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籠の中の鳥達  作者: ARS
2/7

第二話 血に濡れの館

悪魔の件から数時間ほど経ち、次の日の朝となっていた。皐月は寝ぼけ眼で軽く目覚ましのストレッチをすると、いつものように台所で昨日の余りを食べようとする。

しかし、冷蔵庫の中には何もなく昨日は夕飯を作ってないことを思い出す。


「おや、皐月君おはよう。今日も元気にご飯を作ってるな〜」


仕方なく皐月が朝食を作っているところに土戸が入ってくる。そして、土戸は牛乳を取り出すと軽くコップ一杯飲み干して近くの椅子に座る。


「お、そうそう今の牛乳代ね」

「律儀にありがとうございます。でも、本題は違いますよね」

「ふふ、鋭いね。ていうか、分かるかぁ〜普段戻ってないもんな〜」


土戸はそうぼやきながら話し始める。


「では、金糸雀の組織理念でもまずは話しますか」

「そこらへんも分かってないし頼む」


皐月は料理をしながら耳を傾ける。土戸はそれを微笑みながら見て、話し始める。


「金糸雀という鳥を知ってるかい?」

「確か、鳴き声が綺麗で愛玩動物で買われてるとか」

「そうだね〜まぁ、そこもあるけど、そこじゃ無いんだな」


土戸はそう言って笑うと籠を取り出す。


「籠の中の鳥という意味さ」

「なんか、嫌な言い回しだな」

「まぁ、確かに嫌な言い回しだが本当の意味はそこじゃ無い。俺たち組織は基本的に異界への進出はせずに地球だけで活動している」

「ん?待て、異界って何だ?」


皐月は聴き慣れない言葉に思わず聞き返す。土戸はその質問が意外だったのか一瞬、首を傾げるがすぐに自分のミスに気付く。


「そっか、一般には公開されてないか。異界というのは漫画とかラノベにある異世界だと考えてくれ、まぁ、それだけじゃ無いけど」

「オッケー、何と無く分かった。てことは、俺達の組織は基本的には異世界に関わらずにこの世界で活動してるわけね。色々と突っ込みたいけど」

「いや、宇宙進出もしないから地球上だけね」

「なるほどなるほど」


色々と皐月は混乱しそうになりながらも何とか理解をしていく。金糸雀の組織の行動範囲は地球という一つの星に基本的に限定されている。

時折、異界に行ったり月に行ったりとするが主に地球でしか活動をしていない。故に籠の中の鳥ということである。


「そして、もう一つ。金糸雀という鳥は毒に反応しやすい。要するに昨日みたいな毒に反応して動くのさ」

「そういえば、鉱山で毒物がないか検知する際に金糸雀が使われたとかいう話もあったな」


そういえばと思い出す金糸雀の知識。皐月はなるほどと頷く。要するにこの組織はこの世界に留まり膿を取り除くことをしているのだ。


「そうそう、そして最後に俺達は金糸雀の鳴き声が素晴らしいように何らかの一芸を持っているのさ」

「一芸?」

「要するにメンバー一人一人が何らかの優れた点を持った少数精鋭部隊と考えていくれ」


その言葉に皐月は「あー」と納得する。

例えば山口のように幾つものパワードスーツの同時展開などと言ったように何かしらの強力な武器を持っているのだ。


「それだと、俺は当てはまらなくないか?」

「いや、それがどっこいという感じなんだよね」

「ど、どっこい?」


皐月は土戸の言い回しに混乱を覚えるがなんとか落ち着かせて聞く。


「皐月君は抗魔体質とか言ってるけど実際違うと言われているんだわ」

「そうなのか?」

「あぁ、その体質は先天的に起きる体質で皐月君は生まれた時にはその体質は発見されていない」

「マジか」


皐月は自分の体質についてではなく、組織の情報網に驚くが土戸から見ると自分の体質に驚いてるようにしか見えずに話を続ける。


「そして、その体質というのは魔力の放出ができずに別名『魔力硬直障害』と呼ばれ、魔力の硬直のせいで体が硬く、最終的には自身の魔力によって身を滅ぼす体質なんだわ」

「…それって、死ぬってこと?」

「端的にいえば」


皐月は身震いをした。自分が死ぬかもという恐怖が湧き上がるがある疑問が残る。


「あれ、当てはまんないぞ」

「そうなんだよなぁ、でも確かに魔力は放出されていない。だからと言って魔力によって身を滅ぼす様子もない。そんな理由もあって別の体質なんじゃないかと言われている」


そう、確かに皐月の体質は非常に抗魔体質と酷似しているものの、要所要所で違うことが分かる。


「まぁ、要するに皐月君の体質は抗魔体質非常に酷似しているが、違う何か別の特異体質ということだ。それ充分才能と足り得るだろう?なんてたって抗魔体質の良いところどりみたいな体質なんだからよ」

「そう言われるとそうですね」


皐月はなるほどと頷く。というより、驚いていた。凡人だと思っていた自分にそんな才能があるなんて思って見なかったのだ。


「おっと、味噌汁ができてるな」


皐月はふと、見ると味噌汁がしっかりと煮えており、いい具合に出来ていた。

その他のおかずなども既に出来てるもの、市販のものなどを使っている為朝ごはんは出来ていると言っても過言では無かった。


「おぉ、皐月君のご飯が出来とる!いやぁ、普段は酒のせいで覚えてないけど美味しいというイメージがあるから嬉しいねぇ」

「あはは、ありがとうございます」


そうして、皐月達はリビングに朝食を並べて食べ始める。


「それで、組織理念は分かりましたけど主な仕事は?」

「あー、それ聞く?聞いちゃうの?」

「あれ、何かおかしなこと言いました?」


皐月としては地球にある膿を取り除くだけしか聞いてないので土戸の言い方に違和感を覚える。


「まぁ、聞くよなぁ。あまりの内容に失望するなよ」

「まぁ、非合法な組織っぽいですしまともなことではないでしょう」


皐月は自分の予想を言ってると土戸は地味に引きつられせていた。


「うん、主な仕事ね。仕事内容はゴミ捨てやゴミ拾い、犯罪者の捜査協力、山の遭難者の捜索…その他諸々かな」

「は?」

「うん、分かるその反応。でも、主な仕事内容がそれなんだわ」


皐月はあまりにも予想外のことに呆けていた。そして、混乱した状態のまま言葉を紡ぐ。


「え?ほら、他にも組織間の色々とか抗争とかを想像してたけど…」

「世の中、そんな破茶滅茶じゃないんだよ。それにこちらは膿を取り除くためにやってるから敵対組織なんて早々作らないように上手く協定を結んでいるんだなぁ」

「え?なんか、意外というかただの慈善活動じゃね?」

「確かにそうだねぇ、でも主な仕事であって本業は別だからね。あくまで多少の膿を取り除く為の資金稼ぎの名目が強いし」


土戸の一言に皐月は「あ、資金稼ぎなのね」という納得はいくものの何処か納得し切れない何かがあった。


「なら、本業は?」

「今は昨日の件にも関連した『魔導至上主義派』の過激派の排除または更生かな」

「魔導至上主義派?」


皐月は何となく分かりはしたものの詳しい情勢などを知らない為に聞いてみた。

するとすんなりと答えが返ってくる。


「そうだね、彼等は基本的に魔法についての可能性をとことん突き詰める派閥で過激派は魔法こそが至上として、他の技術を蔑ろにするどころか悪しきものとして排除するような集団だよ」

「なんか、悪徳宗教染みてますね」

「まぁ、問題起こすのが悪魔復活しかり、大きいのがばかりでそう思われがちだが、穏便派基本的に現実主義者の集まりでこの科学の世界にどうやって魔法という技術を参入させようと社会情勢を踏まえた上で検討して両者の折り合いを付けようとしてるのだけどね」


土戸の言葉に皐月は「世の中どこにでも優秀な人はいるし、それを台無しにする迷惑な奴はいるものだな」と思ったが口には出さずに「へぇ」と頷いていた。

しかし、その魔導至上主義派の理念は早々には上手くいかないものである。現在ある科学という技術でも実際のところ手一杯な中で魔法という技術が入ることによる社会的混乱は想像以上のものになることだろう。そういうこともあり、魔導至上主義派は過激派が多くなる傾向があるのだが、現在のトップは今の状況での魔法の有用性を作ろうと努力しているのだった。

それが決して表に出ないとしても。


「よく出来た人ですね」

「まぁ、実際に伴った才能はないが賢者という称号を貰うだけの実績などを挙げているからな。凡人も頑張ればそれだけのことが出来るという事さ」


そう言った話を皐月は土戸から話されて続いては現在の組織間の地位や構造について話された。


現在、金糸雀は完全中立を貫いており、魔導至上主義派からも過激な連中を止めてくれとの依頼も貰っているため多少の過激派とのいざこざも何とかなる状態らしい。少数精鋭で危険ではあるのだが数はいないので他の組織が手を組んで潰しにかかられたら簡単に潰れてしまう可能性があるらしい。しかし、金糸雀の組織のように完全中立などのように他組織間での友好関係は早々には築かれずに酷く特異な立ち位置を金糸雀は持っていた。


