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桜と並木とブシドー先生


この公立魔法学校、正式名称は公立高等魔法技術専修学園魔法球島校という。東京にあるのが本校で、その他47都道府県全てに無数の分校を持つ。まぁ、要は日本で魔法学の学校といえばこの学校なのだ。んでこの魔法球島はあらゆる分校の中で三つしかない学園都市であり、日本最大の施設と最高峰の人材を揃えた場所だ。

よって此処に来れる生徒はそもそもが特待生みたいなもんなのだ。昼間手当てしてくれた彼も学生ではあるが恐らくそこらへんの医者と比べてもほぼ遜色ない腕前を持っている。

それにピアスをメインの魔導具にしているわけではなく薬草や薬品が秘める魔法の力を引き出す力も凄まじかった。


何が言いたいかというと俺はそういうところでこの普通の魔道具、いや、数多ある魔道具の中で唯一固有の魔法を持たない『杖』を駆使してある程度の成績を収めなければならないという事だ。

「んで、次の人ですよね…出てこないなら当たらない様に撃ちますよ?」

学生寮は学校敷地内、校舎と校門の間にあるちょっとした森や運動場の中にある。

10階建ての団地の様な無個性な建物が10棟以上並ぶ異様な光景が森の外からでも伺えたが森と道の境、運動場もアホほど広いことがわかるあたりで俺は足を止め魔力を熾した。

「…」

返事がない、代わりに彼方此方から魔力の気配が発生し、俺はため息をついた。

「戦闘は得意じゃないんでほどほどにしてくださいね…『結晶し』『追尾せよ』」

三世紀前に開発された魔力を結晶化させ自在に属性を付与して使う結晶魔法、自身の魔力を核にしているためヒットした相手へのマーキングにもなる。浮遊する8つの塊が俺の周りに展開する。

「『アンコール』『アンコール』『アンコール』」

さらに魔力を結晶化、3回再発動して展開しまくる。するとどうだろうか32個の追尾弾が俺の周りを浮遊し、俺のトリガーひとつで発射できる状態となる。

発生した魔力の動きを探りながら発射タイミングを考えていると何回か妙な音を発生させて短剣が飛んできた。

「『結晶せよ』!」

それと同時に俺は一つの魔力源に目星をつけそれ以外にも怪しいと思う魔力源に発射、杖の先端に魔力の結晶を発生させ短剣を叩き落とす。それと同時に地面に杖を突き魔力を熾す。ローブがゆらめき自動迎撃が発動したのでそのまま詠唱、内ポケットから飴を幾つか取り出して放り投げる。

「『木妖精よ』『森の木々よ』『その大いなる力を』」

妖精魔法、魔力や捧げ物を対価にそこにあるものに働きかける。飴が空飛ぶナニカに攫われていくと森がざわめき一気に平地へと変貌した。

「ありゃ、そう来るか」

「ええ、そうします。」

現れたのは黒装束の女性、飛んできたのがナイフなので忍者ではないだろう。ニンジャとかNINJYAとかかもしれないが…絶賛結晶球の対処中だったようなのでちらっと魔力源を見る。どうやらアレは人形であるらしい役割としては変わり身兼マーク兼罠だろう。運動場まで行ければ良かったがブービートラップもあったし、何より今回は空間魔法による簡易結界が貼られている。破るための詠唱は5節以上と長く自動迎撃が間に合わなくなるのでこうなった。

さて、そう悠長にしてはいられない結晶球が削り切られる前に俺の加勢しよう。ブーツの魔法で加速しとりあえず最初は杖を手槍のように使って突きを放つ。

「っと!よっ!ほ!」

しかしながらさすがはニンジャ(謎)避ける避ける。その間に結晶球は削り切られてしまった。

「ふむ!距離を詰めたのが仇になったね!この距離なら魔法の詠唱は…」

「『アンコール』」

「へぇあ!?」

残念、今回は結晶魔法の追尾する結晶球群を自動化魔法に組み込んでいる。2節は難しいかもしれないが自動化した魔法は威力の一段階低下と魔力消費の5%上昇を代償に一節以下の速攻魔法として使える。杖の魔法は詠唱必須、知識必須、操作必須だが近接戦闘もできなくはないのだ。

「優秀だぁ!ちくせう!」

「『アンコール』」

一度に8つの結晶と先端が結晶化した手槍の連撃、だがまぁ、決まらない、結晶が当たりさえすればほぼ勝ちなのだが…と回収回収…

「結晶片を回収して魔力を…って!なんとぉ!」

「『アンコール』」

これが結晶魔法の有利点、ロスはあるが結晶自体が魔力であるため自身が触れればその構造が解けて魔力として還元される。

だがやはり決まらない、結晶球はそもそも牽制と索敵を兼ねた魔法、威力も速度もそこまでではない強度も結晶魔法の中では柔らかい方だ。なので短剣であっても二、三度叩けば砕けてしまう。そうしているうちに段々と結界の中心へと誘導されていく。

