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天井と治療とクラス分け


目を開ける。知らない天井だが清潔さを感じさせる白い塗装やカーテンによって仕切られたパリッとしたベッド、ついでに消毒液などの薬品臭、此処はどうやら保健室的な場所だろう。少なくとも学園内の治療施設に間違いない、火傷した右腕を見るとなかなか見事に治っている。後で少し自分で治せば完璧だろう。

起き上がると自分の服が変えられているのに気がつく。

「あらぁ…」

ローブはブーツ、杖に帽子は魔法を帯びた魔道具、今回のような勢い任せの魔法じゃあせいぜい汚れるくらいだが中に着ている服はただの既製品、よく燃える安価な化学合成繊維製だ。

幸いズボンはジーンズだったのと念のために軽いエンチャントをしていたのが功を奏しそのままだが上は…

「あ、これお気に入りのtシャツじゃん…まじかぁ、慰謝料多めにとろう。」

わずかに残った働きたくないのプリント文字が哀愁を誘う。どうやら治療中俺は裸ローブマンだったらしい、女子に治療されてなくてよかった。訴えようと思ってて訴えられるとかシャレにならん、こちとら生活費も怪しい苦学生、今日もこの後バイト…

「バイトォ!?」

一気に目が覚めた。俺覚醒である。

…ふざけている場合ではないローブの内ポケットにしまったスマホを取り出し時間を確認『サイゼリアン』のトークルームを開く。と…

「あ?受信してある。お、休んでいいのか一週間…あ、やばい生活費がががが…」

休んでいいと言う嬉しさとこれから食費を削る必要があると言う脳内そろばんの叩き出した結論の切なさの板挟みである。とりあえず心配してくれている店長に「大丈夫です。ご心配をおかけしました。」と返信し杖を掴んで魔力を熾す。

「『開け』っと。えーtシャツtシャツ…」

使ったのは空間魔法のストレージ、収納でもなんでもいいのだが西でも東でも新魔法が生まれる今は先に生まれた呼び名が正式名称となる。

この魔法は魔力量に応じた異空間を形成しその中に重量を無視して様々なものを出し入れできると言う物、一部の特化型魔道具以外ならどれでも引き出せる汎用性もうりだ。

「よし」

掴み取ったのは『勝ち取りたい』と草書体でプリントされた白いtシャツ、上からローブを羽織る関係で中はいつもダサいtシャツと決めている。安いしね!

ビッグハットにローブ、大きな杖にブーツ、あからさまに魔法使いという風体だが別に好きでこの格好な訳ではない、俺の得意な魔道具がコレらの品々であると言うだけだ。

カーテンを開けるとそこは無人…ではないな、杖を使うことすらなく魔力を熾して見ればそこには保健室の先生という童貞のイメージを凝縮したみたいな女性職員がニコニコして座っていた。

「起きたみたいですね〜よかったですぅ〜」

おっとり、というかもっちりずっしりというか…ふぅ…落ち着け、俺とりあえず軽い挨拶と彼についてか?聞いてみよう。

「すいません、入学早々に…あ、ピアスをした金髪の人が来ませんでしたか?」

「あぁ〜、あの子ですね〜、あの子なら〜え〜っと…」

手を胸の前で合わせて屈み込むように立ち上がる。ごく自然に、あまりに綺麗すぎる動きに男ならば誰しもその二つの巨砲が生み出す無限の可能性に目を奪われるだろう。が、どうやらこれは試されているらしい入学試験とは違う。おそらくクラス分けのテストだろう。

使用されているのは幻惑系の魅了魔法…じゃないな、この童貞の夢みたいな肉感マシマシおっとりショートボブの縦セタ白衣巨乳美女自体が幻術、となると…答えは…

「『風よ』」

「っきゃ!」

びっくりする姿もエチチだがその姿を最後に吹き消えた。代わりに居たのはこれはこれで保険医らしい不健康そうな隈の女性、黒髪ロングに巨乳と白衣はまた最強レベルだが『香り』がしないので本物だろう。

「ふぅ〜、小器用だねぇ」

「いえいえ、杖から万能性を抜いたらマジで何も残らないんで、勘弁してくださいよ」

ふっ息を吐いて微笑むと魔力の熾りが消える。

「合格、よかったね」

「ええ、良かったです。」

タバコの魔法をレジストし正しい出入り口に手をかけて俺が笑うと彼女は不機嫌そうにむくれた。

「なんだよ、ひっかかってくれたっていいじゃないか」

「嫌ですよ試験はちゃんとこなす派なんです。素敵なお姉さんに翻弄されるのはプライベートでだけですよ」

魔力弾も防御して尋ねる。

「ところで真面目に僕の治療をしてくれた人は?」

「ああ、今頃ならグラウンドでちゃんと試験受け終わって寮に帰ってるだろうな…怪我の時とからかって欲しい時はまた来るといい、相談事も乗ってあげなくはないよ、またね」

「ありがとうございます。では失礼しました。」

…とりあえず理知的ながら不健康そうなお姉さんのむくれ顔とにっこり笑顔は男子学生への刺激が強すぎるのでまた来る時は心を落ち着けてからにしたほうがよさそうだ。



パンフレットによると保健室は本校舎一階、つまり此処は五階ある校舎の一階部分だ。

そして更に言うならば朝8時に入学証明書を学生証に変えてもらって各種書類を受け取り説明を受け終わった所で朝9時、そのあと11時まで試験を受け12時までに解散、俺はそのあとバイトの予定だったがすでに時刻は午後1時、再生力向上の魔法は使い手の魔力もそうだが本質は受け手の再生力、生命力への干渉と前借りであり、結果として体力が消耗する代わりに傷が早く治る。だから寝てしまったのは不可抗力なのだが(自業自得)その為に俺は今突発的で変則的な寮へ帰るまでの間試験を受けるという状態になっている。