「なるほど、毒を避けて進んでいるってところか」

「お、上手い!座布団一枚!」

「いや、上手いか?」


そんな茶番も挟みながら説明は続いていく。


現在の組織で有力なのが7つと5つある。

その組織はそれぞれ勇者や英雄と言った存在を囲っており、強力な手駒を持った組織なのだ。

勇者が七人。時代によって人数も種類も違うが今代は皐月と同じくらいの年代が多く『剣』『槍』『銃』『知』『鎚』『弓』『拳』の7種類の勇者がいるようだ。

さらに英雄も勇者と同じで『戦乙女ヴァルキリー』『カンナギ』『血濡れのアサシン』『紅の騎士バーサーカー』『聖騎士パラディン

など言った勇者や英雄達が名を馳せている。それらの存在は基本的に異界で人間に対処できない存在を倒す為に戦う。彼等の才能はそこらの凡人とは違いたった一人の存在で負け戦を逆転させるだけの影響を持っている。

しかし、それぞれ保有している組織間は基本的に仲が悪く協力関係に殆どないらしい。それはもう殺し合うほどにまで。


「うん?何となく分かったけど…ダメじゃねぇか!」

「まぁ、英雄同士だからって仲良くなれるわけじゃないという事だよ。基本的にそう言った組織は先代…要するに祖先が作った組織だからね」

「おまけに遺伝かよ!というか、英雄の方やけに物騒なの多くないか?」

「あー、あれはやらかしたことから付けられることが多いからな…多分、今代の人達は盛大にやらかしてるんじゃない特に『紅の騎士』は」


皐月は強く生きろよと顔を引きつらせていた。


因みに土戸の予想は大当たりで紅の騎士は異界で起きていた戦争を止める為に真ん中で大声で立ち止まったのだが、それを一切無視されて戦いが起きた結果…その戦場は人死は殆ど無かったものの両部隊を血の海を作って壊滅させて真っ赤な返り血が大量に付着していたことから付いた名だったりする。


「まぁ、こんな感じだな。別段変わったことのない感じだな。それぞれの組織の関係なんて説明したらドロドロ過ぎるし関わること無いし第一覚えてないしめんどーだからな」

「なるほど…要するにこう言った常識?的なところを覚えればいいわけか」


皐月は先ほどの会話をしっかりと噛み締めて覚えているとある事を思い出す。


「そういえば、今日友人が来るんだけど」

「それは一般人?」

「まぁ、一般人だよ」

「なるほど、大丈夫だ…今日はいつの間にか報告されていた昨日の件で呼び出されているんだ…はぁ、怠い」


土戸はそう言って食べ終えた食器を片付けて「行ってきます」と言って家を出る。その背中は先程までの元気はなく、とても煤けて見えた。


「んじゃ、そろそろ裕人達もこの街に来る頃かな?」


皐月はそう言って部屋に戻って着替えるのだった。


**


ある電車の中で坂本 大成は締め切りも終えてネタ探しも含めて旅に出ていた。


「いやぁ、さっきは寝過ごしちゃったよ」


坂本は小声でそう呟きながら電車の椅子で思いっきり背伸びをする。そして、ふとある男女が目に映る。


(おや、これはネタに…)


坂本はそうほくそ笑んで見た時、ふと気付く。

空気が悪いのだ。いや、別に空気が澄んでいるとかではない。淀んだ雰囲気が辺りを包んでいたのだ。

それは坂本が注視した男女から放たれており、とてもじゃないが近づけるどころか落ち着いて観察できる雰囲気では無かった。

何故か無関係である筈の坂本が気まずくなり、目を逸らしつつもその二人を見ていた。


「やーね、雰囲気が悪いわ」

「あそこのカップルよ。何かしら?喧嘩?別れ話?」

「いや、違うでしょきっと倦怠期だわ。私達にもあんな時期があったわねー」

「そうねー、そう思うと微笑ましいわね」

「この雰囲気もあの時期だから出せるものよね」


とおばさま達が話しているが坂本は気が気でなかった。


(ちげぇだろ!あれはマジもんの殺意だよ…ていうか、マジで何であの二人お互いに殺意向けながら一緒にいるんだよ!)


坂本は今すぐこの車両から離れたい思いでいっぱいだったと後の坂本は語ったとか語ってないとか。


**


金糸雀先住町支部の会議室にて山口、マスター、土戸が集まっていた。


「あれ、坂本達は?」

「あーあの人達はいつもどおりどっか行っている。坂本も早朝から出ちまったな」

「なるほどな、あいつららしい。それに今回は坂本に下級悪魔の退治の手伝いさせたくらいだしいなくてもいいか」

「まぁ、責任を分散させるという意味では欲しいというところですがね」


マスターはさらりと本音を漏らすがそれを外に持ち出すものはいない。いたとしても何人かいる支部で働いている秘書達くらいだろう。

そして、マスターは基本的に立場は下の為、山口達に敬語を使って話していた。


「そもそもが人手不足というのが問題だよな」

「まぁ、俺達がこの街出身だからできた支部だしあんまり人をまわされないのも当然じゃね?」

「まぁ、田舎ですしね」


三人とも笑いながらそう言って真顔に戻る。


「さてと、今回の問題は俺達に通されずに本部に送られた報告書にある」

「あー、まぁ、俺達が碌に確認したことないのが裏目に出たな」


山口は普段の書類仕事の投げ出し具合を思い出してため息を吐く。

そもそもがこの支部でのトップは土戸、山口、篠崎、マスターを始め、あとは坂本と他三人にある。

しかし、坂本含めた四人は分かる通り。篠崎なんて誰も何も言わずとも研究に没頭して来ないと分かっているのだ。そして、残り三人は書類仕事をするものの報告書まで纏めたりする時間がなく投げ出してるのが現状である。

更にはそれぞれ居酒屋、教師と何らかの副業をしており、余計に時間がないのである。


「部下って誰だっけ?」

「あー、あれだよ…あの秘書の嬢ちゃん…あの子は確か学生なのに優秀だったよね…」


山口の疑問に土戸はすぐに答える。勝手に報告書を出した件に対して文句を言いたいがあくまでも指揮系統としての立場の上であり、基本的なことでの立場は実は同じである。


「マスターは基本的に戦闘向きじゃないしなぁ〜多分、総括に報告行ってるし下手したら中立関係崩れるかもな」

「そのためにも俺達が対処法を考えているんだろ。当事者はとりあえず足止めに使うけど」

「山口さん、それは余計に亀裂を生むんじゃないのですか?」

「でも、マスター。あいつなしであの二つの組織が納得すると思う?なら、むしろあいつを出して説得する方が良くないか?あいつも自分がどうにかするとか言ってたし」

「それしかないですか」


マスターはため息を漏らして鬱になる。そもそもが皐月が二つの組織から巻き込んではいけない保護対象として圧力をかけられていたので、巻き込んでしまったことにより、二つの組織に敵対行動と取られる可能性があるのだ。


「はぁ、でも皐月なしじゃ、正直今回のは人手不足でどうしようも出来なかったんだけどな」

「そんなこと聞いてくれると思う?」

「思わん」

「思わないですね。特に二つの組織はそれぞれ勇者と英雄がいますから立場的にも上ですし、そんなところの身内に手を出したらキッチリと報復行動を取るでしょう」


三人は思い悩んで結局何も思い付かずにいた。

結果的には山口の出した案を通して、皐月でも使える初心者御用足しのバッテリー式パワードスーツを探しに倉庫に赴くのだった。



**



一方その頃、皐月は駅の前でのんびりと幼馴染の二人が来るのを待っていた。当の話の本人はまさか自分が悩みの種になってるとは知らずに土戸から送られた詳しい組織の資料をスマホで見ていた。


一番最初に書かれていたことは昨日の事件のことであり、事の顛末が書かれていた。


この事件は約一週間前、皐月が門が見えるようになった頃から始まった。封印の儀式は最初のうちは力もなく、少しずつ人々から魔力を吸い込むだけで始まったため正確な時はわかっていない。しかし、事件を起こした男、ヘルト ディレスがこの町に来たのは一週間前なのでその日の内に行われたとされている。


要約するとこんなことが最初の辺りに書かれているがとても長い堅苦しい長文で皐月は疲れて一度資料を閉じる。


(どうしてこうも面倒な言い回しするのか…理解に時間がかかって仕方ない)


そう愚痴をこぼしながら駅を見る。先住町は少し大きいめの町だが、根本的には田舎なので駅は小さく、簡素な作りとなっていた。そこから見える電車が止まってる光景を見て、二人が来たかなと皐月は目を凝らす。


ゴールデンウィークというのにも関わらず出てくる人は少なく、逆に入っていく人々の流れの中で一人の少年を見つける。


「よう、皐月。久しぶりだな」

「そうだな、少し会ってないだけだがもう随分会ってないような気がするな」


そうやって挨拶をし合う少年が裕人である。

本名を鶴城つるぎ 裕人ひろと見た目は茶髪で顔は整っており、ちょっと髪型を変えればモデルとかにいそうな雰囲気などを纏っていた。

現に、すれ違う過程で裕人を二度見した女性が何人もいたほどだ。

しかし、髪型は流行とかではなく、普通に短めと言った状態でこれである。


「あれ、千莉は?」

「あぁ、あいつは急遽用事が入ったらしくてだから早く…」

「誰が用事が入ったって、裕人?」


その瞬間、どす黒いオーラを裕人にぶつける黒髪ロングの少女が裕人の背後に現れる。危うく刺されるのではと感じるオーラを纏った少女は皐月の幼馴染である守結かみゆい 千莉せんりである。見た目は清楚で物静かで大人しそうな雰囲気持っており、背も少し小さめである。