…まぁ、そうだろうなと思いつつ俺も乗る。

こうして魔力の消耗と回復を繰り返しつつ彼女を押していくと彼女は笑みを浮かべてナイフを投擲、予想通り空中で何度も軌道を変えたナイフが倍々に増えて結晶を破壊し、彼女が結界の中心部で手をついた。

「ふふん!よくやったけどこれで、終わりだよ!」

「そう見たいですね」

そうして発動するのは彼女が生み出したナイフと魔力源による大魔法陣、決め技は多分…そうだなぁ…

「「『忍術・影牢』!」ですかね」

だが残念、それはもう貴女のモノじゃないんだ。

一瞬の静寂、彼女のドヤ顔が続いたのも1、2秒だった。

「すいません、先輩『結晶化』」

「へ?」

魔法陣が起動、中心にいた先輩の手首が地面ごと一気に結晶化し行動不能に、その後八芒星の頂点からそれぞれ結晶の柱が発生し中心に向かって陣を完成させていく。どうやら相手は漸く自分の仕込んだ人形が結晶化させられているのに気がついたようでちょっと震えながら頭を下げる。

「まままままって、許して、合格なんで…」

「はい、わかりました。」

なので魔法陣の起動を一旦停止し近づいていく。

「…とでも思ったかぁ!くら「『起動条件を感知』『アンサラー』!」ほげぶ!?」

まぁ、案の定騙し打ちを敢行してきた為ルーン術の簡易儀式魔法が発動、不意打ちに対して反応したルーンが肉体を瞬時に五重強化、さらに組み込んでおいた自動腹パン術式が肉体を強制的に操作し瞬時に行動…結果神速の腹パンにより黒装束は撃沈した。倒れるのをそっと支えた時身体中からボロボロと道具が出てきたがその中に一枚合格と書かれた紙が入っていた。

「…とりあえず合格の紙だけもらっとこう。」

術者の彼女が気を失った為結界は崩壊している。が…そうなるとだ。

「放置しておくのはダメそうだなぁ」

飴を幾つか出して木妖精にお願いし森を直すついでに外に連れて行ってもらった。しょうがないので彼女の荷物も異空間にしまって彼女を背負った状態でだ。



「おぉ〜」

残念ながら彼女の胸の感触はほとんど無い、多分サラシだろう。俺が声を出したのは学生寮のデカさと改めて認識したその馬鹿みたいな規模である。

「スーパーとかコンビニもあるのか…」

感心してアホズラ晒しているといきなり運動場に吸い寄せられた。逆縮地、牽牛…だっけ?確か気功法とかそこらへんの技術の筈だ。それをこれだけスムーズに行うということは…

「講師の方ですね?」

「いかにも、合格票を預かるでござる。」

目の前にいるのは厳しい面頬をした着物の男性、国語教師で魔法近接戦闘学の教員…だと俺が記憶している古風な喋りのイケメン、俺はポケットから合格票をを取り出し渡す。

「ついでにこの人も回収してもらえませんか?」

「んむ…あ…うーん、すまぬ魔法と魔道具の関係上女人に触れるのはちょっと…」

「あっハイ…」

そういう事もある。彼が悩んだ時微かに面頬が震えたのをみて俺は諦めた。

魔道具には意思があるものもある。きっとそういう類のものなのだろう。

「かたじけない、他の者をすぐ寄越すゆえしばし待て」

そう言ってスマホを取り出す和装イケメン(面頬付き)、なんだかアンバランスというかミスマッチな感じだが現代に生きているのだ誰しもスマホの一つや二つ持っている。

「ふむ、ふむふむ…あいわかった。…ちと離れた方が良いな2秒で来るでござる。」

「…あ、なるほど?」

電話を切った直後遠くから何かが高速で飛ぶ音が聞こえた。俺は掴みどころが無いが綺麗な歩き方をする先生に慄き、そしてやはり教員のレベルの高さを感じながら小走りでそれについて行った。


ッボ、ッボ、っボボボボ!

「うっわ、はやいなぁ…」

「うむ、彼奴は教員を含めこの学舎で最速の箒使い故その感想はあっているでござる。」

それが来たのはきっかり2秒後、ソニックブームを撒き散らし雲を吹き飛ばしそのまま直滑降してきた箒乗りは地面から2、3ミリの空中で完全に静止した。

「ついたでー」

土煙を制御し一瞬でも視界を遮る事なく現れたのは生足へそだし短パンにブーツとかいう属性盛り服に身を包んだ八重歯の少女、褐色に白い髪がよく映える。

「ご苦労、風早女生徒、薄井生徒彼女を連れていくでござる。」

「アッハイ、先輩お願いします。」

「任されたで!」

「へぎゅっ!?」

そう言って黒装束をやや雑に箒に乗せて完全に静止した状態から無詠唱、ノーモーションで一気にトップスピードに加速し瞬く間に空の彼方に消えて行った。

「へぇー、風の結界魔法にベクトル制御ねー、すげぇなぁ」

魔力の残光が僅かなヒントを教えてくれた。物理学の発展によって生み出された近代魔法の一つであるベクトル制御は机上の空論にして最凶の破壊魔法として第二次世界大戦を大いに掻き回した。

