技巧の道は未だ遠く、そして、刀剣の境地未だ至らん。 其之壱
時は流れてマーチェン開放から3日。
俺達はいつも通りホテルのVIPルームで目を覚ました。
「よく寝たよく寝た…」
今日は騒がしいということもなく熟睡できた。
最近は装備のために徹夜はザラだったからな。
ベットはやはりいいものだな…もちろん、布団もいいが。
「わかめんおはよー」
「ん、おはようさん。今日も俺は装備製作だな…飯の時間になったら呼びに来てくれ」
何度やっても納得いく出来の短刀が作れないな…
サクヤの能力に合うものじゃないとただ邪魔なだけだしな…
「…わかめん、今日は休もうよ。最近熱入れすぎだから今日は気分転換にデートしない?」
「んー……気分転換か…デートかはともかく、そろそろ新しい刺激は欲しいか。よし、行くか」
「…そうねー。じゃ、ご飯食べに行こっか。サクヤはもう先に行ってるから、下で落ち合おう」
「了解」
朝飯を食ってからCABへ。
俺が目を開くといつもの野外工房だった。
「とりあえず炉の火はそのままにしておかないとな…」
なんせ金属は溶かしっぱなしだ。
固まったら再加熱しないといけない。
すこし燃料が無駄になるがこれも必要経費。
デートに早く行かないと…よし、これだけ燃料を準備しておけば持つはず。
サロンで時間を潰しカナカムを待つ。
あいつもすぐに来るはずだが…
「おっまたせわっかめ〜ん♪」
後ろからやってきたカナカムに唐突に抱き上げられた。
…サイズ的には合ってるが…今はいい。
「いや、全く待ってない。今日はどこに行くんだ?」
「んー…私は他の店の偵察に行きたいな。デザインの参考にしたいんだよね」
「俺も問題ない。試しに行ってみるか」
早速館を出て街を練り歩く。
手を繋いでいるが身長差のせいで少し親子のようだ。
…実際、そういう声もヒソヒソと聞こえてくる。
「…はぁ…とりあえず、どこから行く?」
到着した商人街の大通りはアルベルトのある裏通りと違って活気に溢れている。
その分店の家賃は高そうだが。
偶然とはいえ、タダで店がもらえてよかったな
「ねぇわかめん、まずはあの店に行きたい」
カナカムか指差したのは小洒落たアンティーク雑貨店。
「…早速偵察とは関係なさそうだが」
「ま、まぁそうだけど…偉人装備もありそうだし…」
「なら行くか。早速掘り出し物を見つけに行こう」
中は外の活気とは真逆で異世界に入り込んだかのように静かだった。
古木を使った落ち着いた内装によく合う。
「いらっしゃいませ、御客様。何か御入用でしょうか?」
奥からやってきたのは俺と同じ銀髪に黒目の女性。
察するにこの店の従業員だろう。
「ああ。何か強くなれる物はないか」
「私はもう少し見てからでもいいかな」
「承知しました。少々お待ちください」
彼女はバックヤードに引っ込んでから数秒で戻ってきた。
「こちらはいかがでしょうか」
手渡されたのは煤けて表紙が見えない古書。
秘伝書、だと思うが日記のように見える。
「確か…ある抜刀の極致に至った方の残した書物だとか。今の貴方には必要ではありませんか?」
「…必要だ。いくら払えば良い」
「そうですね…其方の彼女様が今お持ちのチャンピオンベルトで構いませんよ」
チャンピオンベルト…オーガを倒した時の戦利品か。
アルベルトでとっくに売り払っていると思ったが…
「悪い取引ではないと思いますが」
「むっ……確かに…私もこれの売り方に悩んでたことだし…わかめん、いいよね」
「俺は構わん。カナカムがいいならそれでいい」
「わかった。なら物々交換で」
カナカムが彼女にチャンピオンベルトを渡すと一礼し奥へ置きにいった。
もしかしたら店頭にあるのは飾りで店の商品はこれのような希少な物品なのかもな。
これからもこの店の世話になるだろう。
もしこれが秘伝書なのなら数巻ある。
俺だったら上中下巻の三巻は作るな。
「申し遅れました。私はシーム。このミソテルの店番をしています。貴方達の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
少し疑ったがプレイヤーではないらしい。
それにしては何か違和感があるが…今はいいか。
「俺はわかめ。こいつはカナカムだ」
「わかめ様と…カナカム様ですね。私の代わりに双子のカタロがいても話を通すように伝えておきます」
双子…つまり姉妹がいるのか。
となるとこの店は二人で経営しているんだな
大通りに面しているのにそんな体制で経営は回るんだろうか
…逆に人数が少ないから保ってるのか?
ともかくその店に一度別れを告げて大通りへ戻る。
「わかめんはその本は読める?」
「あー……問題ない。見たところ日本語で書かれている。帰ったら読み込む」
突破の書は入力が面倒くさいからな。
先にこちらを終わらせるのがいいか
「ならいいか。あ、私あの武器屋行きたい!」
「…はぁ…無駄使いはするなよ」
「あれ、その秘伝書は…」
「…分かった勝手にしろ」
現金を使う方がサクヤには怒られると思うんだがな…言わぬが仏か。
「あくまでも参考程度だからな。買うのは控えろ」
「見て見てわかめん!この槍、カッコいいでしょ!」
…勝手に武器屋に行っているし展示品振り回しているし…俺はカナカムの子守なのか?
「おお、嬢ちゃんは見たところ槍使いか…なら、特別に1割引して9000チェインに負けてやろう」
奥から強面の大柄な職人服の男の鬼人が出てきた。
鬼人が生産系とは珍しい
「んー…でもこれ見た目装備だし…5000に負けてよ」
…雰囲気が変わった?
