攻略対象に転生して
王宮内で行われるお茶会の最中俺は既視感に襲われた。集められた俺に近い年齢の令嬢たちの中の一人のことを俺は以前から知っているよな不思議な感覚。
「どうした、レオナルド?」
既視感の正体を探ろうと考えこんでいると俺の父である国王陛下が俺の顔を覗き込んできた。その瞳に映る俺の姿を見て俺は「ああ、俺様王子だ」と思うと同時に知らない知識が頭の中に流れ込んでくる。あまりの量に混乱し俺はそのまま意識を手放した。
俺はどこにでもいる25歳のサラリーマンだった。両親はすでに他界しており4つ下の妹と二人暮らし、俺自身はこれといった趣味があったわけでもないが妹は世に言うゲームオタクでありよく俺にゲームの話をしてきたり一緒に遊ぶこともある仲のいい兄妹だったと思う。特に好きだったのが乙女ゲームと言われるジャンルのモノで要は恋愛シミュレーションでヒロインの性格を男目線でどう思うかとよく聞いて来た。
中肉中背で特別モテることもなく中の上くらいの顔立ち、平凡な日々だったがそれなりに幸せだった。死んだ記憶もないが25歳以降の記憶がないから何かしらあってそのころ死んだのだろう。
目を覚ますといつもの寝室で寝かされていた。今の俺はレオナルド・アレクセイ、この国の第1王子だ。詳しい内容は覚えていないがこの国の名前や俺の名前は妹のしていたゲームの1つに酷似している。お茶会で見た前世の記憶を思い出すきっかけになった令嬢は将来俺の婚約者となりヒロインをいじめる悪役の幼い姿だと今ならすんなり理解できる。
携帯小説でよくある乙女ゲームに転生というやつだ。しかも、攻略対象の王子。妹の話では我が儘な俺様王子。乙女がーむの定番なら身分の低いヒロインと恋に落ち様々な試練を乗り越えて結婚なのだけど、実際そんなのありえないだろ!!幸せになる未来なんてゲームの中だけだ。妃になるための教育なんていていないだろうし貴族からの批判も多いだろう。俺が支えるにしても限界があるし。小説であるようにヒロインが転生者で逆ハーやられたらそれこそ最悪だ。かと言って悪役令嬢と結婚もどうかと思う。性格悪くて人の足を引っ張るようなのと結婚しても苦労する未来しかない。今から性格改善させるにもそんな暇があるなら自分磨きに時間を使いたい。王子として学ばなければいけないことは多岐にわたる。小説であるようにチートでもあるかもしれないがそれなら国をよくするために早くから動くのに費やしたい。一人の令嬢のために時間をつぶすのはもったいない。
「レオナルド!!目を覚ましたか!?」
いろいろ考えていると父上が慌てて入ってきた。そばにいた侍女が知らせてくれたのだろう。目が覚めたとき数人いるうちの何人かが慌てて出て行ったのを見ている。
「父上、ご心配おかけしました。まだ少し頭痛はしますが僕は大丈夫です」
「そうかそうか。だが目覚めたばかりだ。無理はするなよ。すぐに医師が来るからな」
そう言って頭を撫でてくれる父上の顔は国王の顔ではなく子を心配する父の顔でうれしいような恥ずかしいようなこそばゆかった。
「父上、婚約者の件なのですが、あの時いたのは国内の令嬢ばかりでした。そうなると公爵令嬢が最有力候補なのでしょうか?」
「そうだな。レオナルドには悪いと思うがほぼ決定と思っていいだろうな」
「やはりそうなのですね・・・・・・・
時は流れて15歳になり今乙女ゲームの舞台になっているであろう学園に通っており、学期最後のパーティーの最中だ。俺の傍らには宰相の息子のグライデル、騎士団長の息子のセグルトがおり、俺たちは呆れながら目の前で起こっていることを見ていた。
「あなたいい加減にしたらどう出るか?いつもいつもレオナルド様の周りをうろついて身の程を知りなさい!!」
「何よ!自分が愛されていないからって八つ当たりはやめてください!!あなたこそいい加減諦めてれてレオナルド様に近寄らないで!!」
「私は婚約者としてレオナルド様を支えているのです!!顔だけの男爵令嬢が図に乗るんじゃないわよ!!」
「レオナルド様の妻になるのは私です!!親の力で無理やり婚約者になったあなたと違ってレオナルド様から寵愛を受けてるんです!!」