「おぉ、千莉。久しぶりだな。相変わらず小さいな」

「ん!?何が小さいって?胸?胸を指してるの?」


皐月は久々に会ったことから忘れていた。そう、千莉は自分の胸の小さいことをひどく気にしているのだ。

故に小さいと言う言葉に過敏に反応してしまい、そこには狂気が見え隠れしている。


「いや、別に胸じゃなくて背の話を…」

「ふーん、そうだね…そんなに大きい方がいいの?」


裕人は既に退避しており、皐月は必至に弁解しようとするが千莉は聞く耳を持たずに迫ってくる。

そして、皐月の視界がぐるりと回る。浮遊感を味わい、体が縦に回る感覚に不快感を覚えながら皐月はつぎの瞬間には地面に叩きつけられていた。


「かはっ!」

「…あ、またやっちゃった」


千莉は投げ終えるとハッと、正気に戻り後悔が押し寄せてくる。


「ご、ごめんね皐月…私、また…」

「…大丈夫だ…お前のコンプレックスに知っていたのに踏み抜いたのは俺だから…」


皐月はそう言って立ち上がる。背中から思いっきりいったようで必死に背筋を伸ばしている。

千莉は「ごめんなさい」と言いながら皐月の背中をさする。


「全く、相変わらず千莉は危ない奴だ」

「いや、そこまで言わなくても…」

「ふーん、裕人だって周りが見えなくなって色々とやらかす癖によく言うね」

「って、千莉も乗るの!」


そこから暫くは二人の口喧嘩が始まった。皐月はその二人を見てやっぱり二人とも仲がいいなと思うのだった。


「第一、裕人は人の迷惑を考えずにいつも行動してもてはやされて、その裏の努力も少しは考えてほしいよ」

「あん!お前もいつもいつも陰気臭い手段使ってもっと堂々としろや…うわぁ、陰気臭さが移るわ」

「何言ってんの?私は頭を使ってるの。そんなことも分からないの?そうだったね。あなたは犬並みの頭しかない脳筋だからね…あ、失礼、犬の方が頭がよかったね」

「何だと、お前だって頭の良さと言う意味では人のこと言えないだろうが!」

「やっぱり二人とも仲良いな」

「「どこが(だ)!」」


そうやってやられるやり取りは本当に仲が良いのだろうか?周りはそんな風に考える中で皐月だけは笑っていた。それに毒気が抜かれたのか二人はため息を吐いて喧嘩を止める。


(二人とも仲は良くなったけど、前より過激のような…)


皐月は知らない。二人の本心を…。故にそんな勘違いをいつまでも続けるのだった。



**



「最後もストライクだ!」


皐月はそう叫んで倒れゆくピンを見ていた。そして、すべてのピンが倒れ、皐月は後ろの椅子に座る。


「最初二回のスペアが無かったら全部じゃ無いか…相変わらずすごいな」

「やっぱり、皐月が一番才能に溢れてるよ」


幼馴染二人はそうやってお世辞を言ってきていた。皐月は照れくさいように頬をかくと次は裕人が立つ。

そう、今三人でボーリングに来ていたのだ。今のところ皐月は最初にストライクを取って、次にスペア二回をとってからずっとストライクを取り続けている。

そして、裕人は…


「おっしゃ!初ストライク!」


そう言ってはしゃいでいた。裕人の成績は基本、数本しか落ちないまたはガータしかなくストライクに凄く喜んでいた。


「よし、ようやく理解した」


裕人がそう言うと大袈裟に体を動かし始める。皐月はそれを知っている。裕人が大袈裟にやる時は大抵の場合、やっと慣れたことを指す。しかし…


「なんでだぁー!」


数本しか倒れずに嘆いていた。裕人はそれを何回も繰り返してようやく出来るようになるのだ。裕人は根本的というか肉体的には運動ができるのに、何故か最初のうちの筋はとても悪いのだ。故に彼が体育で成績が良かったのは持久走だけだったりする。


そして、次は千莉が立つ。彼女は一つ言うなら異常と言うべきだろう。今までのスコアは全部スペア、全てが倒しやすい形に一番最初で変えられているのだ。


「よし、スペア」


千莉は当然と言わんばかりそう言うと次のを見定める。因みに最後の挑戦か分からないが先ほどのスペアは二本離れた奴をスペアとして取っており初心者が出来るものでは無かった。

千莉は地頭はとてもいいのだ。しかし、感覚に全て任せすぎているせいで彼女は計算というものを知らない。あえて言うなら全て当たり前に分かることというように彼女の中で動かされているのだ。


「うん、予想通り」


千莉はそう言うと最後の一回はストライクを取って帰ってくる。皐月は相変わらずだなと千莉に言う。千莉は無言で頷くと「どうする?」と聞いてくる。


「うーん、皐月はどうする?もう暫くボーリング続けるか?」

「ここら辺じゃあんま見て回るところないしもう少しいてもいいと思うが?」

「なら、もう一ゲームしよっか」


千莉がそう言って新しく追加でゲームを始める。

皐月達三人はこのままボーリングを続けるのだった。


「そういえば、海外留学とかどんな感じなんだ?」

「うん、あぁ、そうだな言葉も覚えてきたしようやく本番って感じだな」

「へぇ、それで留学先ってどこだっけ?」


皐月は裕人の留学先での生活を想像しようとしたが出来ずにもっと想像しやすいように国名を聞く。


「あー、あんまり名前とか聞かないような小国だぜ。聞きたいのか?」

「いや、むしろ気になるだろ」

「なんだよ、聞きたいのか…仕方ないな。国名はイリスティっと言って本当に早々に情報が出るような国じゃないんだぜ」

「確かに聞いたことないな」


皐月は余計想像できないが楽しそうで何よりと思っていると千莉が「次は皐月の番だよ」と戻ってきて皐月は席を立つ。


「そういえば、二人とも留学先では学力は上がったか?」


皐月はそう言って球を投げる。その球は急激なカーブをしつつ綺麗にストライクを決める。内心「よっしゃぁ!」と歓喜しながらも平静に二人の話に耳を傾ける。


「…まぁ、うん…学力…な」

「だ、…だいじょうぶゅ」


皐月は席に戻ると二人は盛大に目を泳がせていた。どうやら、皐月の知る頃から学力は上がっていないようで呆れるしか無かった。


「二人ともよく受験合格したな」


その言葉を皐月が放った時、ふと違和感を覚える。その違和感はすぐに消え、二人は声を震わせながら答える。


「あいあむラッキーボーイ!」

「ほ、ほら…と、時の運というやつだよ…ね?」


皐月は二人の言葉に顔を引きつらせる。なんだか取り繕った様子に皐月は大丈夫なのかと頭を抱えるのだった。



**



「見よ!バッテリー汎用機アストラル式k115番だ!」

「ふん、山口はこれだからダメなんだゼィ!アストラル式のバッテリーなんて古い!古い!!バッテリー特化機エレメンタル式格闘型『クンフー』こそ皐月君にぴったり!」

「ふむ、確かにそう言った人気なのはいいでしょう。しかし!バッテリーと言ったらそのタイプの大御所!汎用機エレクトロ式『N』こそ皐月君を確実に守ってくれるはずです!」


そうやって議論しながら山口、土戸、マスターは互いに見つけた機体を見せ合っていがみ合う。

山口が出した機体は汎用機アストラル式k105番のバッテリーバージョンである。騎士タイプであるこの機体はスピード特化されてるとは言えでもかなりの防御力を誇っている。そして、付属に騎士剣も付いており使いやすいと見ている。


土戸が出した機体はエレメンタル式のもので、特化機などを主に出しているところからである。『クンフー』の特徴は硬い装甲と格闘戦に特化した装備となっている点である。


対してマスターが出したのはバッテリー式のしか出していないエレクトロ式であり、とことん誰にでも使えるようにした汎用機『N』である。この機体の特徴は遠中近と出来る豊富な装備と飛行能力そして、バリアー機能まである器用貧乏な機体である。


その様子を書類仕事の為に来ていた他のメンバー達が呆れて見ていた。

人によっては「男はいつまでも子どもなのね」と呟いている人もいれば「漢は特化機だろ!」と言っている人もいる。


それを見かねた秘書の少女が倉庫からある機体を取り出す。


「姫川 皐月のデータから見てこれなんてどうでしょう?完全近接型特化機ジャパニーズw式のネタと呼ばれたバッテリー式の『SAMURI』とかは?」


それを見た瞬間、三人の顔が引きつる。


「いや、これ刀がどこにあるか分からないのに出た機体だからな!」

「そうだぜぃ!刀が無いのに侍なんて馬鹿げているだぜい!」

「そうですよ、格闘戦も優れてますが刀術用の機体でもあるのに刀が無いなんてナンセンスです!」


三人の言葉にため息を吐く秘書はどこか余裕そうだった。


「彼は刀術や武術などを習った経緯があります。その彼ならこの機体の真意について分かるのでは?」


その言葉に三人は絶句して何も言えなくなる。

そして、それを見た秘書は勝ったとドヤ顔をしており、この場にいた全員は思った。


(相変わらずあの子の言いくるめすごいな…というか、いつものように平和だなぁ)


