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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死んで時を戻る私の物語

作者: 柘榴

 辺りは、炎に包まれている。逃げ場など無い。

 私はそっと彼を見る。……良かった、怪我はしていない。けれど、泣きそうな顔をしている。その顔にしてしまったのは私だね……。


「死ぬな、ティア!! 我とともに生きると言ったであろう!?」

「ごめんなさい……、私は所詮脆い人間だもの。少しの攻撃で死んでいくわ……」


 でも、出来るなら貴方と共に生きていきたかった。


 その言葉が音になることは無かった。

 ガラガラと大きな音を立てて崩れているお城を、ぼんやりとした目で見つめていく。


「……もし、再び時を戻ることが出来たら、また……会いに行くから……」


 たとえ、貴方の記憶が無くても。私は何度でも、貴方と共に……――。





 ああ、もう、意識が消えていく。……彼の顔がもう見えない。






 ――そうして私は、何度目か分からない死を迎えた。






***






 ぱちりと瞼を開いた。

 倒れていた身体を起こして、見慣れた部屋を眺める。


 小さくため息を吐いた。


「ああ、また失敗した……」


 流れるように、唇から出てきた言葉には、疲れが混ざっていた。




***




 私はティア・アゼイフォン。アゼイフォン子爵家に生まれた娘で、兄が二人、弟が一人いる。何処にでもいるような貴族の一家だ。

 けれど私は、他の人とは違う。誰にも言えない私の秘密。


 それは、【死と時を繰り返し、終わることの無い物語を続けている】ということ。


 もう何度繰り返したか分からない。正の字が、十回を超えたところで数えるのを諦めた。それぐらい続けている。

 頭が可笑しくならないのかって? そんなのは今更。そりゃあ、初めて死んで、時を戻ったときは発狂したよ。けれどその姿を見た家族に、修道院へと強制移動。そして、一人寂しく天寿を全うしましたよ。けれど、また時を戻ってしまった。

 二回目以降からは、発狂こそしなかったものの、徐々に精神が磨り減っていくよね。だって私以外は、何も知らない。全てが始めての事なんだから。知っている人なのに、知らない振りするのも大変なんだから。ポロリと口に出してしまったときなんか、ヤバイからね? それが、大したことない情報だったら良いけど、重大秘密だったときは、もう生きていけないから。殺されるから。口封じだよ。めっちゃ痛いからね、首切るの(物理)。


 そして、何百回目か分からないけど、とにかく再び物語が始まりましたよ。ええ、面倒だわ。

 けれど今回は何か可笑しい。いつもと同じ場所で目が覚めて、いつもと同じように食堂へと向かったのだけれど……。


「何が、起こっているのですか……?」


 目の前で巻き起こる騒動。父は怒鳴ってるし、兄二人は殺気立ってる。弟に関しては大泣き。


 もう一度言いたい。何が起きた……?


 拉致が開かないので、とりあえず比較的話しやすい母に聞こうと思う。


「お母様、一体何が起きているのですか?」

「あら、ティア……」


 優しげな表情が素敵な母の顔は、しょんぼりと眉を下げている。その声に反応した家族は、一斉に私の方へと顔を向けて、口々に説明を始めた。


 聞いた話を要約すると、魔女狩りをすると国王が命令したらしい。その魔女はアゼイフォン子爵令嬢ティア・アゼイフォンであるということ。理由を聞いたところ、最近王の近くをチョロチョロしている謎の人物からの助言らしく。

 曰く、「ティア・アゼイフォンは魔王の手先の魔女だ。魔王を滅ぼさねば世界が終わる。手始めに魔女ティア・アゼイフォンを殺せ」と声高に言い続けているらしい。何じゃそりゃ。


「何故私が、魔王の手先であると言うことになっているのでしょうか」

「それが……夢のお告げだとか」

「そして、国王はその言葉を真に受けて、魔女狩りを発令した」


 なるほど、つまり国王はポンコツということですね。どれだけ繰り返してもこれだけは変わらない。しかし……、謎の人物に関しては気になるな。今までとパターンが違う。初めて起きた出来事かも。