「あぁん?馬鹿言っちゃいけないよ…8000だ」
「この性能だったら適正。6000」
「だがそれを作るのにかなり苦労したんだ。7500」
「宣伝も兼ねるからさ。7000」
「くっ……なら7000チェインだ。これ以上は負けない」
「買った!…ふふっ、ありがとうおじさん♪」
勝ちやがった…1から3割引きはかなり大きいと俺は思うが…ま、とにかく安いからいいか
「もしかして同業者だったのか?そこの彼氏も製作者のようだし…」
「それは秘密♪おじさんの店は邪魔するつもりはないから安心してよ」
「ならいいんだ…この通りは人通りが多いから客引きが過激でな。嬢ちゃんのような美人がいればかなり有利になる。いっそのこと俺もマーチェンに行こうか悩んでいるところだ…」
……商店街というよりは道頓堀の賑わいに近い、か。
確かに制服を着た店員らしき女が無理矢理店の中に入れているような風景が見える。
取り締まる…気はないんだろうな。
「そういえば俺は名乗らないまま話しているな。俺の名前はフォー。見ての通りの鬼人だ」
昔に師匠から鍛治を教わってからそれ一筋でやってきたらしい。
彼の師匠によれば鬼人にしては珍しく生産系の才能があり教え甲斐があったとか。
「ただ、師匠は今何処にいるか俺は知らない。普段は世界を回って素材を探していると言っていたからな。もしかしたら別の世界にいるのかもしれん」
「そうか。もしも出会ったらお前の事は伝えておく」
いつか会うかもしれないし…クエスト発生フラグになるかもな。
「少し待ってろ。先払いに鉱石を分けてやる」
フォーが持ってきたのは鉄や金、銀のインゴット。
彼は少ないといっていたが…幾らあっても足りないものだ。
そして礼を言って大通りへと戻った。
「いい人だったな」
「クエストのフラグも立った気がしない!?いやー楽しみだなー♪」
「…はしゃぎすぎるなよ。変なやつらに絡まれるのが関の山だ」
「はーい♪…わかめん、次はあそこに行きたい!」
「はぁ…何処だ…?」
この調子で日暮れまで街中の敵店舗の視察は続いた。
そして夜、千代は寝る前の読書として手に入れた秘伝書を開いた。
中は前置きなどなく最初から本文から始まっている。
最初は戦闘の秘伝書のはずなのに鍛治の事から…いや、抜刀の極致に至った者の日記だったか?
それにしては説明的だな。
……ともかく、今の俺には必要な事だ。
発展よりも先に基礎を学べと言っている気がする。
「……ん?」
半分ぐらい読み進めた所でページが白紙になった。
もう一度後ろのページを見直すと、学んだことを使い刀匠スキルを取得しカンストしろと書いてある。
……確かに『良い技は良い刀からだ、それを自分で作れてこそ真に極致へと近づく一手となる』と書かれていたが本当にやらせる気か…?
…あぁ、本当に取得欄に入ってるな。
無駄に溜まっていたスキルポイントを20p使用してミッドスキル……ってスキルに区分けなんてあったんだな。
ともかく残りの79pは置いておく。
再びこの本関連で使わされるかもしれないしな。
…何だかんだ生産関連で2レベル上がっているし生産でも経験値は入るのか。
便利なことだな
「それじゃ早速修行開始だ……って飯の時間だな。なら飯食った後にやるか」
これで少しはマシなものが作れるようになればいいが……
久しぶりで御座いまする…すいません…厨異魔天の方ばかりに注力していまして…
これからは暫くあちらの2章を書きながらの更新になると思います。
それでもよければこれからもご愛好お願いいたします……
という事で
第一回あんまり詳しく語る気は無いけど言っておいた方がいい気がする世界観・世界システム解説のコーナー(名前募集中)
今回はさらっと流したスキル関連について。
このCABは8つのスキルの種類があります。
ボトムスキル(b)
基礎となるスキル。
種族的な制限以外であればどの職業でいつでも取得できます。
コストは3p
セカンドスキル(s)
ジョブの根幹となるスキルです。
これは職業的制限以外であれば簡単に取得できます。
ただ、ステータスが不足していると取得できないことも。
コストは跳ね上がって10p。
ミッドスキル(m)
少し発展した実用的スキルです。
スキルレベル…つまり熟練度等の制限もありますが、総じて優秀です。
複合魔法も実はここ以上の枠に入ります。
コストは20p。
トップスキル(t)
その道を進み続けた先にあるスキル。
ステータスやスキルレベルを上げ続けなければ取得困難。
コストは30p。
イニシェンスキル(i)
真に道を究めし者のみが取得できるスキル。
何よりも本人の才能に加え、一生を捧げる覚悟が必要。
コストは60p…だが、それまでの軌跡を見れば軽いものだ。
オリジンスキル(o)
アイテムを使用する事でのみ取得可能なスキル。
先程登場した『刀匠』スキルはm。
NPCから手ほどきを受ける事や自身で修行する事でも取得可能のためである。
そして、突破の書(速)で入手可能なスキルはoで、アレを読み解く事でのみ取得可能である。
コストはアイテムを使用する事。
エクストラスキル (ex)
スキルの熟練度が一定に達し、新たな技と言えるほどに昇華した時に自動的に取得するスキル。
カナカムの『属性槍』はこの区分に入る。
コストは特に無い。
スペシャルスキル
主にクエスト報酬などで手に入る他の七区分に属さないスキルの総称。
サクヤの『ポルターガイスト』はこの区分に属する。
コストは特に無い。
…それと、その○は話数的に見て飛ぶ事もあります。
次から火山攻略編、スタートです