と日常風景になっていたのだった。



**



「久しぶりの手合わせだな」


皐月はそう言って竹刀を構えていた。

現在、皐月達はある道場の人にお願いして道場を使わせてもらっていた。

皐月の目の前で竹刀を構えているのは裕人であり、互いに同じ流派である。

因みに千莉は基本的に自己主張もせずに手合わせなどはしないでひたすら見取り稽古をしていたりする。


「喧嘩とは言えでもほどほどにね。では、始め!」


そうして、仲裁するのはこの道場の主である。彼の合図と共に皐月と裕人は一歩踏み込む。互いに振るうのだが、音はしない。お互いに当たる前に離したのだ。


「ふぅ…」


互いに息を整えながら次の手がいく。速いのは裕人だった。皐月はいなすように竹刀を傾けるが一瞬ぶつかるとすぐに裕人の竹刀が離れる。

そうして、裕人の連撃が始まる。

互いに殆ど音は立たず、決定打になるまでは互いに様子見するようにいなし、連撃を続ける。

途中で連撃が止まれば攻守が交代し先に根負けした方が負ける。

お互いにすぐに連撃に移る為に極力、相手の攻撃をいなそうと動く。


もし、いなされれば振り抜きの姿勢となり、一番大きな隙を生んでしまう。それを避ける為にも互に当たる瞬間竹刀を引かせている。

お互いに相手のバランスが崩そうと詰め寄ったり反対に離したり、体を逸らしたりと多彩な動きをする。


彼ら二人の攻撃に刃は立てられておらず、いなしに合わせて傾けてすぐに次の攻撃へと続けていく。互いに一撃を狙う為に刃の消耗を最低限に抑えているのだ。(竹刀だけど)


一手でもミスれば隙となり、負けは確定する。隙を見せないように互いに下手な賭けはせずに防ぎ、攻める。

連撃の終了の隙は最小限にかつより速く迅速に動く、そして、相手の次の手を読みどうやって相手の隙を作るか…。


(ここに入り込めば)


皐月は防御の時に一歩前に出る。間合いを詰められた裕人はやりにくそうに下がりながら竹刀を振るう。


その時、裕人に隙が生じる。


皐月が攻撃をいなすことに成功したのだ。


「っな!」


裕人が皐月から離れようとしてももう遅い。裕人の竹刀は完璧に皐月に捕らえられている。成すがままに裕人は竹刀を振り切っていた。返して振るおうにも皐月の竹刀の動きの方が速い。いなすがままに乗った速さが裕人に迫る。その一撃は明らかに裕人を捕らえる。


そう、それが普通の人相手ならの話だ。


…天才。



その言葉はいつだって凡人達の思いを狂わせる。

皐月はフッと浮遊感に襲われる。いや、それは紛れもない浮遊感である。皐月の腹には裕人の竹刀柄が付いていた。


「かっ…」


一瞬の出来事に皐月は理解が遅れる。胸に走る痛みも一瞬のことで思い出すのに少しかかるほど…しかし、皐月が誰よりも分かっていた。何故、負けたのか、何が起きたのか。


しかし、皐月はすぐに冷静となり、まだ負けてないことに気付く。そもそもがこのルールは先に一本入れたほうが勝利である。柄では一本にならない。


(でも、空中じゃいなすことも避けることもできない…)


皐月は何倍にも引き延ばされた思考の中で必至に打開策を探る。裕人は既に最後の一撃を決めようと竹刀を腰の辺りまで持っていっている。

皐月の防御はほぼ間に合わない。そして、距離的に闇雲に降っても当たることはない。


故に


((ここに賭ける!!))


二人の意思がガッチリと噛み合い。次の瞬間、皐月が動く。何を思ったのか皐月は竹刀を手から離していた。そして、何かに願うように腕を体の後ろに下げる。


バシィッッ!


裕人が竹刀を僅かに指に引っ掛け、抜刀ほどにないにしろ速さの乗った一撃を繰り出す。しかし、その一撃は皐月には届かなかった。

裕人の踏み込みが甘かったに他ならない。それは皐月が手放した竹刀にあった。目の前にある竹刀にぶつからないように皐月もろとも一撃当てることができなかったのだ。


「チッ」

(ギリッギリ!)


裕人は舌打ちをして、すぐに構えようとするが決め手だった故にそう簡単には戻らない。皐月は当たらなかったことに安堵しながらも次のことを確認する。


(信じていたよ…お前の一撃は竹刀を簡単にへし折るってな!)


皐月は半ばからへし折れた竹刀の先の部分を宙で手にとり、裕人に向かって走り出す。

また、裕人もすぐに次の一撃をする時間が生まれていた。


迫りくる竹刀に皐月は折れたもう一方の持ち手を持ちいなす。その一撃が裕人の焦りから来ていたものだからか裕人はいなされることにより、バランスを崩す。そこに皐月が握った竹刀の先端が迫る。皐月は刃の部分を途中から持たずに切断面から押し出すように裕人の胸を突く。


「一本、姫川!」


道場の主がそう言うと二人は動きを止めて、崩れ落ちる。


「あー、危なかった!」

「負けたー!くっそー、勝てねー」


皐月も裕人も約一時間にも及ぶ打ち合いの疲れで息を思いっきり吐く。

皐月と比べて幾分か裕人の方が疲れていないようだが、二人ともダメージを負ったことには変わりないのだ。


「いやー、二人ともすごいね。どこかで刀専門の剣術でも習ってたのかな?」

「あー、まぁ一応習ってました」

「と言っても師匠は引退してるけどな」


皐月は敬意を払うように裕人はなれなれしく返事をする。それを気にした様子もなく道場の主は「どこの流派なのかな?」と聞いてくる。


「えっと、桜千流」

「それと連華流だな」

「おや、あの二人が同じ弟子をとったのかい?」


どうやら、皐月と裕人が習った流派について知ってるようで道場の主は驚いたように声をあげている。


「まぁ、お互いに対抗心を燃やして自分の流派の方がいいと教えられました」

「あの二人って仲悪いようで実はいいよな」

「そうか、変わってないんだね」


この二つの流派は質より量という性質であり、連撃、カウンターを重視している。

桜千流がカウンターを重視しており、皐月達のいなし業はこの流派が元となっている。

そして、連華流が連撃を重視しており技によっては100撃にも及ぶ連撃を繰り出すことができる。

故に隙が少ない動きを重視する他に決める瞬間というのもこの二つの流派は重視している。いざ決めるという時に脆い刃が溢れていては意味がなし、決める瞬間まで刃を温存し、最高のタイミングと最高の一撃の時にその刃を使うという意味ではこの二つの流派は合致していた。


故に二人はこの二つの流派を合わせて『桜華連千流』と呼んでいたりする。


「そういえば、おっさんは剣術とかやってるの?」

「そうだね、まだ自己紹介がまだだったね。僕は壱重流現当主、倉松くらまつ 外一といちだ。よろしく頼むよ」

「当主…なんですか?」

「まぁ、今となっては流派の門下生はいないし。剣道の道場を開いてるだけのおじさんだよ」


二人の質問に律儀に答える倉松はどこか遠い目をしているようだった。

そして、鐘がなる。これはこの辺りである音であり、3時を伝える音だった。


「おや、こんな時間だね。お菓子でも食べるかい?」

「え、はい。ありがとうございます」

「なら、遠慮なく」

「失礼を承知して、私もよかったら入れてもらえないでしょうか?」

「大丈夫だよ。君も見てるだけで退屈だっただろう?とりあえず、手を洗ってきなさい。それと、姫川くんはちょっといいかな?」

「え、はい」


倉松に呼び止められる皐月は何故呼び止められた分からずに疑問符を浮かべていた。


「大丈夫さとって食ったりはしないよ」

「いや、それは分かってますけど…」


皐月の戸惑った様子を微笑ましそうに倉松はニッコリと笑いながら見て。そして、口を開く。



**



「では、皆さんしっかりとこの書類を片付けてくださいね」


一方その頃、山口、土戸、マスターの前には大量に積み上げられた書類の山があった。


「あ、あの秘書さん?この山は…」

「え?先生何言ってるんですか書類ですよ」

「いや、山口が言いたいのそうじゃなくて…」

「こ、この量は何ですかね」


土戸とマスターの一言によって小さく秘書は舌打ちをした後ににこやかな笑顔を返す。


「私が普段やってる書類仕事ですよ」


そう言って笑いながら三人にその仕事を強要するそれは三人から見れば悪魔そのものである。


「今日は偶然にも三人がお休みですので普段から私に回ってる書類仕事をやってもらおうと思いまして」


こうして、三人は書類仕事に身を費やすのであった。そんな中で久々の休みと喜んでいる暇は秘書にもなかった。


「姫川 皐月…うーん、これといって経歴や家族構成に問題があるわけではないのに何処か違和感が…うーん」


秘書は一人でいつものように悩めるのであった。

結局、いつも休みがないのはあの三人と一緒なのであった。



**



皐月達はその後、道場でお菓子を頂いていた。

そうして、和やかに話してると携帯の着信音が鳴る。


「ん、俺だ」


そう言って立ったのは裕人だった。裕人は携帯の着信画面を見ると途端に真剣な表情になり、皐月達を見る。


「悪い、ちょっと用事が入りそうだから今日はここでお別れだ。じゃぁな皐月。そして、倉松さんありがとうございました」

「おう、じゃぁな」

「いや、いいよ。こっちも久々にいいものを見せてもらったしね」

「なるほどなるほど、私には挨拶もなしと」


そんな、千莉の皮肉も珍しく気にした様子もなく裕人は走って道場から出て行く。

皐月は珍しいものを見たと出口を見てる間に千莉は何かに気付いたように皐月をじっと見る。

そして、倉松が少し席を外した時。


「そうだ、皐月。そろそろ迷惑だろうし別の場所に行かない?」

「あー、それもそうだな。次はどうする?」


皐月は倉松を僅かに気にしながらも答える。

そんな皐月をよそに千莉は緊張した面持ちで口を開いていく。


「えっと…じゃぁ、せっかくだし皐月のい…っっ!」


その瞬間、千莉の携帯の着信が鳴る。それに飛び跳ねるように千莉は反応して携帯の画面を見る。

すると、明らかに嫌そうな顔をする。


「ごめん…私も用事ができそうみたい…ホント、空気読めない」

「そうか、まぁ裕人もいなくなったしちょうど良かったかもな」

「そ、そうだね」


千莉はそう言って裕人と同じように挨拶した後、道場から出るのだった。


「それで、教えを受けてみないか?ってどう言うことですか?」


皐月はちょうどのタイミングで戻ってきた倉松に先ほど言われた事を聞き返す。


「それは言った通りだよ。君には僕の持つ壱重流を会得してもらいたい」


「…何で、俺なんだ?」


僅かな間を作って皐月はこう聞き返していた。そう、それは当然な疑問である。皐月はあの時勝ったが純粋な打ち合いなら裕人の方が何倍も強く、才能も開花は遅いが明らかに裕人の方がある。


