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中央芝生で

さえない男子学生がすてきな女子と出会ってしまった。

 中央芝生で


 中央芝生の縁で寝転んでいた常二は、時計台の上に広がる青空と雲の群れを眺めていた。

 二回生に進級して、近づくゴールデンウィークをどんなアルバイトをしてしのごうかと思案をしているのである。

 故郷の母が営む商売が不調で、毎月の仕送りが送れなくなったとの連絡を数日前、母からの電話で聞いたところである。

 もともと母子家庭で、裕福でない上に、一浪して受験した国立大学がまさかの不合格になり、今の私立大学にやっと滑り込めたのだ。進学を諦めようとした常二を母が説得し、入学したものの、関西の大学の中では、学生が派手に遊ぶと評判の学校だったため、常二は大学にあまりなじめずに通っていた。

 常二は音楽と文学が好きだった。入学して何人かの友人はできたが、遊び歩くこともせず、下宿や時計台の図書館に籠もって本を読むか、好きな音楽を聴くかの地味な生活を送っている。

 六甲連山の方向に雲が流れてゆく。緑が強い山を背景にして時計台の白色が浮かび上がる。

 心地よい風が顔を吹き抜ける。眠りに落ちそうになったとき、常二のすぐそばに二人の女子学生が腰を下ろした。

「ちょっと近すぎるのでは」いぶかしく思って、目を細めに開けて女二人連れを盗み見した。

 長い髪の方は、色の薄いデニムに、長袖の白シャツ、紺色のトートバッグ。ショートの方は、黒のワイドパンツに胸元が大きく開いたロングTシャツ。二人ともしゃれて見えた。私学なので、付属の中高から上がってくる学生は裕福でおしゃれな学生が多かった。

 見ていないふりで、こっそりと二人の女性を見ていると、何かのライブに行く相談をしているようだ。時折、常二の知っている神戸のライブハウスの名前が聞き取れた。

「美人だから彼とでも聞きに行くんだろうな」ぼんやり考えていると、長い髪の方が空けた飲み物が派手に吹き出して、常二の顔面に降りかかった。

「うわっ、ごめんなさい」

 あわててバッグからハンカチを取り出した女は、顔を押さえている常二の手を払って常二の顔面にハンカチを当てて拭きだした。

「いやっ、大丈夫です」

「ごめんなさい、ほんと。こんなに飛び散るなんて」

 すまなそうに眉尻を下げて謝る。

 こんなに無防備な女子の顔を見たことがないと思って、常二はあらためて女の顔を見た。

「いいですよ、服も濡れてないから」

「おどろいたでしょう」と少し安心した様子で、上目で笑う。

 つられて常二も笑ったが、少し引きつって見えたかも知れない。

 きれいな女をこっそり見ようという下心に、文字通り冷や水をかけられた格好である。

「文学部?」

「そう」

「何回生?」

「二回生」

「じゃあおんなじだ」ショートの女と顔を見合わせてほほえむ。

 こんな美人と話せただけでも儲けものだと思いながら、立ち上がる。

 長い髪が、お詫びにこれどうぞと言って手を差し出したので、常二もつられて右手を出すと、アメが二個載せられていた。

「アメちゃん、大阪のおばちゃんやん」

「うちの気持ちやから、食べてね」と言った。


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