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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
1章 マインズ編
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第8話  アリス、現状を考察する。

 

 忙しさのピークは過ぎたので、今日は昼から休みをもらえることになっていた。  

 油やら何やらで汚れた前掛けを脱ぎ、大きく伸びをする。

 ついでに仕事の邪魔にならないように束ねていた髪をほどく。

 一応姿見で服装を整えてから、ドーティに声を掛ける。


「じゃあ、後はよろしくね」


「おう、ゆっくり町の中でも歩いて気分転換してこい」


 ドーティが作業の手を止めてこちらに手を振る。

 オレは彼に手を振り返すとゆっくり町の中心部に向けて歩き始めた。



 ドーティの武器屋で厄介になってから早四日が過ぎた。

 マインズの町も幾分落ち着きを取り戻してきたように思える。

 最初にきた頃には人々の中にどこか殺伐とした余裕の無さを感じたものだが、今は通りを歩く人たちに笑顔が浮かんでいる。


「……あ! アリスちゃん、今日は店の方はどうしたんだい?」


 振り返ると見たことのある冒険者たちが声を掛けてきた。

 どうやら俺もすっかり武器屋の看板娘として定着したようだ。

 ……男ってのはホント美少女に弱いからなぁ。


「今日はお昼からお休みをもらったの。……もし私に会いたいんだったら明日お店に来てね!」


 オレに向かって懸命に手を振っているゴツい男どもにイタズラっぽく笑って見せた。


「あぁ、そうしよう! ドーティには悪いがもうアリスちゃんのいないあの店に行く気にはなれん!」


 彼らも豪快に笑い出す。

 オレは他の人間たちにも愛想を振りまきながら、まずはこの町のギルドを目指した。



 古今東西、冒険者を名乗るならばギルドに登録しなければならない。

 これはどこの国でも同じことだ。

 登録しないモグリの冒険者は無法者扱いされる。

 実際そういった人間は裏社会の()()()に従事していることが多い。

 基本的にギルドに所属して悪いことはない。

 むしろ身分保障のために登録しておいた方がいいぐらいだ。

 国によって違うが、登録された冒険者にはそれなりの権限や恩恵が与えられる。

 ちなみに、この国の東にある水の公国って所にギルドはない。

 まぁ、そういう国もあるということだ。


 

 しかし、今回オレは冒険者登録をするつもりはなかった。

 できることなら、厄介事に巻き込まれずに行動したいからだ。

 ギルドには所属全員に対して発令される特別任務なんてシロモノもあるし。

 それにこれからのことを考えると、何かに縛られるのは好ましくないと判断した。 

 だが、そんなオレがわざわざギルドに足を運んだのには別の理由がある。

 どうしても確認しておきたいことがあったからだ。

 ――それは以前の旅の仲間、アックスとウィップの存在だ。

 前回、オレたちはこの町マインズでパーティを組んだ。

 町長にお使いを頼まれて、その足でギルドの扉を叩き、そして彼らに出会った。

 その二人が今ここのギルドに存在するのか、それとも過去に存在したのか。

 どうしてもそれを知っておく必要があった。

 


 ……結論からいえば、あの二人は存在しなかった。

 ギルドカウンターで受付のお姉さんに名簿を調べてもらったが、マインズギルドにそんな名前の冒険者は在籍していなかった。

 過去にいたかどうか確認してもらったが、該当するような人間はいない。

 武器屋でアルバイトをしているうちに仲良くなった冒険者にもそれとなく聞いて回ったが、そんな名前の二人は知らないという。

 年号から考えれば、今ここに存在していないとおかしい。

 それを無視して考えるとすれば、今頃ウィップは帝都で魔装具屋を開き、アックスは未知の大陸で冒険しているという可能性もあるのだが……。

 まだ帝都に皇帝が存在している以上、ちょっとそれは考えられない。 



 どうやらこのセカイは、前回と全く同じセカイでありながら、彼らの存在しない並列セカイのようなものと考えるのが正しいようだ。

 神はあの時、子供の助けに入らなかったオレを勇者とすることを諦め、代わりの勇者としてクロードを引っ張り出してきた。

 そして自分は運良く勇者役を外れることが出来た不確定の存在、そう考えるのが自然な解釈だろう。

 結果として勇者を経験したオレと勇者候補の彼が同時存在することになった、と。

 まぁ、これはあくまでオレの想像なのだが、あながち外れている訳ではなさそうだ。

 小姑のように、ちくちくうるさい神の声が届かないという、こんな素敵な環境を満喫できるだけでオレはもう幸せ一杯だ。

 