「建前をまず言うと…君が僕と同じ金糸雀の所属だからさ」

「へ?」


その答えは予想外で皐月はボケたような表情になる。


「待て待て、金糸雀所属ってマジで?」

「そうだよ。僕は剣士として金糸雀に所属している」


彼の実力は実際、そこら辺の剣士と比べたら飛び抜けている。皐月達の師匠はバカ故にとんでもない実力を持っているがその師匠相手に浅いとはいえ一太刀浴びせた数少ない人間である。


「あと…建前ってことは他に何か?」

「そうだよ…、君は確かに才能ないのかもしれない。何でも出来る器用貧乏だから限界がすぐ見えるのではないかな?」

「…うっ」


図星を突かれた皐月はなんとも言えない表情となる。しかし、倉松は穏やかなままだった。


「しかし、君はその有り合わせの技術を組み合わせることに長けている。これは紛れもない君だけの才能さ」

「え?」


倉松の言葉が一瞬理解ができていなかった。皐月は自分の手を見て、考える。


「俺の…才能?」

「そう、君だけの…いや、君だからの才能であり、それには沢山の引き出しが必要になる」


倉松はそう言って皐月の前に鞘に入った刀を出す。


「もし、この話に乗ってくれるのなら…この刀を受け取ってくれないか?」


皐月は未だ戸惑っている。自分にそんな才能があることも、いきなり差し出される刀にも…。

しかし、倉松の目は真剣そのものだった。

そして、昨日の出来事を思い出す。あの戦いはあくまでも悪魔が完全に復活を果たしていなかったが故に皐月は勝てた。でも、少しでも皐月の想定を上回っていたら皐月は今頃死んでいた。


「分かった…乗るよ。俺は足手纏いになりたくないから」


もし、もしも。皐月にとって勝てない相手が来るかもしれない。そう考えて、皐月は一つでも多く手札を手に入れるために皐月は刀を手に取る。


「そう、それでいいんだよ。真っ当な理由なんてなくていい。所詮は人殺しの道具…なら、純粋な理由でいいんだよ」

「おいおい、武道の字が泣きそうなセリフだな」


皐月はそう言って笑う。それは倉松の言葉を理解していたからに他ならない。そう、彼らは何かを守るとか御大層な理由はない。ただ、大切なものをそこに置いておきたい為に…剣を取るのだ。

彼らにはそれ以外の理由を知らないのだった。



**



「はぁ!悪魔の呪いは解決してる!通りでおかしいと思ったよ!」


ある裏路地で叫ぶ一人の少年の姿があった。その少年は電話をしているようで電話越しに苛立つ気持ちを少しだけぶつけていた。


「悪い、お前は悪くねぇよな…そうか、そう言ってくれると助かる」


少年は穏やかな口調になり、話を黙って聞いていた。


「そうか、ならしばらくここにいていいんだな?助かるよ」


少年は「じゃぁ」と呟くと電話を切ってため息を吐く。そして、路地の地面をなぞる。


「確かに封印が使われた跡があるな…でも、おかしい」


少年は考えていた。今この町にいるのは金糸雀だけであり、金糸雀が解決する力を持っているとは

思えないのだ。


「そう、例え金糸雀に最強だと言われていたあいつがいてもだ…きな臭い話だ」


少年はそう言って大通りに入って消えていく。



**



現在、土戸は汗を頬に垂らしていた。冷や汗も拭えずに言葉も出ない。


「どうしたんだ土戸?」


山口の声がきこえて、土戸は反応して、硬い笑顔を作る。それを見ていた秘書とマスターは疑問符を浮かべて山口が先程まで見ていたであろう書類を見る。


「げっ!」

「これはまた…」


マスター、秘書と笑顔が硬くなる。それを見た山口はどうしたんだよと呟きながら資料を見る。

どうやら、報告書のようで今日一日で何があったかと情報部から回ってくる。仕事もしながら丁寧な報告書も出してくるので流石少数精鋭組織と山口は称賛しながら見る。


「んげっ!」


そこに書かれていたことに顔を引きつらせる。

そこには今日一日のハッキング撃退件数とその相手である。

そこにはある二つの組織『BB』『VH』と呼ばる組織である。

この二つは姫川 皐月を保護対象にした組織で勇者と英雄を保有している組織である。


「どっかで情報が漏れたか?」

「いや、未だ疑いの段階だろう」

「これは大変なことになりました」

「うーん、でも何でこの二つの組織が姫川 皐月を?」


山口、土戸、マスター、秘書と四者四様の反応を示しながら頭が痛そうに抱える。それもそのはず、このままでは間違いなく二つの組織と敵対する未来が見えるのだから。



**



次の日となり祝日の月曜日。


皐月はいつものように朝を起きて今日の幼馴染二人と遊ぶために準備をする。


「あれ、メールが来ていたな」


その途中でスマホを見ると裕人からメールが来ておりそこには『悪い、今日は無理になった』とだけ書かれていた。

皐月は「わかった」とメールを返して考える。


「今日は千莉と二人きりか…」


皐月は嬉しいのやら気まずいやらで複雑な気持ちになりつつも朝の準備を始めて行く。


「お、今日は昨日の残りかい?美味そうだな」


土戸は今日も帰ってきていたようで朝ご飯のメニューによだれを垂らす。


「普段から朝は昨日の残りですよ」

「ほぉ、たしかに無駄に量を作ってるもんな」


皐月の言葉に土戸は納得したように頷く。夜は基本的に誰がいるのかわからないのでいつも多めに作っているのだ。故にいつも夜はあまり皐月はそれを毎朝処理してるのだ。


「お、そうだ。山口から伝言があるぜい」

「先生から?」


伝言と聞き皐月は疑問に思う。


「面倒ごとになりそうだからそろそろ呼びつけるってさ」


土戸はそれだけ言うと食器を片付けて家を出て行くのだった。そんな中で皐月はあることを思い出す。それは迷惑は自分の手で解決するみたいなことを言ったことだった。


「あぁ、なるほど。そりゃあ頑張らないとな」


皐月はそう呟いて千莉との約束の時間まで家事をして時間を潰すのだった。



そうして、十時頃に皐月は昨日と同じ駅前にきていた。


「悪い待ったか?」

「うん、大丈夫だよ。私はつい今来たところだから」


千莉は先に来ており、皐月は謝るものの千莉はにこやかに笑ってそう言うのだった。


「うん、そう言えば裕人の奴が未だ来てないね」

「うん?聞いたないのか?あいつは用事が入ったみたいで来れないみたいだぞ」


千莉はそれを聞いて「へぇー」と何でもないように言うと先を急ぐように手を引っ張ろうとした時だった。

昨日も聞いた着信音が鳴り響く。

千莉は明らかに嫌な顔をして携帯にかかってきた電話に出る。


「もしもし…え、嫌だ。じゃあ」


千莉はそれだけ言うと再び皐月の方を向いて「行こう」と言う。皐月は何だと思うものの気にしないように考える。


そして、再び電話がかかってきた。


「…また、何?…え?」


すると、千莉は先程とは違う様子で電話をしながら皐月の方を見る。そして、しばらく話した後、電話を切って皐月にしっかり向き合う。


「皐月、私に隠してることはない?」


突然の質問に皐月は首をひねるが隠し事は思いつかない。あえて皐月の中で隠し事と言えば金糸雀に所属してることだが、千莉には関係のないことなのでそれは違うと皐月は考える。


「えっと、特にはないと思うが?」

「本当?」

「あぁ」


皐月の返事に納得したのか千莉は「用事ができた」と言ってその場から去って行くのだった。


「何だったんだ?まぁ、二人とも忙しかったんだな」


皐月はそう結論付けて帰ろうとした時だった。皐月のスマホが鳴る。どうやら、電話のようで皐月は誰かと不思議に思いながら出る。


『やぁ、皐月君かい?俺俺、土戸だよ!あ、切らないで!』

「…何のようですか?」


皐月は一瞬切ろうかと思ったが思い直して話を聞く姿勢になる。


『いやー、今皐月君が着けられてるから気をつけてって話だよ。おっと、変に大きな声を出さないでね』

「す、すいません」


思わず大きな声を出しそうになったが止められて皐月は冷静になる。


(おそらく、山口先生が言っていた迷惑の件だろう)


とりあえず皐月は土戸の話を聞いて、その指示のように動く。

まず、いつの間にか皐月のポケットの中に仕込まれていたイヤホン偽装タイプのインカムを耳に取り付ける。

そして、急に一人なって手持ち無沙汰になってる皐月だが、このまま帰るよりも一旦フード店にでも寄って追っ手の様子と目的を特定することになった。


(うー、追っ手と言われてもどれがどれだか…)


