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巡り廻って未来へ

作者: 紅兎

矢島家と私、三島家は昔から因縁がある。


何がきっかけで争いになるかはわからないがいつも結ばれることはない。


たとえ婚約者になっていても。

時代は大正。



高級料亭で対面するのは矢島吉隆。


名家の矢島家の坊ちゃんが私を指名した理由は解らない。


「あとは二人でごゆっくり」


なんて母上が静かに襖を閉めていった。


静寂が訪れる。

ちゃぷちゃぷと外から池の水音が聞こえてくる。

紅葉の葉が少しずつ色付き始めて秋に少しずつ近づいている。

「あの、ここの庭の紅葉キレイだから…えっと見に行きませんか」

それだけ言うとすぐ背中を向けてしまった。

その背中を見つめると耳まで赤く染まっている。

「座っているのも飽きたことだし見に行きましょうか吉隆さん」

庭へ出てみると少し湿った秋風が吹いていた。

風に揺られる紅葉も綺麗で見とれていると視線を感じる。

「綺麗」

すっと頭に手が伸びてくる。

「紅葉が先に三咲さんに触れたみたい」


「また僕と逢ってくれますか?」

「喜んで。」

なんてあの時は言ってたのに

このお見合いの時運命は静かにゆっくりと狂いだしていたのかも知れない。

親族同士で結納の話が進められていたのに

ある日ぱったりと話がなくなってしまった。

理由は父様が吉隆さんにぶつかって怪我を負わせてしまったから破談となった。矢島家はこの街一番権力を持った家柄。

矢島家当主がそれを許すはずもなく父様は死罪、母様も後を追うように病気で亡くなってしまった。

私には一人だけ兄がいるがもう連絡も取れていない。

私にはどうすることもできなかった。

こんな私を最後まで気にかけてくれたのは吉隆さん。

この町で一番見晴らしのいい高台で彼は私に

「一緒にいてやる」

その言い方に違和感を感じ手を振り払うと強く体を後ろへ押された。

崖から海へゆっくりと落ちていく体。

「三咲さん!!」

吉隆さんが手を伸ばしているがもう掴めない。

私の体は深い海へと沈んだんだ。


ただ一つ思ったのは

最後に「一緒にいてやる」と声を掛けてくれたのは吉隆さんじゃない別の誰かだということ。








「ってゆう夢を見た。」


「何その重くて暗い話…」



「自分でもびっくりしたの!だって水の冷たさとか押された背中の感触がすごくリアルだったんだ。」



「最初会った時、初めて会った感じがしなかったんだけど生まれ変わりとか?似たような夢ならを見たことがあるかも」


夕暮れの公園の帰り道。

街が朱に染まっていく。

高台の公園まで来ていた私と陸。

海風がながれてくるこの場所だからこんなことを思ったのかも知れない。



「陸、喉乾いたーお茶買って来て。」

「はいはい。」

「お金「いいよ、今度何か買ってもらうから」

ベンチに座っていると戻ってきた陸。

「さぁ帰ろうか。」

「お茶は?」

「売ってなかったよ」

「ふーん」

階段に差し掛かる

ドン

と押される背中

さっきの夢と同じ感覚が蘇る。

一つ違うのはお茶を持った陸の腕に支えられていること。

「何してんの」


「陸が二人?」

「あれは僕じゃない。」



同じ服を着ているが髪型や表情が別人だった。


「湊兄さん、今何したの」

笑顔を止めてこちらを見据えた。

「やれやれ今回は失敗か…前はうまくいったのに」


「はっ?」

耳を疑った。

まるで昨日見た夢と同じじゃないか。

突然頭の中に声が響く。


[逃げて…また繰り返される]


でもそれは紛れもなく私の声で。

湊さんは喋るのを止めなかった。

「滑稽だったなぁ。崖の上から落ちていく女を見据えるのも躊躇なく崖から飛び降りる男を見るのも。まぁあのあと俺が死んだことにして跡取りになる事は簡単だったけどな。」

陸が静かに口を開いた。


「何が気に入らないことでもあったのかよ。」


「全てさ!生まれた順番も家も待遇も全て」


「なんで三咲さんは関係なかったはずなのに」


「こいつを利用すれば俺の計画は完璧だと思った。まさに思い通りだ」

目の前に立っている二人が袴姿に見える。

これは前世の二人。

あの夢は危険が迫ってるから二の舞にならない様にという忠告だったのだと気づいた。

「陸、もうやめよう。」

「でも、」

涙が頬を伝う


「前は幸せになれなかったけどさ今は違うんだから現世で幸せになればいいと思うよ。湊さんも前は争いが絶えなかった世界だったかもしれないけど今は違うでしょ。今は陸の従弟なんだし」


「そうだなでも俺たちの世界にお前はいらない。」


「さよならは言わないよ。またね、陸」

目を閉じて暗闇が広がり何も聞こえなくなった。

後ろへ体を押されても痛みが襲ってくることはない。


ふわっと優しい両腕の中に納まっていた。

「今度は助けることが出来た。」


陸だけど陸じゃない。

これは多分、吉隆さんだ。

白い学生服に身を包んでいた彼。


私は彼から感じる優しい雰囲気を懐かしく感じる。


「もうやめようか。」

私の体を陸に預けて湊さんの方へ歩み寄る。


「俺はもう…」



私の口から吐き出される言葉は私が言っているわけじゃない。



「また最初からやり直しましょう。未来のこの子たちに託して」


膝を地面に着けて

「もう終わりか…ただ俺は認めてほしかっただけなんだ。」



と呟いた。


湊さんの体から黒いドロドロした感情は空気に溶けていった。


白い学生服を着た吉隆さんは


「僕らが見れなかった未来を二人で歩んで」


と言って消えて行く。


私の頭の中に聞こえてた声も同時に聞こえなくなった。



茫然と立ち尽くす陸と膝をついたまま動かない湊さんの腕を引っ張り立たせた。


「もう帰ろう。早くしないと暗くなるよ」



湊さんが申し訳なさそうに

「咲さん、ごめん。謝って許されることじゃないだが俺はどうかしていた。」


「もういいですよ。どこかでご飯でも食べて帰りましょ」


「酷いことしたお詫びにはならないかも知れないが…俺が奢るよ」


「そうしてくれるといいかな。咲、さっきは守れなくてごめん。でも次は絶対守るから。」


「お願いね。」



他愛のない話をしながらその場を後にする。



[ありがとう]



誰かがそう言った、そんな気がした。



                      終

このおはなしを読んで戴きありがとうございます。

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