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証書と光と影


「ふぅ…杖術に格闘術、どれも問題ないレベルでござるな。強いて今回反省するならば…己自身の話になってしまうな!はっはっは!」

「ふぅ…キツい…」

合格証として明日開く封書と寮の鍵を貰ったが、いやーキツい、『アイアスシールド』無しで正面から殴り合ったら今回だけで二、三回死んでる。多分ガチられると何もわからない内に刺身にされている。それくらいやばかった。…まぁ、それは全部の試験そうなんだけどね、なにせ相手は1人を除いて超一流の教員、魔力の熾りすらわからないままやられていても全然おかしくない別次元の魔法使いたちなのだ。

今回もリビングハットの初見殺しがなければ純粋な武技試しになって速攻魔法の乱打と杖術の並列処理で厳しい戦いを強いられていただろう。息を整えると総評を告げられる。

「うむ、よく鍛えられた身体だ。少なくとも純粋な武技だけでこの学園の中級ほどまでならやっていけるでござる。特に足腰がいい、持久力と敏捷性の両立がうまくできているでござる。」

「それは、良かったです。」

まぁ、頑張りましたから、お陰で娯楽を絶って早十数年、まぁお金もないし時間もなかったので別に損しているわけではなかったが、灰色の小中学時代であったのは確かだった。

「次はその二本目を抜かせて見せますよ、『双魔のモノノフ』先生…」

「っむ、よく調べたでござるな?」

調べる。というか…まぁ彼は有名人だ。モノノフミチナガ、同世代に英雄や医聖を持つ世界最強級の近接魔法使いにして至高の剣魔、汎用魔法使いでは到底届かない才能と努力の勇士である。

「少し前までの宣材写真だと面頬が無かったので最初は分からなかったですけどね、アイアスシールド発動前、両手で剣技を放とうとしましたよね?」

俺は見ていた。あの8連撃の時彼が刀を片腕で振っていたのを何よりもあのハッとした表情…

「いやはや慣れないことはするもんじゃないでござるな、不覚にござったよ…」

少し恥ずかしそうに頭を掻くイケメン…絵になりすぎてムカつくが嫌味がないのがすごいと純粋に思う。

あの8連撃は正確には右腕8回、左腕8回、更に同時起動の旋風の刃8連の24連撃だったのだろう。あの時左腕に収束された魔力には本当に焦った。…そういえば、だ。

「…どうして旋風の刃を撃たなかったんです?」

俺は問う。もし仮に片方の刀からだけだったとしても12連撃が発生していたら俺では対処できなかった。あそこで決まっていたかもしれないのだ。

すると彼は肩をすくめて刀を抜き放つ。

「ここにござる。」

そこにあったのは僅かなヒビ、コレは…

「鍔迫り合いの時既に入っていたのでござるよ、その後に一度ずつ魔法を発動した時には既に遅し、行き場を失った魔力によって…ほれ」

「あ…宝玉が…」

元来魔法発動機は繊細だ。それゆえに特化型発明まで本格的な近接戦闘を行える魔法具はないとされてきた。しかし特化型でも魔道具は魔道具、正常な魔力の流れが乱されれば部品ごと歪んだり、今回の様に魔法を込めた宝珠が壊れたり…って

「すすすすすすすいません!宝玉割っちゃって!!」

ヤバい、ヤバいヤバイヤバい!宝玉は一個最低数十万の宝石を加工した超がつく高級品だ。込められた魔法にもよるがそもそも魔法が込められているだけで値段は数倍になる。それを、それを二つ!?二つも壊したの俺!?

「あばばばば…」

「だ、大丈夫でござる!ウスイ生徒、この学園では良くある事故、きちんとした理由があれば問題ない、それに此度は拙者の不手際、お主が責められることなど無いでござるよ!」

「あ、お、う、よ、よかったデス…」

俺の貯金残高はここの入学金を払った現在飛散を通り越してグロ画像、ここでその出費があったらと思うと真面目に切腹ものであった。




宝玉を破壊してしまったことに冷や汗を流し慌てふためく様子はまさに年頃のそれだった。間違いない、書類上でも彼の経験的にもあの杖使いの青年は高校生だった。

「ふぅ…本当に対した物でござる。」

モノノフは戦いを思い返す。

「アイアスシールド、その前の試験ではアンサラー、伝承再現魔法などいつぶりにみたであろうか…」

魔法制御、魔力操作、それにほとんど全ての能力を割り振った最古にして最弱の魔道具、それが杖である。少なくとも一般的にはそう知られているし、自分も杖の適性を持つ強者など片手に指で数えられるほどしか知らないし、その上その誰もが何世紀も生きている様な怪物じみた存在ばかりだ。

わずかに痺れた手を出し手甲を外すとそこにはくっきりと打撃痕があった。

「…身体強化は二重、いや、三重か?」

身体強化だけではない、放たれた魔法もそうだ。複数の文化、文明、歴史を持つ全く異なる魔法体系を瞬時に複数、何重にも張り巡らせる。それは明らかに異常だった。

結晶魔法、ルーン魔法など久しく聴いていない魔法だ。魔法技術の開発や魔道具の研究により触媒さえ選べば爆裂魔法の様な攻撃力を持つ魔法をルーンの様に半永久的に刻み込んで連発することも可能、故に汎用性の高い魔法は等しく淘汰され、今使用者が残っているのは一握りの強大すぎる魔法のみ…そういう意味ではこの学園に在籍はしていなかったものの彼女の存在もまた希少なものであったと思う。

「そう、今朝の事件も一昔前ならもう少しマシだったのでござるが…」

思うのは彼女がただの炎使いであったならばという意味のない仮定の話だった。


何しろあの女性は良くも悪くも優秀で、激しい被害妄想と強烈な虚言癖、何より致命的なヒステリー持ちだったが全能力を呪いによって熱に傾け、全身に埋め込まれた13個のルビーとそれを繋ぐ刺青、そんな彼女が持つ炎宝珠によって放たれる火炎はもはや凡人として、ただの指輪魔道具の適性者としては限界を超えていた。


性格すら含んだ全能力、自身の編んだ儀式魔法による炎との一体化、それによって火炎以外の魔法を使えなくなり、彼女自身に備わっていた人間性すら捧げた大魔法にして最新の昇華魔法…杖と同じく汎用性に特化した指輪魔法使い、自身すら魔道具化する執念…それは同じ時代に英雄がいた自分にも似ていた。


幸い、燃えたのが彼だった事、そして彼の目的が金であるので賠償も釈放も早いだろうが…

「残念でござるが…逮捕によって彼女の半生は呆気なく無に帰すでござる。」

逮捕時の魔法使いへの処置はまず魔道具の取り上げと全恒常魔法の停止にある。それは儀式魔法と彼女の偏執的な炎へのこだわりで生み出された彼女自身という名の人工火精の死を意味する。

「まぁ、しょうがない、彼女の行動もそろそろ目に余っていた頃でござった。そういう意味では最も不幸なのは…彼でござろうなぁ…」

彼の脳裏には金髪にピアスをしたあまりにも優しすぎる青年がちらついていた。


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