軽いファストフード店に入った皐月はハンバーガーに齧り付きながら周りの様子を確認する。


「よぉ、姫川じゃないか」


突然、後ろから声をかけられて皐月はビクッとなる。そして、後ろを振り向くとそこにいたのは山口だった。


「せ、先生。何でここに」

「少しでも接触しようと思ってな…それとあんまり大声で喋るな周りに迷惑だろ」

「すいませ…ん?」


皐月はふと、気付く。何気なくこちらに視線を向けている人達の中に僅かに違和感のある人間が何人かいることに。


(そうか、俺の追っ手も店に入ったたのか…盲点だった)


普通、追っては見つかることを恐れて尾行の際は同じ店に入らないと言う偏見を持っていた皐月は自分の視野が狭いのだと気付く。


「それで勉強はどうだ?特に社会は?」

「えぇ、何となく当たりは付きました」

「ほぉ、これはこれは頼もしい限りだな」


皐月は山口の意図を汲み取ってしっかりと会話する。伊達に入学からこき使われた訳ではない。ある程度の意図なら普通に汲み取ることができる。因みに山口先生は社会系の科目なんてもっておらず、理科と情報の専攻である。


「それでいくつ解けたんだ?」

「えっと、四つ…ですかね」

「何だよ、まだ六つもあるじゃないか。今、丁度教科書持ってるからどこか教えてみろ」

「ありがとうございます」


皐月と山口はそうやって情報交換して行く。どこの相手が皐月を付いてる相手かしっかりと見極める。


(なるほど、店の奥にあと二人。それと、手前の方に二人。そして、外に二人で十人か)


皐月は山口の教えによってしっかりと把握する。そして、それだけ終わると山口は露骨に時計を見て「時間だ」と言って店から出て行く。

その際に二人ほど山口について行って現在皐月を尾行してきているのは八人である。


「とりあえず、食ったし…そうだな久々に寄るか」


皐月はそう呟いて、店を出る。駅前なのに人通りは少ないが祝日なので普段の休みより何倍も多いので追っ手を見失いそうになる。


(流石はプロといったところか。下手に動けば紛れ込まれて把握が難しくなりそうだ)


人がいると言うことはそれだけで隠れ場所となる。人が多い中で追っても気づかれることはないのだから。皐月は追っ手にしっかりと注意しながら進んでいく。

すると…


「ちょっ、おまえ…返せよ!」


そんな声が聴こえてくる。

皐月は一瞬、身内の揉め事かと思ったが見てみると違った。ひったくりだ。


「誰かあぁ!」


その声に反応する人はなく、誰もが「え?何」と声のした方を向くだけでひったくり犯には目が向かない。盗られた男は必至に追い始めるがもう既にひったくり犯は人混みの奥へと…。


「はぁ、めんどくさ」


当の皐月はそう呟いて走り出す。ひったくり犯が路地裏で巻いたか確認して、顔にある覆面を外した時。


「がぁっ!」


皐月がひったくり犯に追いつき、服を引っ張り路地裏から先程までいた大通りまで投げる。


「いつた…テメェ、何しやがんだ!」


男はそう叫んで皐月に対して敵意丸出しで殴りかかってくる。

どうやら、ナイフとかそう言った類の物は持ったないようで少しだけ皐月は安心する。それもそうだろう、ひったくり犯とは言っても強盗とは手段が違う。彼らは逃げる足の速さを利用すればいいのだ。武力を必要としないため武器なぞ持ち合わせてるはずもない。


皐月はそんなことは梅雨知らず、しっかりと武器があることを考慮して警戒しながらカウンターに一発入れる。

綺麗に腹に一発入り、ひったくり犯は蹲るのだった。


そのタイミングで盗られた本人がたどり着く。

皐月はしっかりと盗品を持ち主に返したタイミングで警察が来る。おそらく、騒ぎを聞いた誰かが連絡したのだろうと皐月は考える。


『どうして、目立つような事をした?』


警察にようやく解放された皐月に土戸の叱責の声が聞こえる。皐月はうんざりしたように小声でポツリと呟く。


「相手が今の俺を見てどう反応するか見たかったんだよ。中学時代の俺を知ってれば今のに対して何の疑問も抱かない」


皐月の言葉になるほどと土戸はため息を吐く。それもそうだろう。まさか、調べるのに危ない橋を自ら渡っているのだから呆れない方がおかしいのだ。


皐月は「何だよ」と小さく文句を垂れながらある場所に向かう。


『うん?どうしたんだ山の中に入って』


夕陽が照らす山の中で皐月は荒れ始めている道を登って行く。「少し前に見つけたものでもみようかと」皐月はそう言って山を登って行き、そこにあるのは一つの館だった。


『ここは…一応、金糸雀の所有してる土地だな』

「そうなのか?何回か勝手に入ったけど…」

『まぁ、使われてないし別に構わないけどな』


そうやってやりとりをしつつ皐月は扉の前に立つ。そして、あることに気がつく。


「誰か…いる?」


皐月はそう呟くと館の庭にある柱の一本の裏に行く。そして、隠してある蓋を開けてこっそりと銃を懐にしまう。因みに銃の隠し場所は土戸に教えてもらいわかった。本来いるはずのない来客により最大限の警戒をしている。


「もう一度聞くけど…誰かこっちに来てると言うことは?」

『あり得ないな。ここは基本的に使われてない場所だ。そもそも、この場所に来るやつなんてそうそういるはずもないがなぁ』


土戸は緊張をほぐす為か僅かに普段どおりの口調にしてそう言う。皐月はフッと笑うと気を引き締めて扉の前に立つ。


まず、ゆっくりとドアを開ける。音はあまり立っていない。再び深呼吸をして次は館の中を見る。

皐月が知る限りでは前回入った時とは中に変わりはない。ただ、前と比べて少し綺麗になってると言う印象を抱いている。


(とにかく、人はいない。今忍び込むしかないか)


皐月はゆっくりと中に入ると目の前に広がるのは広い玄関。大きい故に部屋に直通してる場所もあれば、二階もあり、それぞれ三箇所、計六箇所に廊下が続いている。すぐに皐月は柱などの物陰に隠れて今、自分が見えるであろう位置に銃を突きつけながら周りを見る。


「…いないか」


そう呟きながらも警戒は緩めないように耳に手を当てる。しかし、返ってくるのはノイズ音であり、何かあったのかと皐月は冷や汗を流す。


『…ズズッ、悪いな。ここには特殊な通信妨害があるのを忘れていたよ』

「…ビックリさせないで欲しい」


皐月は聞こえてくる返事に安心して、安堵の息を漏らす。そして、今の現状を報告する。


『わかった。俺はあまり指揮系統向きじゃないが、現在いるのは俺だけ。皐月、今から俺の注意をよく聞いて動け』

「了解」


そう小さく呟いて頷くと皐月は動き出す。いつまでも広い空間にいては見つかるリスクが高いだけである。

一本の廊下を足音立てないよう走り抜けて突き当たりで飛び出さずに壁を背にして曲がった先を見る。

そして、後ろから誰か来てないかと警戒する。


「いない」


皐月はそう呟いて先へ進んでいく。


『やけに板についてるじゃないか。銃も初めて触るだろうに』

「知り合いにミリオタがいて教え込まれたんだよ」

『おまえの交友関係はどうなってんだ?』


正論である。しかし、皐月は答えない。いや、答えないのではなく、動いて警戒しているので答えることができないのだ。そして、ある程度の安心を得ると答える。


「変人が周りには多くてな。まぁ、でも知ってると使いこなすは違うから。分かっていても銃は多分、土戸さん達と比べて見劣りすると思う。それと、知ってるだけで穴は沢山あると思うし」

『まぁ、それはそうだろう。だけど知ってるだけでもいざという時には充分な力になる。覚えとけ』

「分かりました」


皐月はそう返事をすると再び走り出す。次の位置はどうやら行き止まりに続いてるようで途中には階段があった。

皐月は階段に何もいないか確認する。人が降りてくる気配もない。ゆっくりと壁から離れて階段をしっかりと見るとそこには崩れ落ちた階段があった。


(崩れ落ちていて登れそうにはない…いや、頑張れば行けるか)


皐月はここから二階に行けば早々に裏を取られる事もないと考えて階段を登っていく。そもそもがこれまでの部屋に使われてる様子はなく、ドアノブには埃が被っていた。

警戒も殆ど形だけで、何度か引き返そうか考えていた程だった。


「…」


皐月は二階に着くと途端に無言になる。それは一回と比べて通った形跡があり、どんな小さな物音も立てないようにする為である。


土戸との連絡もマイクを切って、指令だけ聞こえるようにしてある。

日は落ち、完全に暗くなる館の中を皐月は動く。極力衣擦れの音も立てぬように両手足を同時に動かして辺りを動き回る。行き止まりの方には人のいる気配はなく、他の場所を回っていく。大広間に出る方は通った形跡は殆どなく、その途中で別れてる方向が通った形跡が濃かった。