「…それを一眼で見抜くのも大概でござるよ」

そう言って先生は腰に差していた刀を抜き放つ。

「さて、最終試験でござる。」

「なるほど」

彼の受け持つ授業、それは近接戦闘、過去多くの魔法使いがさまざまなアプローチをしてきた高速戦闘と魔法との融合…と、言っても近代において魔法近接戦は全てをマニュアル魔法でしていた過去と違う様相を呈している、1番の肝は1500年代初頭の大革命、特化型魔道具の発明だ。

目の前の先生が持つソレも一見ただの刀だが儀式によって魔力を付与された金属を魔法鍛造し、換装型の宝玉や自ら付与する事で魔法発動体であり武器であると言う滅茶苦茶強い代物だ。弱点は引き出せる魔法が単一属性かつ一種類から三種類までに限定される事、魔法陣を描いての大規模魔法などの発動には使用できない事があるが、引き出せるように設定した魔法は魔力操作無しで短いキーワードのみで発動可能と言う化け物みたいな代物である。

さっきの様に間合いの外で準備する事が出来ないと汎用型の使い手はボコボコにされるのがオチだ。

…ま、それもやりようである。俺は杖を構える。互いに武器を取り出し向き合う…どうやら腰に差したもう片方の刀は抜かない様だ。

「…どうした。詠唱しないでござるか?」

彼は少し不思議そうに言う。それだったらこっちだって「その刀、抜かないんですか?」とか言ってやろうとも思ったが…面頬や俺の隠し球に似た奇妙な感じがする。

ま、油断してくれたならすでに試験は通ったも同然だろうがね!

「ああ、待っていたんですか?」

俺は皮肉げに顔を歪めて杖の先端に結晶を生み出す。それを合図に彼が飛び出してくるが…

「そいつは残念でしたね」

飛翔する八つの結晶塊、さらに隆起する地面、旋風の刃が既に彼に肉薄していた。

「!」

しかしまぁ上手に捌くなぁ、さすがプロだ。俺は杖に乗って宙へ浮く。

「あ?近接戦闘じゃ無かったのか?」「いいんだよ油断したのが悪いのさ」

頭上から聞こえる声は『リビングハット』の人格の物、勿論魔道具は魔法使いの力であり能力、彼も面頬をしているしこれくらいハンデにもならないのだ。

土煙がもうもうと上がる中無慈悲に魔法を撃ち続ける。が、やはり教員、隆起した大地からすっ跳んで来る。

「生きた魔道具持ちとは…油断したでござる。」

「まぁ、使いませんでしたしね」「そうだぜ?俺はとっておきだからな!」

先生はボロボロに見えるが土がついているだけでダメージはない、下駄で空中を踏み締め切りかかってくるので俺もブーツの魔法を発動し杖で防御する。

ギャリ!

「…硬化のルーンでござるな」

「ハズレです。『衝撃よ』!」「『反撃』『金剛』『殻』『拒絶』…」

正解は法義洗礼霊銀コーティングである。鍔迫り合いながら受けた力を返す風魔法を撃ちつつ帽子に詠唱を続けてもらう。

「っ!させるか!『鋭く』!『撃て』!」

「んぶね!」「『来るは鋼鉄にして黄金にして金剛不壊の盾』『煌めき』『花開け』…」

高速振動する刃は流石に杖じゃ受けられない、旋風の刃はローブの自動防御でレジストできる。

「ッシ!」

「『構築』『展開』…」

俺は気合いの声を出す暇すらないだが帽子の魔法が完成すれば一気に攻撃に転じれる。だがそこまで相手も甘くない、一息に8連撃を放つともう片方の腕で何かを仕掛けようとして…ハッとした様に刀を両手で持ち直した。…俺は気合いで五つまでは防げたが残り三つが帽子を襲うローブの防御で二つ減ったが帽子は一撃を貰い詠唱が止まり…

「っ『術式強奪』『アイアスシールド』!」

俺は僅かに乱れた相手の呼吸の合間に霧散しかけた魔力を術式ごと強引に引き寄せ発動させる。美しい五つの花弁の様に見える薄ピンクの防御結界が俺を守る様に展開される。ちょっと負荷がかかりすぎて鼻血が出たがまぁ問題はないなにせ…

「さて…どうしますか?」

「…難しいことを聞くでござるな、ソレを破るには試験官としては少々問題のある魔法を使うしかないでござる。」

そう言って刀を構え直す。ソレは勿論禁止魔法を使うと言う合図ではなく。

「んじゃ、行きますよ」

「くるでござる!」

純粋な武技試しをすると言う意思表示である。


勿論試験は合格した。


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