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金と力と胆力と


この世界には少なくない魔法とそれの元となった奇跡が存在する。

例えばルーン魔法、コレはほぼあらゆる文字を介した魔法の根源にあるとされる奇跡に近い魔法だが、そのルーン文字のオリジナルは北欧神話の大神オーディーンのものであり、神の言語の一部とされている。神の身ならぬ人の身ではその力は大きく劣るが最小単位で最も安定し最も強い、奇跡に近ければ近いほど魔法は強くなり、それを扱う魔法使いにも相応の技量が求められる。

だがそれゆえに人は誤ってしまう。『奇跡の残滓』が魔法であるならば『奇跡の再現』はどうなってしまうのか、人がその禁忌に触れた時一度目の大戦が起きた。



俺はいつか本で読んだそんなセリフを思い返しながらボロボロに弾け飛んだ藁人形を燃やして捨てた。

「あだだ…」

日に2回もの再現魔法を使用した所為で節々が痛む。身代わりがなければ俺がこうなっていたのでこの程度で済んで良かったとも言えるが…

「藁人形は作るのも使うのも大変なんだよなぁ…」

身代わりとはノーリスクハイリターンに聞こえるが、実際のところは『人形= 俺』と言う図式を成立させるために血やら肉やら髪の毛やら魔力やら使って一週間かかるような儀式の末にできる希少な品だし、その構造ゆえ俺の代わりに人形が傷つくのと同じように人形が傷付けば俺も傷つくのだ。

それでいて使用時は身に付けていないといけないとか面倒くさいにも程がある。幸いにも俺は器用貧乏をそのまま強くしたようなスタイルなので影に収納した物を使用時だけ触れることで解決しているが、世の中人はそうもいかないので無事廃れている。

…まぁ、呪術特化の金槌や釘、人形の魔道具適正持ちならもっと簡単にできるが、それでも背負っている縛りは同じ、やれて命は奪えない代わりに苦痛だけは与えられる人形を一瞬で作るくらいだろう。いや、まあ十分なんだけどね、それで

「にしても強かったなぁ…あの先輩」

俺が寮に行く途中にゴミ処理をしているのには特に訳はないが、色々事情があって木とか草が生えているところの方が傷や疲労の回復が早いのだ。部屋に行けば荷解きもしないといけないので体力を回復させたい…のでこのいい感じの植え込みに座って今日の反省会を始めよう。

議題は今日戦った中で唯一生徒だったあの忍者先輩だ。あれはかなり運ゲーだった。

なにせ近接と遠距離を苦もなくやってきてたし、デコイとそれによる魔法陣の構築を見るにほぼ素手で魔法を操ることもできる秀才タイプ、ほぼ純粋なマジックユーザーであり遠距離、中距離を得意とする俺からすれば素早い近接専門家がデコイで狙いを乱して潜んでいる時点でほぼ詰んでいた。

じゃあ何故勝てたのか、それは彼女が投擲をしてきたからだ。

魔法の先鋭化が進んだ現代においても腕力と魔法を使った投擲による攻撃範囲はある程度決まっている。十分な殺傷力を持つ射程範囲というのは実際の飛距離とはまるで違う今現在において一般的な投擲距離は半径500mの半円に相当するとされている。要するに彼女が短刀を投げてきた時点で俺を視認でき、魔法を含んだ身体能力で俺に十分な傷をつけることができる距離、500m圏内にいなければならなかった。それがわかった時点で俺が行ったのは木精霊を使った大規模な地形変化魔法の発動だ…まぁ、雑にまとめるなら彼女が手を誤ったゆえに勝てた。ということに帰結する。


「んー、よし、そろそろ行くか」

俺は開いていたノートに問題点を洗い出し懐にしまった。さてここらでお暇しようと思っていると…

キンッと特殊な魔法の発動音が聞こえると同時に地面の抉れるドゴォ!みたいな破砕音が聞こえる。

つい癖で伏せると同時に隠蔽した集音魔法で様子を探ってしまい、それに俺が気がつくより先に音を拾ってしまっていた。

『フン…何よ、この程度ってわけ?』

片方は知らない少女の声、だがあの独特の発動音といいかすかに聞こえる風切り音といい剣聖の関係者か何かだろうか…

『ったく、マジで今日は厄日かなんかか?』

「お?」

そして殴られたのか何なのか知らんが攻撃された側の声は…どうやら今朝の極悪人相金髪ピアスくんだ。気になるので隠蔽状態で遠見の魔法を発動、するとそこにいたのはやはり金髪にピアス、もう片方を見る前に護符をいくつか手元に出して割る。

「さっきの発動音といい、高飛車な声といい…嫌な予感がするんだよねぇ…」

ルーンストーン、神道系のお守り、護符、石板、etc…とにかくストックしてある逃走用の触媒を使いまくって遠見を再発動する。

砂煙の向こうには…

「身の丈を超える大剣、幼女体型に薄らと虹に輝くように見える白髪…アイツは…」

忌々しい、忌々しいことにあれは完璧な俺の天敵にして俺の最も得意な相手…

『折角医聖の愛弟子と戦えるって聞いて来たのにとんだ詐欺ね、ま、アイツがいるから退屈はしなさそうだけど…』

そう言って奴と視線がぶつかる。次の瞬間弾けるような閃光と耳障りなキンッという金属音!