場所によってはつい最近何度も使われたであろう部屋がいくつもあり、その部屋を多少は調べたものの沢山の物が置かれていた以外にめぼしいものは無かった。


皐月は最大限に前後を警戒しながら銃を持って奥へと歩いて行く。その先には一番出入りされたであろう部屋を見つけて皐月は息を飲む。


まず、皐月は耳を傾けて音を聞く。中から何の音もしない。人のいる気配もない。


そして、ゆっくりと少しだけドアを開けて中を見る。そこに誰もいない事を確認すると皐月は中へ入っていく。閉める際も極力音を立てないようにして閉じる。


「これは…」


月明かりで部屋の中が薄らとみえ、その部屋の全体像を明るみにする。


そこにあるのは、部屋だった。


その表現だと分かりづらいだろう。机があり、ベッドがあり、服がありと正真正銘、個人の部屋が存在していた。


「あの、ここって管理とかしてないんですか?」


皐月はマイクを付けて土戸に問いかけるが、基本的に使わない場所はほったらかしでカメラなどの設備はないと返事が返ってきた。


『どうしたんだ?』

「えっと、あのー部屋があるんです」


さっきは言いにくそうにそう言うと土戸はそれはあるだろうと返すが皐月は違うと首を振る。


「言葉足らずですいません。俺が言いたいのは…部屋なんですよ女物の」

『…』


その時、二人の時間は止まったように感じた。


そう、転がっている服は全て女物で皐月は慌てて目を逸らす。基本的にそう言ったことに免疫のない皐月にはキツイ空間である。


『とりあえず、どこの誰だか特定できるものはあるか?』

「漁れと…」

『端的に言えばそうなるな』


皐月はそれに対して拒否する。それはそうだろう。いくら、相手が勝手にこの館に入って住んでいるからと言っても第三者から見れば皐月も勝手押し入って、女性の部屋を漁っているようにしか見えないのだ。


間違いなく変質者である。


『まぁ、確かにな…どうにか部屋の主がわかればな』


土戸がそう言ってため息を吐いている。皐月はため息を吐きたいのはこっちだと思いながら部屋を見回そうとした瞬間、影が満ちる。


暗い闇の中、皐月は辺りを見回すが目の前が真っ暗で何も見えない。


「おやおや、家主に挨拶もなく忍び込むとは随分礼儀知らずのお客さんだね』


暗い闇の中、女のものと思われる声が聞こえてくる。皐月は声がしたであろう方向に振り返って辺りを見渡す。

しかし、そこには人影ひとつない。


(気のせい?いや、たしかにいるはず)


皐月は辺りを見渡すがやはりいない。それでも、皐月はいると確信して警戒する。


『…なんだ、今の声は…人の反応はない筈だが…』

「そうか、気のせいじゃないか」


皐月はそう言うと耳に付いたインカムを数度叩く。それと共に皐月は少し耳鳴りした後、何かが放射されたような圧迫が起こる。


「うわっ、びっくりした」


そんな声と共に一人の金髪紅眼の少女が目の前に現れる。ここで皐月は確信を持つ。


「どうやら、こちら側が釣れたみたいだが?」

『あぁ、たしかに…魔力が関係してるな』


皐月がしたことは簡単だ。インカムにいざと言うときに作られていた機能の一つ、魔力ジャミングである。

これはその名の通り、通信系を無効化するための機能の一つで魔力を直接放出して電波や魔力の波形を乱す効果がある。


皐月は開示された情報の中にそれの運用法などがあり、幻惑系の魔法を無効化することは知っていた。


「まさか、隠形が破られるとは…普通じゃないね」

「とりあえずあんたは何者だ?家主とか言ってたがここはあんたの所有地じゃないだろ?」

「それは君もじゃないかな?」

「たしかにそうだが、俺は許可をもらっている」

「それを証明できるの?」


皐月はその言葉に何も言えない。自分はここの所有者だと言うのは証明はできただろう。しかし、所有者からの許可の場合、この場にいない所有者の証言が必要。


「面倒な奴だな」

「そちらもね」


皐月はため息を吐きつつとりあえず、状況。聞く。


「んじゃ、あんたは何者だ?因みに先に名乗れと言われたら名乗る」

「なら、名乗ってよ」

「姫川皐月だ」

「わぉ、女子っぽい名前だね。私はライノ リント」

「ごろ悪いな。んで、ここで生活してるらしいがこんな山奥に…」

「うっ…それなら君は肝試しか何かかい?」

「俺は仕事とは違うが少し面倒事があってな…って、答えてないじゃないか」


皐月の言葉にライノは俯き、ポツリと呟く。


「…ないの…」

「ん?」


聞こえず皐月は聞き返すものの、言いたくないのかライノは視線を逸らしたまま何も言わない。


「なんか言え。こっちも忙しいんだ」

「なら、出てってよ!私はここにただいるだけだから迷惑かけないから!」

「いや、でもこの状況を見逃せと言われてもな。せめて何故かしっかりと話してくれないと」

「…うぅ、私には家がないの…」


その言葉に皐月は言葉を迷う。何処か悲しそうな目をしたライノ、なんとも言えない状況に少し面をくらう。


「…家出か何か…とは違いそうだな」


無言でライノは頷く。皐月は頭をかいて何か考える。デリケートな話題に対処のしようがなく何も言えない。

そんな時、ふと思い付く。


「ちょっと待っててくれ。土戸さん、うちはまだ空いてましたよね?」

『うーん、あぁ、俺に振ってるのね。さっきから会話だけ聞いてたから分からなかった。それで。空いてるか空いてないかで言えば空いてるよ…その前にスピーカーにしてくれ。話を聞きたい』

「分かった」

「えっと、だ、誰かいるの?」

「いや、すぐわかる」


皐月はインカムを取ってスピーカー設定に変えると土戸の居るであろう場所の自然音が聞こえて来る。土戸は木々に囲まれた場所にいるのか葉のこすれる音がスピーカーから聞こえて来る。


『あー、あー、聞こえてる?主にライノって子の方』

「え、はい。聞こえるけど…誰?」

「俺の上司?」

『いや、そこは疑問形じゃなくない?まぁ、俺は土戸 飛鳥。さっきから悪いけど聞かせてもらった。その上で質問をさせてもらう』

「わかった。でも、答えられないことは答えないそでいい?」

『それでいいさ、こっちも確信もないからな。それで聞かせてもらうが…君はいわゆる吸血鬼という存在ではないか?』

「っっ!」


図星なのかライノは言葉をつまらせてから返事だけする。皐月は内心驚くが、今は土戸とライノの話なので邪魔しないように何も言わない。


『そうか、やはりな。君のお父上のラグノ君にはお世話になった。今も元気かな?』

「…いえ、父は悪魔の呪いの時に…下級悪魔に襲われて…土戸さんは知ってるのですか?」

『まぁな、あいつが若い頃に少し助けた記憶があってな…しかし、そうか…下級悪魔の場合は話は別か…』

(土戸さんって一体何歳なのだろう?)


皐月はあの見た目から考えて二十代くらいにしか見えない土戸が明らか自分と同い年くらいの少女の娘がいる父の歳を想像して疑問が付かない。


『そうか、今回はあれを手放した俺の責任もある。皐月君が提案したことでもあるが、よかったら住処を提供するが?』

「いえ、悪いですし…お金が」

『安心してくれ、そこのいる皐月君と同じように組織に所属してある程度仕事をしてくれればいい。ちょうど、頼みたいこともあるしな』


それを受けてライノは悩む。そして、皐月も自分がいなくても話が纏まりそうだなと自分がここにいる意味を悩む。


「なら、今頼みたい事はなに?」

『おっと、それを聞くか。それは…』


土戸が説明していく。それに皐月は大きく反応するが、ライノはなるほどと呟いて頷くのだった。



**



「本当にいいんだな」

「はい、住まいが提供されるなら願ったり叶ったりということ」

「でも、戦えるのか?」

「できるよ。吸血鬼はこう見えて基礎能力は人間を上回ってからね」


皐月はたしかにと先程から僅かに自分より速く走ってるライノを見て納得する。実際、皐月も充分一般から逸脱した身体能力を持っているのだが、それに気づく事はない。反対に…


(この人、足がただ速いと思ったけど…違う。…うーん、これをなんと表現すれば…体にブレがない…いや、柔軟性があってまだ余裕がある印象?)


ライノは皐月の身体能力に驚いていた。吸血鬼はたしかに人より高いがあくまでも普通の人と比べたら高いだけであり大きく逸脱したような存在ではない。

違う点といえば、魔力運用がいいとかだが一般的には魔法はないとされているので普通の人と比べる土台がない。


「とりあえず、そろそろ入って来るんだよな?」

『あぁ、痺れを切らした先遣隊にライノが一発目をやれ。皐月は隠れて相手を潰してけ下手に情報が流れても困る』

「「了解!」」


二人で小さめの声でそう言う。因みに土戸は司令官モードなのか皐月のことを普段とは違い呼び捨てで呼んでいた。


そうして、皐月とライノが走っていき、玄関が見え始める。それと同時に皐月は速度を落として作戦通りライノがちょうど入ってきた男を飛び膝蹴りで沈める。


「っぐあ!」

「な、なんだ…全員!仲間がやられた!」

「分かってる!俺達は時間を稼ぐ。他はパワードスーツを…がぁっ!」


ライノの纏った黒い魔力による殴打により、そう簡単には時間を稼げずに男達はやられていく。しかし、それでも時間稼ぎになり腕輪状のデバイスが起動し始める。


パァンッ!パッァン!!