 それにしても、そいつは一体何者なのだろうか。この国の者? それとも他国の者? あるいは……。


「ティア、どうしたんだい」

「お兄様」


 下の兄が心配そうに見つめてきます。考え事をしていて、つい顔が険しくなっていたみたい。困ったなあ。何者か知ろうにも、心配性の家族には止められそうだし、何より相手は王城にいるってことだろうし……。ああん、面倒くさい。

 とりあえず部屋へ戻ろう。


「少し部屋へ戻らせていただきます。……私なら大丈夫ですわ」


 大丈夫と言っても、家族は心配そうな表情が取れない。そりゃそうか。娘の一大事だもんね。でも、なんだかんだ私は、この人たちよりも人生を繰り返してるからなあ。精神年齢は何百歳とかになるんだよね。

 自室の扉を開けて、鍵をかける。扉に手をかざして、防音魔法と結界魔法をかける。邪魔されたくないからね。


「……さて、ひとまずは謎の人物について調べないと」


 私を敵に回したんだから、覚悟してよね。こちとら、首を切られ、肢体を引きちぎられ、心臓を取り出され、生物実験にされ、火あぶりにされ、首を絞められ、その他もろもろ……。どれだけ死んだと思ってんだ。苦痛を通り越して快感に……ゴホッゴホッ。いえ何も言ってないです。

 とにかく、様々な死を体験した私に、死角はない。待ってろ、謎の人物。




***




 翌日になり、私は早速行動に移しました。買い物と称して城下町へと向かう。目指すは、人々の噂!! そのために、私は昔馴染みの彼へ会いに、飲食店の扉を開いた。中に客はおらず、記憶の通り今日は休業だ。そして、いつものように彼はキッチンに立っていた。


「こんにちは、ゲール」

「げっ!! ……ティアじゃねえか、何してんだ。魔女狩りのこと知らねえのか」


 最初の言葉に少しだけ顔が引きつったけど、その後は、周りを気にしながら小声になったから許すわ。それより、ゲールは何か知っていそうだね。まあ、もし知らなかったら王城に頑張って忍び込もうか。


「そのことに関して聞きに来たのよ。ゲール、貴方にね」


 聞きたいことは、二つある。どっちもゲールが知っていれば良いけど……。


「一つは、国王の近くにいるって言われる謎の人物について……。何か知ってるかしら?」


 そう聞くと、ゲールは顎に手をやり記憶を探るように目を瞑ったが、すぐに頷いた。


「そいつは確か、隣国の王宮お抱えの占い師だ。何でも、未来を見通せる力があるらしい」

「へえ、……それで?」

「何でも、先日占ったらティアの姿が映し出されて、王国を攻撃していたらしい。……近くには魔王や魔物の姿が映っていたってよ」


 成る程ね、それで私が魔王の手先であるって言うこと。それにしても、王国を攻撃していた……ねえ。


「それは本当に未来・・の映像なの?」

「それなんだが……実は、魔王が占い師と接触したという噂があるらしい」


 ……へえ、そうなの。魔王が……ね。それが夢のお告げの真実ってわけ。


 私は、顔が満面の笑みになった気がした。


「ありがと。それからもう一つ聞きたいんだけど……その噂の魔王について」

「……ああ。それなら魔物の大陸だ」




***




 ゲールにお礼を渡し、家に戻ってきた私は、誰にも会うことなく自室へ入る。


「ふふっ。……あははは!!」


 可笑しくて、つい涙が出てくる。国王の近くにいる人物が隣国の人間だと分かったときは、予想に反して嬉しかった。隣国が本国の人間を殺せと言っているということは、戦争しましょうと言っているようなものだ。前回と同じような物語に向かっている気がした。ただ今回は魔王が占い師と接触し、占い師が夢のお告げだと言った。それだけは今までと違う。


 物語的には、魔女と呼ばれる私の死を使って、魔女を育てた家を潰し、最後には国をも潰し滅ぼす。


 恐らく、そう考えているのだろう。隣国はそういう奴等ばかりだ。脅威があるならば、花を咲かせる前に摘んでしまう。実をつけてしまったものならば、言葉巧みに引き込む。最強は自分達だという奴等。ただ、本国だって決して弱くは無い。下手をすれば両国とも滅ぶでしょ。