「うん、欲張ったな」

もう少し早めに耐性魔法を発動させるべきだった。多少疑われても魔法学校の生徒である以上防御の一つや二つはするとして怪我による慰謝料は減っただろうが金自体は絞れただろう。失敗だった。

「反省はここまでで…えーっと、どうしようかな…!」

廊下に魔力が発生、熾りが見えなかったのを見ると…罠かな?

「いい反応だなウスイカズマ」

現れたのはジャージに眼帯、下駄というなかなかに衝撃的な組み合わせのガタイのいい男性、多分…

「数学の講師の方ですよね?」

「お、ちゃんと事前の学校説明を読んでいるようで感心だ。うむ、俺は圭吾、魔法学校一年生上級中位クラスの担任だ。よろしく。」

「よろしくお願いします。ケイゴ先生」

挨拶は大事、古事記とビジネスマナー書にもそう書いてある。

「あー、とりあえずカズマ、今のところお前の評価は中級上位、これからその査定を再考するための試験を突発的に受けてもらう。色々と面倒だろうが2時までには寮につける。受けなければ現在の査定からマイナスでクラスを決めることもできるが…どうする?」

「受けます。というか今からなんですね…」

俺の言葉にケイゴ先生は首を傾げる。…あ、これマジでわかってない、という事は…

「…いいです。とりあえず明日の予定は決まったので」

「お?え?なんで明日の予定が?…ま、まあいいやじゃあとりあえず頑張れよ!」

そう言って彼はぬるっと消える。多分空間魔法使いだな、しかもあれは触媒無し、純粋な魔力操作とイメージだけでのマニュアル魔法…やっぱりすごい学校なんだな此処は!あんな先生に見てもらえればいい就職先も見つかるだろう。俄然やる気が出てきた。

とりあえずさっきから発動してる探査の魔法はこの廊下の空間が20メートル時点でループしているのと結界ではなく局所的な異界化によってこの現象が引き起こされているのを知らせてくれた。

「ふーん、異界化かぁ…」

古臭い魔法だ。空間魔法が体系化してから使役魔獣の召喚も異界からの直接召喚ではなく空間魔法による指定召喚になったというのに…

「あ、そうか威力の問題か…死人が出たらスキャンダルもいいとこだもんな」

1人で解決できたのでとりあえず杖をかざす。

異界化の場合は空間の定義を曖昧にする事で状態を変化させる。これが空間魔法だと逆に空間自体の定義を強固に固定する事で状態を変化させるため手間暇はかかるが強力な魔法を発動できる。

だが今回はただの学生への試験、多少の危機感を煽る為に何かしらの手は打っているだろうが必要な技能や十分な判断力や知識を測るための問題だ。絶対に逃げられない檻を生み出す必要性はないのである。

「『開門』」

とりあえずこの空間を出るには異界化よりも強い魔法による脱出か核の破壊が望ましい、今回俺が選んだのはそのどちらでもないが、前者に近い物だ。

呪文の詠唱が終わると目の前には扉が発生し俺は躊躇なくそこへ踏み込む。その先にあったのは廊下…ではなく桜並木、つまり外である。

「ふむ、まぁそうか」

俺の使った異界魔法『開門』は異界化した空間の曖昧性を整える魔法だ。よって異界の中でしか使えない代わりに少ない魔力と短い詠唱で済むし、効果自体は異界から最も近い出口に放り出される。というシンプルな物、今回校舎内のどの出口が定義されるかランダム性はあったがこの場所で最も概念的に出口だったのが正面玄関だったので此処に出るだろうというのは予想できていた。

少ししてケイゴ先生が空間遷移でヌルッと現れる。

「ふむ、なかなか変わっているな異界魔法なんて教本片手に発動する様なマイナー魔法だが…」

「まぁ、杖ですからね」

俺がそういうと皮肉だと思ったのか励ます様に俺の方を軽く叩く。

「そう言うな、杖は古くから発動体として使われていた歴史ある魔道具だ。使える魔法があまりに多岐にわたる為に器用貧乏なんて言われるが、今のお前の様に適切な魔法を知っていればどんな場面にも適切に対処できる。いい事じゃないか!」

「ええ、まぁそうなんですけどね…」

別に卑下しているわけでも、皮肉を言ったわけでもないのに同情されるのが欠点と言えるだろう。杖の本質は発動補助、他の多くの魔道具の様にそれ自体に意味はない、杖に意味を持たせるのは持ち手の知識と魔力操作次第なのだ。

「何にせよ見事だった。合格だ。」

「ありがとうございます。」

とりあえずこの先生はいい先生であるが少し熱血気味で直情的、善人ではあるがそれ故に少し苦手な部類である。此処はそそくさと寮へ向かうのが得策だ。

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