と乾いた破裂音と共に二人ほどのデバイスが破壊される。それを見たライノは周りに起きた動揺を逃さない。僅かに遅れたパワードスーツ展開の隙を突いて残りの男達を沈めていく。


「ちっ、全員やられたか…でも、もう遅い!」


そう言って最後に残った一人がパワードスーツを展開する。それは専用機と呼ばれるもので特化機のようにピーキーな代物でありながらその人に適したある意味では最悪なタイプのパワードスーツである。


「うわぁ、ロボットアニメだ」


ライノはそんな感想をポツリと呟く。それは、そうだろう。全身が機械仕掛けの骨格に覆われてフルフェイスのヘルメットもある。そして、ヘルメットも顔のような形を模っており、目の部分も目だように光っている。


『あれはスピード特化品に似てるな。だが、専用機だからそれだけじゃないと心得とけ』

「了解」


ライノは土戸の指示にそう頷くと再び黒い魔力を纏う。そして、その魔力はやがて形を成していき、それは鎧となり剣となる。


「魔装…」

『あいつの娘とは思えないくらい恐ろしいものを習熟してるな』


ライノは土戸の言葉を無視して動き出す。相手は銃と長剣を持っており、基本的に連射可能な銃を使って遠距離で攻めて来る。ライノやりにくそうに一発一発をしっかりと避けていく。


「何あれ…ガトリング?」

『連射可能だからってガトリングじゃないんだぞ…あれはどっちかと言うとサブマシンガンかな?』

「どうでもいいことでしょ」

『へいへい。俺も詳しい違いは知らないしな』


通信の方でくるのは土戸ではなく先程から拳銃で援護している皐月からだった。

ライノはとりあえずどうしようかと見てると、気付くことがある。

それは放たれている弾丸が実弾という点だった。


だからどうした?という感じの情報だろう。しかし、実弾という事は明確な残弾数というものがある。要するにリロードや弾切れが存在し、そこに隙が生じるということに他ならない。


「あのタイプの装弾数はいくつかわかる?」

『え。あぁ、あれは多分そんなに多くないタイプだし二十発程度じゃね?さっきから二丁で使いまわしてるし、多分パワードスーツの方にオートリロード機能がある。でも、それならあと二十回が限界だと思う』

「なんか、同い年くらいなのに無駄に詳しいのね。まぁ、いいか。それならいける」


ライノは皐月の知識に呆れながらも相手の正面に立つ。


『ようやく死ににきたか!』

「無駄口なんてあほ?」


なんて、ブーメラン気味にライノは言葉を漏らしながら銃弾を避け続ける。連発数はたしかに多いしかし、ずっと撃ち続ければオートリロード機能が追いつくか?


『まだリロード完了してないのか!』

「それを待ってた」


その瞬間、黒い魔力でできた剣をライノが振りかぶって迫る。相手は舌打ちをしながら剣を抜いてライノの攻撃を防ぐ。そして、リロードを完了した銃を抜いて撃つ。


『なに!』


しかし、そこにはライノはいない。黒い影だけが散る。ライノが一番最初に皐月に話しかけた際に使った手段、隠形。それと影操作による偽物の幻視である。


『だが甘い!』


その瞬間、魔力の圧が辺りに放たれてライノの動きが止まる。


パッァン!


しかし、それを埋めるように鳴り響く乾いた破裂音。それは相手の装甲には当たらない。綺麗に僅かに存在する装甲の隙間に入りサブマシンガンを持っていた腕を撃ち抜く。


『っぐぅ!小癪な!誰だ』


そうして、一瞬でもライノから気を逸らしたのが命取りとなる。剣が装甲を貫通して相手の腕を切り飛ばす。そして、思わず振り向いた瞬間を狙ってくる黒い鎧を纏ったライノのアッパーカットが綺麗に決まる。


「目標は沈黙…って…ね」


ライノは相手が倒れると共に意識が遠くなっていき、足をふらつかせて倒れる。


「いってぇな…全く手間をかけさやがって」


しかし、相手の意識はありパワードスーツが解除されただけで起き上がってそう言う。皐月はやばいと悟り一瞬、迷う。

ここで出てしまえばこの作戦が失敗である。そもそもが皐月が金糸雀に所属したと思わせないためにこの館に元からいた存在が侵入者を叩いたことにしなくてはならない。


そうしてる間に相手は剣を握ってライノに近づく。その瞬間、皐月の迷いは消える。

銃では外せばライノに当てる可能性がある。故に相手が気がついてない横から殴る。


「ふん、お前がさっきからうざったい奴か」


簡単には防がれる。身体能力そのものは恐らく皐月より僅かに上だろう。魔法を使わないタイプのようで皐月との相性は悪い。


「まさか、監視を命じられた奴とはな。悪いがここで眠ってもらうぞ」

「そう…簡単には」


皐月は歯軋りをしながらも応戦する。相手の攻撃は激しくカウンターに回す暇もない。そして、皐月は一発腹に直撃して吹き飛ぶ。


「っつ…結構痛いな」

「なかなかしぶといな…流石はと言ったところか」


皐月の意識は僅かに飛びそうになっていた。やっとの思いで意識を持ち立っている。


その時だった。


窓が割れて皐月に向かって何かが飛んでくる。皐月はそれを手に取って見てみる。


『ふぅ、間に合ったか。これはパワードスーツだ。全く、こんなことならさっさと用意しとけばよかったな。キーワードは『これで決める』にしてる』

「って、先生!いや、そんな場合じゃないか」


皐月は腕輪を付ける。それに気づいた相手はそれを止めようと急いで攻撃しようと近づいてくる。

かなりの速さだが、皐月がキーワードを口にするのが速い。


「『これで決める』!」


その瞬間、光の粒子が皐月に纏い身軽な形をしたパワードスーツが構成される。そして、皐月は相手の拳を止める。


見た目は先ほどのパワードスーツより何倍も身軽なタイプであり、顔はフルフェスで全てを覆うようなタイプで先程とは違う形の顔を模っており、それはどこか凛々しいものであり、目は僅かに発光していた。


(すげぇ、軽い…飛べるような感覚だ)


皐月の感想は強ち間違いではなく、この機体に実は飛行機能も若干搭載されており飛ぶ事は一応可能である。

しかし、あくまでブースターの加速装置という役割が大きく飛行したとしても安定はしないので空中戦が出るようなものではなかった。


「くそっパワードスーツか!でも、近接特化なら…」


相手は皐月から離れようとするが離れることができなかった。むしろ、離れようとすると、皐月からの攻撃が飛んできて距離を取る前にダメージを喰らう。そして、そのまま超近距離へと詰められてタコ殴りにされ続ける。


(的確に一撃一撃、逃げ場を潰す…第一一対一の近接戦で離れること自体が邪道)


皐月はそんなことを考えながら相手に一切の抵抗を許さずに攻撃し続ける。

そんな相手が気絶しないのは僅かに皐月の攻撃を軽減するように動いているからに他ならないだろう。


そして、そんな時も終わりを迎える。


ボギリッ


と異音が互いに聞こえる。それは腕で攻撃を抑えた相手から鳴り響き変な方向に腕が曲がりながら吹き飛ばされる。しかし、この状況を運がいいと相手は考えてサブマシンガンを構える。


しかし、皐月の持つパワードスーツは近接特化機である『SAMURAI』である。ブースターで既に目の前に迫り拳が迫りくる。


その一撃が顔面に一撃…強烈な一撃は先程と同じようにボギリッという音を鳴らしながら鼻の骨を粉砕して吹き飛ばす。


「今度こそ本当に気絶してるよな?」


皐月はパワードスーツを解除すると男の様子を見る。どうやら、既に伸びてるようで白目を向いて倒れている。それを見て、そっと目蓋を無理やり閉めて皐月はライノの方に駆け寄る。


「ごめん、気を抜いて倒れちゃった」

「いや、それはいい。とりあえず大丈夫か?」

「うん、ちょっと最近血を飲んでないから…」

「あーそう言えば吸血鬼って言ってたな」


皐月はそう言うと腕をナイフで少し切る。そして、ライノの前に出す。


「…ありがとう。でも違って吸血鬼って首筋から飲むのだけどそれは人間の神経が近いのと一緒で魔力も表面の中では多く通ってる場所だから」

「な、なるほど…てことは首から飲ませればいいのか?」

「え、いいの?普通は抵抗感があると思うだけど?」

「それで放っておいて倒れられた方が困る」


そうして、ライノを起こして首筋を差し出す。

ライノは何度か首と皐月を見た後、意を決したように首筋を噛む。


(うっ、案外痛いな…でも、案外不快感がないくらい俺はおかしくなってたか…)


皐月が痛みを感じたのは一瞬で、すぐに牙は離されてそこから出てくる血を舐められる。普段ならゾッとするところだが吸血鬼の八重歯にある麻痺により、感覚があまりなく何ともなく血が飲まれていく。

そんな中で皐月は自己嫌悪に至っていた。いくら感覚がないとは言え、目の端に映る光景と音で人間は本能的に不快感を感じるものだが皐月はそれがなかった。それは昔に経験したことにあり、皐月を今のような性格に変えた一端もあると言えるだろう。


「ありがとう…これで元気なったよ」


そう言うライノの表情を皐月は見たことがあった。そして、それに気づいた皐月はさらに自己嫌悪に陥りながら現場処理をして帰っていくのだった。


因みに本来なら、皐月は別口から埃まみれで後で出てきて館にいる吸血鬼と少し仲良くなった程度で終わらせて吸血鬼の介入があったとする予定だった。

しかし、皐月がモロで戦闘に参加した様子が一人でもバレてしまえばそんなの意味はなく銃を持ってる時点で色々と勘繰られて下手に隠しても意味がないという判断だった。



**



次の日となり、皐月達はゴールデンウィークに存在する何故かある学校の日だった。


「あぁ、二日ぶりのまともな食事にお弁当がある…すごい」


と、ライノは皐月の料理を食べて感涙していた。泣きながら食べる様子に皐月は苦笑いしながらも内心地味に嬉しかったりする。


「ていうか、お前って近くのお嬢様学校って有名な私立の女学院生だったのか」

「って、昨日も着てたじゃん!何で気づいてないの?」

「あー、そういえば…」

「そういえばあいつは金持ちだったな」


こうして、彼らの新しい日常はまた、加速していく。

あと、もう一話ほど今のところあります。29日に投稿予定

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