然として笑みを浮かべる。

「また会えて嬉しいです。アキラ・ウスイ貴方の強さと心に敬意を示しますわ」

「…ああ、ありがとう。俺も会えて嬉しいよアンジェリカ」

普通に笑えば普通以上に可愛らしい女の子、彼女を無碍にできるのはホモかゲイのサディストか、若しくは同性愛者くらいだろう。いや、むしろそうであっても人間の持つ根幹にダイレクトアタックをかましてくる概念的可愛さは何かしら響くだろう。

逃れられない体捌きでキュッと抱きついてきた彼女は悪戯が成功した子猫の様な感じで上目遣いにこちらを見上げた。

…こういうところがずるいと思う。年下だし、背も低いし、何より可愛い、ダメだろこれ戦闘狂に与えちゃいけない性質だよ神様…俺の精神は尊みのままにその牙城を崩されたのであった。…まぁ、毎回こんな調子なので会いたくはないが嫌いではない、という奇妙な関係である。





二人がいつの間にか再会を喜び合い、抱き合っているが俺にとってその時間は現状を受け入れるための希少な、1秒にも満たない様にも感じられるまさに瞬間だった。


茫然自失、忘我、心身喪失、なんでも良い今目の前で起きた奇跡に比べれば遍く全てが全くもってどうでも良い!

「おい、おいおいおいおい、お前今ルーン魔法もましてや再生魔法すら使わずに胸骨粉砕開放骨折と心臓爆散とかいう致命傷から一瞬で甦りやがったな?どういう原理だどういう理屈だ何が、どうして、そうなった?」

俺は今朝から続いて二度目の厄介事、その元凶に詰め寄った。

一切の魔力を感じられず、術式も発動タイミングも何もかもが意味不明で理論だっていない!全くの代償も準備もなく人間が蘇るなど正気の沙汰ではない、どんなエネルギー源だって、どんな魔法にだって、あらゆる邪法にだってこの世の絶対の原理として横たわるエネルギーの保存則というのは働いている。良いことがあれば悪いことがあるように、コインの表と裏の様に世界はかくあるべしとクソッタレな神の名の下決まっているのだ。

だが…

「0から1を生み出したってのか、無を有に!」

それは魔法ではない、すでに奇跡の領域だ。現代魔法に置いてあらゆる前提を覆しうる脅威の技術、ただ一つの例外とたった一つの間違いをのぞいてこの世にそれを齎すことは出来ない筈、それを何故今この少女が…っ!

理解不能の四文字が駆け巡る脳内で衝動のままに問い詰めようとした返答は痛み、ハッとして受け身を取るが彼女はいかにも不機嫌そうに言い放った、

「うるさいわね医聖の弟子、いえ、劣化版医聖でしかない貴方には驚きも未知もありませんのでもう興味はなくってよ?」

は、バカが逃さない、俺は、いや僕はそのためにただただ辛いだけのあの修行を耐えてきたのだ。完全なる死者の蘇生、彼女の奇跡は今までのどれにもない唯一の物だ。だがそこで第三者の待ったがかかった。

「おい金ピくん、そいつに何を聞いても無駄だぞ」

そう言い放ったのは今朝丸焦げにされていた男子生徒…いや、そうじゃないな、アレは『態と焼けた』んだ。彼も彼でわけがわからない、疑似的なものに見えたがあの魔法はたしかに師匠の持っていた武器、『絶対必中にして必殺に対する完全回答』神剣アンサラーの再現、たしかに師匠は秘宝とまで呼ばれた神話の武具の能力を魔法にまで落とし込んだ再現魔法について話していたことがあったが、この世界でたった一人死者蘇生を可能としたあの人が机上の空論と言った魔法だ。

「そいつは感覚のみで剣聖の生み出した剣の魔法を身につけた大天才にして努力によって剣聖を打ち倒した怪物だよ、当然ながら自分のやってることを説明するなんてできないし、する気もないし、多分されたとしても理解できない」

