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「あなた、龍神様が来るわよ!」
「えっ? 龍神様だって? そんなもん、勝手に来さしときゃ、いいじゃないか」
「なに言ってんのよ。子供がさらわれるわよ!」
「子供がさらわれる? なに、うちの子は大丈夫なんだから」
「だから翔じゃなくて、他の小さな子供がさらわれるわよ!」
「そんなの大丈夫、大丈夫。龍神様なんか、この俺が、ぱいーんって吹っ飛ばして……」
「ばか!」
バチン
広い日本間に響きわたるほどの音がして、父は胡坐のまま倒れこみました。
酔っ払い特有の大きなだみ声がいくつも重なっていましたが、一瞬で静かになりました。
母が立ち上がり、叫びました。
「みんな、龍神様が来るわよ!」
みなお互いの顔を見合い、だらしなく倒れている父、仁王立ちの母、そして入口にいる私を見ました。
「た、大変だ」
「み、みんなに知らせないと」
「龍神様がくるぞ!」
酔っ払った十名あまりの男たちが、見るからに危なっかしい足取りで、それでも思っていたよりは早く日本間を出て行きました。母が父に声をかけました。
「大丈夫?」
父は上半身を起こして言いました。
「なんとか」