 それにしても……。


「馬鹿な奴等」


 がいる限り、たかが人間が最強などありえない。


 前の物語でしか会えなかった彼。共に生きようと言ってくれたあの人。私の最期まで共に戦ったあの人。たとえ、また初めからでも構わない。だって私は彼を愛しているのだから。何度でも彼と一緒にいきたい。


「ヴェレン……」


 口に出したら、会いたくなってきた。会いに行こうか……。

 簡単には会えない場所にいるけれど、明日にでも向かおうかな。




 魔物のすむ国、ゼールディスア王国。その国をすべる王……魔王ヴェレンガール。私の、愛する人。


「ごめんね、大切な家族を捨てることになるね」


 それでも、私には彼がいる未来しか欲しくないの。たった一度、前回死ぬまでともにいたヴェレンといる未来しか。彼と共に、王国相手・・・・に戦ったあの物語を……もう一度。


 今度は失敗したりしないわ。たとえ、何を犠牲にしても。




***




 家族に残した手紙をリビングに置き、使用人が起きる前に私は家を出た。何度、この家に別れを告げてきただろうか。初めて自分の意思で、別れを告げる。今までは強制的だったからなあ。

 しみじみと家を見つめていたけど、あまりゆっくりはしていられない。行かなくてはいけない。


「さよなら……」







 そうして、生家を後にして城下町を駆け抜けていく。立ち止まったりはしない。一秒でも早く彼に会いたい。


「ヴェレン……」

「呼んだか、お嬢さん?」




 ………………。




 は? 今、声が聞こえましたが? 私の大好きで愛してる人の声が耳元で(吐息付き)。


 声のしたほうに顔を向けると、そこにいたのは確かにヴェレンだった。しかし、何故ここにいるのか。そもそも、私のことを知らない筈だ。知らない、筈。だってまだ現世では会ってないんだもの。


「……ヴェレン?」


 ヴェレン(仮)は、ニッと笑い私に近づいてきた。


「待ってたぞ、我が花嫁よ」


 私に手を伸ばし、ゆっくりと抱きしめる。ああ……ヴェレンのぬくもりだ。とても心地よい。私のことを花嫁と呼んだ……、……呼んだ!?


「あ、まって、なに、おきて……!? わたっ、おぼっ……え!?」


 勢い良く身体を離してヴェレンを見る。目を見開いて固まった。


「落ち着け」


 ヴェレンに頭を撫でられ、ふかーく呼吸を繰り返し、落ち着いた私は、しっかりとヴェレンを見る。

 前回の姿と何一つ変わっていない。魔物の王らしく格好いい装飾のついた服装に、腰まである艶々の黒髪。ルビーのように真っ赤な瞳に形の良い唇からちらちらと見える犬歯。そして、頭に見える二本のツノ。ああ~~、かっこいいよ~~。抱いて欲しい(真顔)。……ごめん、今のはさすがに変態だったわ。忘れなくても良いけど。……いや、むしろ覚えていてね!!


「ヴェレン? 私のことを覚えている、の?」


 一番聞きたいこと。それを震える声で彼に問いかける。ヴェレンは、ニヤリと笑った。


「忘れるわけが無いであろう、我が花嫁のことだぞ」

「けど、私は確かに死んだわ。時は戻ったもの」


 言外に、何故覚えているのかと言えば、ヴェレンは驚くべき答えを言った。


「我もティアと同じ存在だからだ」


 ほう……? 同じってことは、ヴェレンも時を戻れると?



 ……え?



「ええええええっ!!?? 嘘!?」

「嘘など言わない、本当だ」

「信じる!!」


 ヴェレンの言葉は信じます!! 愛してるからね!!!