「…じゃあ、君の再現魔法はどうなんだ。音にきく聖杯から破滅的な現象まで再現できるとされてるその魔法、どんなタネと仕掛けがあるんだ?」

「…人の神秘を何の対価もなく知ろうとするのは、感心できないぜ?少し冷静になってから話した方がいい様だ。」

どういうことだと抗議する前に俺の体は宙を舞い、数度の打撃が完全に脳を揺さぶった。

微かに見えたのは彼と彼女の残念そうな顔だった。





「…っは!」

「起きたかねー馬鹿弟子よー」

目が覚めて今は女医として保健室に勤めている師匠をみて、そして俺はようやく悟った。

「ばかでしぃ、目標を忘れず一意専心するのはいいけれどねぇ、他者の魔法、魔術、そういったものについて不躾に聞くのは一人の魔法使いとして最悪の部類だよ?」

ああ、ああ、そうだ。全くもってその通り、冷静になってようやく分かったが俺は彼彼女らに最悪の印象を与えてしまったのだろう。そりゃあそうだ。まぁ彼女に対してはこっちが願い下げだが少なくとも彼は俺に対して友好的な態度だった。それを俺はなんだ。精神修行なんていくらでもやったが根は結局アイツの血が騒ぐのか…

昨晩の自分に落胆し、そうして今の自分とあの自分を切り離そうとしている自分にもがっかりし体操座りで丸まっているとカーテン越しに声が続く。

「あの杖の青年が君を運んできてくれたよ、目が覚めたらまた会おうだってさ、よかったねぇ嫌われてなくてw」

師匠の笑い声が響く中、俺は今度こそ彼らの秘密を知るべく。対価を持って立ち上がる。

「おや、行くのかい?…ふぅん、それを対価にねぇ君らしく無い大胆な手だね」

「はい、再現魔法、それにあの奇跡…俺の悲願が叶うならばこいつを明け渡してやってもいいと思います。」

握りしめるは干からびた蛇の巻きついた荊と十字の杖、今の俺が持つ最高位の回復手段にして切り札だ。



side out



彼彼女らの青春の1ページ、そんな甘酸っぱくも切なく儚い一幕の裏で学園上層部は燃えていた。

「おい」

「…はぁーめんどくさいわー」

それは勿論試験結果の大幅な変更などいわゆる番狂わせによる調整や伝達などの業務的な意味もあったが今となっては物理的に燃え盛っていた。煙管が燃え尽きていないのが不思議なほどの高温の中、至高の魔法使いであり世界の頂に鎮座しあらゆるものを睥睨する彼女は下手人に目を向けた。

下手人は二人組、片や隻腕盲目の刀を担いだ老人、片や黄金を纏った猛獣の様な男、両者ともその存在だけで周囲が歪む様な異様な人物ではあったが紫煙を燻らせる女はつまらなさそうに彼らを見ていた。

一瞬だった。

彼女が煙を吐いたと思うと黄金の男は既に床に膝をつき息を荒げ、盲目の男は刀を鞘にしまって静かに立っていた。

「それでぇ?」

「元剣聖…儂に残されたこの惨めな称号をどうか返上したく現剣聖との戦に来た。顔を出しにきただけ故そこの愚かな男とは関係ないぞ?」

彼女はやはりつまらなさそうに煙管の灰を落としふわりと黄金の男へ腰掛ける。

「ンなのわかってるわよ、サッサとお弟子ちゃんのとこ行きなさいな、私が聞いてんのは…」

そう言って男の足にヒールを突き刺す。

「っぐご!?」

「あんたよあんた、イキってるだけで別に大したことない結界術だけしか使えない不良品、派手な演出だけで未知も何もない小手先だけの手品以下を見せられてこっちは無駄な時間を過ごしたと落胆してる所なの、サッサと要件を言ってくたばってくれない?」

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