 

 基本方針に修正はない。

 勇者一行に面倒を押しつけ適度に足をひっぱり、その間にオレは自分の理想郷を作る。

 前の仲間が存在する状況でこのセカイを弄ぶのは少々躊躇するが、これならば心おきなく思う通りの人生設計を描くことができそうだ。

 

 

 オレはギルドを後にすると、町の外に足を延ばしてモンスター討伐に勤しんだ。

 傷を負っても〈賢者の石〉があるので快適そのものだ。

 新しく打った剣の具合も上々。

 一振りするごとに、手に馴染んでくるのを感じる。

 俺はしばらく感情の赴くままに戦い続けていた。

 モンスターを狩るついでに、勇者一行の戦闘を遠目でチェックするのも忘れない。 

 ……特筆すべきはあの武道家だろうか。彼は強い。

 そもそもレベル自体が他の三人よりも高いのだろう。

 戦闘能力では一人頭抜けている感じがする。

 店に入ってきた瞬間から一人だけ雰囲気も違っていたし。

 


 勇者サマは随分と張り切っているが、空回り感がにじみ出ていた。

 考えなしで動くからチームプレイが上手くいかない。

 まぁ名誉校長の剣を手にしたから無理もない。

 ……うちの学校の聖騎士なら誰もが憧れていた剣だし。

 何よりあんなに高額の剣を買っておいて「使いこなせません」、じゃ立場がないだろう。

 だが、あの剣自体はそれ程に攻撃力のあるモノでもない。

 むしろ店に並んでいたドーティの打った剣の方が安価で使いやすいだろう。

 更に言うならばアレは模造品(レプリカ)だ。

 何十年も前に活躍した将軍が使っていたような剣が、刃こぼれもなく綺麗に保存できる訳がない。――帝国の魔装技術でもあれば別だが。

 魔法剣一本作れない聖王国では不可能だ。

 何も知らない金持ちならば騙せても、冒険者ならばそれぐらい気付く。

 おそらくクロードも知っていながら、それでもアレを選んだ。

 ……要するにそういう人間だということだ。 



 その焦るクロードのせいで狩人が苦労していた。

 上手くタイミングを合わせることが出来ず、連携がちぐはぐだ。

 パーティでの戦闘にまだ慣れていない感じだ。

 腕は確かなのは認めるが、見た目通りの内向的な性格が災いしているのだろう。 

 遠距離での攻撃は魅力的なのに、それを生かし切れていないのがもったいない。

 ……勇者サマがただ邪魔をしているだけっていうのもあるケドな。

 あれ? 魔法使いはもう打ち止めなのか?

 何もせず所在無さげに突っ立っている。

 まぁ、レベルが上がるまではそうなるか。 

 ウィップも最初はそんな感じだった。

 それでも彼女は鞭で援護攻撃してくれるようになったけれど……。

 アレはアレで気の利くいいヤツだったのかもしれない。

 コイツもこれからイロイロと考えるだろう。 



 周りを見渡せば、オレ以外の冒険者たちもさりげなく彼ら一行を観察していた。

 みんな興味深々だ。

 クロードが町長の孫を助けたことで勇者と呼ばれ、更に特別扱いされていることは町の全員が知っている。

 そんな彼らの戦闘はそれだけで話のタネになるというもの。

 きっと、毎晩冒険者たちは酒場で()()()()()()()の戦闘品評会を肴に、旨い酒を飲んでいることだろう。

 やれアイツはまだまだだとか、あれはセンスのカケラもないとか……。

 ヒドイ話だが、これはオレたちも通ってきた道だ。

  

 

 しばらくすると、彼らは町の方へと戻って行った。

 まさか、もう宿舎に戻るのか? ……まだ夕方なのに。

 熟練冒険者たちからすればこれから本番だ。

 夜型のモンスターが出てきて楽しめるというのに。 

 なんだか効率が悪い。

 この感じだと、洞窟へアタックするのは一体いつになるのだろうか。

 あまりにも遅いようだと計画の練り直しも考えないといけない。

 まぁあの武道家さえいれば、この辺りの敵は何とでもなりそうな気がするが……。

 オレは溜め息を吐くと、振り向きざまに不意打ちを狙おうとしていたモンスターにカウンターを喰らわせた。




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