言わずもがな二人はヒロインと悪役令嬢だ。元平民で男爵に引き取られことあるごとに俺たちにかかわろうとするヒロイン。婚約者がいるにも関わらず色目を使い、礼儀もなっておらずみんなから距離を置かれている。悪役令嬢もあのお茶会以来王城に来たり手紙を書いたりで俺に取り入ろうとし、何を勘違いしたのか今では俺の婚約者だと思い込んでいる。我が儘で傲慢というわけではないが妄想がひどく表立ってはいないがこちらも評判は悪い。
二人はよく衝突しては学園に迷惑をかけていたがそこまでひどいものではなかったし娯楽も少ないこの世界では丁度いい余興になったので俺は二人を止めることなく周りには反面教師として学びつつ巻き込まれない距離をとりつつ楽しむよう言っておいた。
今もどちらが俺にエスコートされるにふさわしいかで言い争いをしているが誰も止めることなくその様子を見ながらパーティーを楽しんでいる。いつもより苛烈で今にも手が出そうなのでそろそろ止めた方がいいかと思っていたら給仕の一人が俺の元まで来た。
「殿下、姫様が扉の前まで来ております」
「おお、やっと来たか。すぐに向かう」
言い争っていた二人も俺の嬉しそうな声にどうしたのかとこちらを見てくるが俺はそれを無視して歩き始めた。
「ああ、会いたかったよアヤメ」
「もうレオ様ったら。みんなが見てますよ」
彼女を見つけると俺は迷うことなく抱きしめその髪にキスをした。彼女は言葉では注意をするが俺から逃れることなくしなだれて来てくれる。
「レオナルド様、誰ですかこの方は!?」
「そうです!!私というものがありながら何をなさっているのですか!?」
「誰も何も隣国キョウ国の姫で俺の婚約者のアヤメ・オダだが?」
俺は記憶を取り戻してから考えた。どちらとも結婚したくないならどうすればいいいか。答えは簡単だ。別の人と婚約すればいい。しかし、国内で選ぼうとすればほぼ確定の出来レースで悪役令嬢にされてしまうので国外から選んだ。今までは国内の結束を固めるということで国内から選んできたがこれからは国同士の絆を強くすることを重要視した方が国のためになるのではないかという俺の訴えは父上である国王は元より多くの重役たちも賛同してもらえ、すぐに隣国の姫君たちが集められた。その中でも異彩を放っていたのがアヤメであった。キョウ国は前世の日本それも幕末時代と似な国だった。隣国ということでうちの国との交流は少しあったが他とは交流もなく謎の多い国と言われていた。他との交流もなく異なる文化を持った国とのつながりが強くなり国の発展につながるとなれば文句は少なく婚約はすんなりまとまった。王妃である母は着物や装飾品に興味を示し、国王である王も献上された刀を見て喜んだ。俺としては米が食べたいというのが大きかったのだがアヤメを見て一目惚れした。アヤメは着物の似合うまさに大和撫子という感じの少女。おしとやかで礼儀正しく男を立て、こちらに非があればちゃんと意見もちゃんとしてくれるまさに理想の女性だった。
「レオ様、こちらの方々は?」
「アヤメ、馬鹿がうつるからあまり近寄ったらいけないよ。『私がレオナルド様の婚約者』とか『私はみんなに愛されている』とか妄想ばっかりしている者たちだ。距離をとって娯楽として眺めてる分には面白いけど関わったらダメだよ」
「まぁ!!レオ様、浮気なんて私悲しいわ」
「まさか、俺が愛しているのはアヤメただ一人だよ」
アヤメは俺を非難してくるが笑いながら言ってくるので冗談だとすぐわかる。こちらも笑いながらフォローすると少し顔お赤くしてホント可愛い。あんぐり口を開け驚く二人の横をすり抜けアヤメと共にパーティーに加わるとアヤメの来ている着物に興味が引かれたのかすぐに女生徒たちに囲まれた。普通なら不敬に当たるが、綺麗な物に対する女性の執着はすごいもので遠ざけると後が怖いしアヤメも笑顔なのでここは目をつぶった。アヤメとダンスもしたかったが着物で踊ることもできないので我慢した。
その後、二人はすっかりおとなしくなりほどなくして学園から姿を消した。自分のしてきたことに気が付き恥ずかしくなり修道院に入っただの親に知られて消されただの様々な憶測が飛び交ったが真実は誰も知らない。俺も国王たちも何かしたわけでもなく勝手にいなくなったのだった。