管理者マール、神の声が届いたことに安堵する。
ようやく我の声をクロードに届けることができた。
前回のメイスと比べれば随分と遅れたが、それでも十分取り戻すことができよう。
それにしても勇者とロレントは相性抜群だ。
だがこれは当然のこと。……そのように出来ているのだ。
メイスのときもそうだったのだから。
それにしてもあの会議の場でのメイスの言動は不可解だった。
大方、女王として相応しい振る舞いだとか、多数派工作だとか色々と小賢しいことを考えているのだろう。
実にくだらない。
前回彼奴も勇者として、マストヴァル領主夫妻を殺す現場に居合わせていた。
そのときは困惑する仲間を尻目に眉一つ動かさなかったくせに。
……何を今更。
ヴァルグランでの戦争は起こるべくして起こるもの。
それは彼奴もよく知っていたはず。
マストヴァル夫妻は殺されるべくして配置された駒だ。
これをきっかけに帝国を二分する内乱が始まるのだ。
その流れはすでに決まっている。
ここで勇者が獅子奮迅の活躍を見せて劣勢を跳ね返し、さらに名声を高めるのだ。
彼奴はクロードの活躍の場を奪う為に、戦争を回避しようと考えていたのやも知れぬ。
相変わらず無駄に知恵だけは回ることだ。
だがすでに、クロードにはメイスの言動に気をつけろと伝えてある。
我の言いつけを守り、クロードは彼奴を警戒しているようだ。
手を出せない我の代わりに、メイスの野望を阻止してもらわねばならない。
……少々分が悪いのは否めないが。
こうなってくるとやはり、クロードたちの名声や信頼が上がっていないのがもどかしい。
これは彼らに落ち度がある訳ではない。
どれだけ頑張っても評価されない状況を作り出したメイスが姑息なだけだ。
ロレントは評価してくれているようだが、教会や領主たちからの信頼があまりにも薄すぎる。
今になってホルスを落としたことが響いてきているようだ。
せめてもの救いはゴールドが我らの味方についてくれたことぐらいか。
お互いメイス憎しで結束してくれたのは怪我の功名といえるかもしれない。
今後は皇帝を殺させないように策謀するメイスを、如何にして出し抜くのかが課題となってくるだろう。
この戦争でどれだけクロードが活躍し名声を手にしようが、最終的に皇帝の首に手が届かなければ、魔王に到達することなく我の敗北で終わる。
だからこそメイスも必死で皇帝を守りに来るはずだ。
それをどう切り返すのか。
彼奴を裏切り者として断罪するのも一つの手だが……。
それを行うには証拠や根回しが必要になるし、何より女王である彼奴よりも信頼されていないと、逆に返り討ちに遭ってしまう。
そもそも今からそれを狙うのには時間が足りない。
――改めて彼奴の狡知には恐れ入る。
見事にこちらが後手に回されているのだ。
味方だとあれだけ頼もしかったのに、敵に回すとこうなってしまうのか。
……まぁ、これも一興。
またとない機会。せいぜい楽しませてもらおう。
このところ、シリアスな場面ばかり書いている反動で、バカ話ばかり思いつくようになりました。
という訳で、世界観とキャラが崩壊したようなコメディ短編集を投稿することにしました。
その名も『女王国の日常』。
本編の迷惑にならないように控えめに月一投稿予定となります。
一応いくつかネタはストックしていますが、あくまで本編を完走することを最優先にしています。
もしよろしければそちらも覗いて頂ければ幸いです。
さて次話から9章『帝国内戦編』が始まります。
こちらは今まで通り週2回投稿を守っていきたいと思っています。
どうぞこれからもよろしくお願いします。