「マジかよ!」

音が聞こえたってだけでこのアホみたいに広いグラウンドのほぼ端っこから端っこを覗いてただけでほぼフルで載せた隠蔽を破られんのかよ!?

杖を構えてなりふり構わない対物理障壁を力任せに生成し続け『斬撃』を相殺し切った。だがしかし

「やっぱりいたわねアキラ、103戦102引分け1勝で勝ち逃げした貴方を随分と探しましたのよ?」

「アンジェリカ…いや、『剣聖』アンジェリカ・ドラコニアと言うべきかな、とりあえずおめでとうと言っておけばいいか?」

いつのまにか俺は彼女の前にいた。…相変わらず無茶苦茶に理不尽極まるが現実逃避はできない…完全に捕捉された。それも特別めんどくさい女に、全ての魔法に含まれない完全なイレギュラー、『剣の魔法使い』にして『魔法の理を断つ者』剣士というものの極地へと至った才能と努力の怪物そのものに!

「フーン?私が来るってことは知らなかったみたいね、そりゃあそうね、今日決めたもの」

相変わらずの暴君っぷりに涙がちょちょぎれそうだが…ここは魔法学園、魔法使いと奇跡に等しい剣技は似て非なる別の物だ。

「お前…魔法使いに転向したのか?」

「ええ、先生と違ってわたしには魔力があるんだから…強くなるために必要な努力はするべきよね?」

…さっきのを修正しないとな、もしもこいつがまともに魔法を使えるようになったとすれば5割ほどあった俺の勝ち目は那由多の向こうに消し飛んでしまっている。となれば…

「ストップ!ストップだ!何が何なのかわかんないが戦闘態勢に入るんじゃない!」

緊張の一瞬、仕掛けたのは俺でも彼女でもなく第三者、まぁ期待していた通りに金髪くんだった。だがその止め方じゃ甘い、現にアレは『抜刀』している。俺も防御くらいはしておかないといけないんだが…その前に金髪の拳が彼女の顔に突き刺さった。

それはあまりに壮絶だった。言葉に言い表せば安っぽい漢字二文字、『破壊』ただそれが起こっていた。だがそれは次の瞬間には逆再生どころか無かったかのように元に戻っていた。一瞬は壊れた人体模型のようになっていた彼女の体は吹っ飛ぶ頃には傷一つないソレに変容していたのだ。

だが、その現象は理外のものでは無い、破壊自体は神経から筋肉繊維の一つに至るまであらゆる物に完璧に施された強化魔法の生み出した物だし、その後の再生も可笑しくはあるがまさに彼自身が魔道具であるかのように作用した神速の治癒魔法、なるほどなるほど彼が医聖の弟子であるというのは間違いないようだ。

だが…

「これで懲りたかよ?」

残念ながら金髪くん、あの女は死んだ程度では止まらない、止まらないし止められないし止まるつもりもないのだ。

「いいえ…最高の気分よ?」

次の瞬間彼の身体が斬り刻まれる気配と、その余波で俺まで切り飛ばされる予感があった。だが…

「『条件完了』『自動迎撃』『アンサラー』」

空間転移似たベクトル魔法による移動から放たれた正中線への崩拳は彼女の生命活動を完全に停止させる。

「相変わらず、学びがないなぁ…」

「っぶ…アハ…そう、でしたわね…」

無駄に儀式人形が燃え尽き、俺は彼女を貫いた拳を引き抜いた。

「は、え?は?」

「おい、離れておこう。どうせそのうち蘇る。」

「はぁー?」

目の前で起きた全てが全く理解できてないのか、それとも理解できているが故に思考がショートしているのか、どちらでもいいが良いやつで恩がある奴が死ぬのは忍びないと思って助けたんだ。ここで死なれると面倒だ。

彼を引き摺って彼女の死体から離れると聞き慣れてしまった異音と共に彼女は何事もなかったかのように立ち上がったのだった。

「はぁぁぁぁ!?」

「マジでお前、一回死ねば良いのに…」

「何をいうんですの、もう4桁くらいは死んでますわ?」

現代魔法では到達し得ない奇跡、蘇生の奇跡を前に医聖の弟子らしい彼は実にそれらしい反応をしてくれて彼女は誇らしげに、俺は苦虫を噛み潰したような思いで座り込んだ。

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