 ん? と言うことは、今回いつもと違う物語になっているのって……もしかして。


「ヴェレン? 今回時が戻ってから……貴方、なにかした?」


 そう問いかければ、ヴェレンは悪戯がばれた子供のように苦笑した。小さく頷いたヴェレンは、今回の物語について説明をしてくれた。


 前回、私が死んでから、ヴェレンは怒り来るって暴走したけれど、人間の圧倒的な数の暴力に負けて死んでしまったらしい。そして、時が戻って魔王城の玉座に座っていた。一瞬記憶が混乱したらしいけれど、すぐに私の気配を感じ取って、冷静になったらしい。私ことを覚えていたからすぐにでも会いに行きたいと思ったけど、人間のところへ姿を見せてしまっては不味いということで、隣国の占い師の夢の中で、私と魔王が一緒に王国相手に戦っている映像を見せて、私が人間側の敵だと思わせたんだって。ただ、国王が魔女狩りを発令したのは予想外だったけど……、って怒ってた。

 とにかく、そうしたら、私が人間の国を追い出されるから、迎えに行こうとしてくれたらしい。その前に私自ら出てきちゃったけどね。


 つまり、私とヴェレンは考えていることが同じってことだね。お互いが会いたいがために何かした。こういうのって運命共同体って言うのかしら? まあいいや。


「それにしても、どうして隣国の占い師にしたの?」


 そう、それは疑問に思ったことだ。どうして本国の占い師とかじゃいけなかったのか。

 ヴェレンはとてもいい笑顔で言った。


「うまく事が運べば、両国とも滅ぶだろう?」


 うわあ、ヴェレンの考えそうなこと……。ん? そう結論付けた私もヴェレンに似てるのか。やーん、嬉しい。



 なんて、考えているとヴェレンから声をかけられる。


「ティア……、今一度聞きたい」


 真剣な表情で私と向き合うヴェレンの熱のこもった視線に、クラリとしたけれど私は頷いた。ヴェレンはそれを見て、唇から言葉を紡いだ。


「我と、ともに生きてくれないか」

「私は、貴方と……貴方だけと、生きていきたいです」


 間を置かずに返事をした私に、ヴェレンは分かっていたかのように微笑んだ。うっすらと赤みがかった頬が可愛らしかった。


「ティア」

「なあに?」


 首を傾げてヴェレンを見ると、彼はじっと私の瞳を見る。彼の赤い瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。私の顎を支えてヴェレンは言った。


「キス、していいか?」



 なんだ、そんなこと。



「ふふ、いくらでもどーぞ。旦那さま」


 からかうように言えば、愛しい彼からキスの嵐が振ってくる。リップ音を鳴らしながら、額、瞼、鼻先、頬、顎、そして唇。触れるだけの優しいキス。

 なんだか物足りなくて、唇を開いてしっとりと濡れた彼の唇を舐めた。ピクリと反応したヴェレンに笑ったら、彼から仕返しと言わんばかりに、唇の隙間から舌を差し込まれた。吸い付くようにして彼は口内を舌で蹂躙していく。


「んっ」


 吐息が漏れる。彼は私の項を支えて、もう片方の手を腰に持っていく。激しいキスとは逆に、優しい手つきでスルリと腰をなで上げた。ビクンと腰が揺れた。


「はっ……これ以上は駄目」


 慌てて彼から唇を離せば、ヴェレンは楽しそうに笑っていた。言葉にはしていないけれど、目が物語っている。




(続きは、城に戻ってからだな)




「……もう、えっち」


 耐え切れないように噴出したヴェレンは、ケラケラと魔王らしからぬ表情で笑い始める。






 ところで……。


「ねえ、ヴェレン」

「ん?」

「人間はどうするの?」





 そう聞いた私に、ヴェレンは魔王らしい顔で笑った。





「我らの邪魔をしたときが最期だな」




 私の旦那さまは、そう言って私を連れて魔王城へと飛んでいった。








 もし、私が死んだらまた時が戻ってしまうかもしれない。

 それでも、また私は、ヴェレンと共に生きる。それを繰り返す。




 その幸せを壊す奴等は殺してあげる。たとえ私が死んでもね。






 そうして私は何度でも死んで時を戻って、また彼と共に生きる道を選ぶ。







 ――それが私の物語。

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