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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
8章 不協和音編
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第3話  パール、姉と再会前におめかしする。


 夕食後、水の女王国公館の広間で会議が始まった。

 アリス様、ボク、レッドさん、ブラウンさん、クロエさん、他にも王都から連れてきた役人のオジサンたちみんなが勢揃いする。

 今日の決起集会を受けてこれからボクたちがどう動いて行くのかの相談をするのだ。

 といってもあの集会で決まったことなんて何一つない。

 結局それぞれが好きなように動くというだけの話に終始した。

 正直なところ帝国貴族の人たちには失望した。

 帝国の人といえば、ボクの中ではクロエさんだ。

 頭がよくて優しくて身なりが綺麗で……。

 でもあの場にいた人たちは身なりこそ綺麗にしていたけれどあまり賢いとは思えなかった。

 少なくともこの場にいる人たちのほうがよっぽど頼りになる。

 とにかくボクは帝国の質の悪さにガッカリしたんだ。




「――というわけで、私たちは帝国軍の対策をすることにしたわ。私と山猫たちは準備が出来次第帝都に向かうつもりよ」 


 アリス様もボクと同じように今日の会議に苛立ったのだろうけど、そんな顔はこれっぽっちも見せずに晴れやかな表情でみんなに指示を出していく。――簡潔で手際よく、女王の威厳を持って。 

 下の者はその指示をきっちり理解して速やかに動く。

 これがボクたち女王国流だ。


「私は軍職につく貴族たちの籠絡するわ。山猫のみんなは軍に対する細かい嫌がらせをお願いね。荷車の車軸を破損させたり、鐙に切れ目を入れてみたり、兵糧に薬を混ぜたり他にもいろいろね……」


「はい!」 

 

 山猫の隊長としてボクが拝命する。

 いつも誇らしい気持ちになる。

 簡単で地味な仕事だけど、足並みを乱すのが目的だそう。

 出撃後に初めて気付くから効果的みたいだ。

 その説明を聞いていたクロエさんが楽しそうに笑っているのが妙に印象的だった。



「公館の守りはウィルに任せるわね」


「はい!」

 

 ウィル君がハキハキとした声で応えた。

 厳密にいえば、ここを守るのは彼に従っているハルバート家の間諜の人たちになる。

 以前はお互い命を奪い合った敵同士だったけれど、今は背中を預けられる頼もしい仲間だ。

 最近はウィル君も交えてよく一緒にご飯も食べに行くぐらいだ。

 みんな本当に親切にしてくれる。


「しばらくここを空けることになるけれど、……キャンベル。貴方が女王の名代として動いてください」


「はっ!」


 アリス様はしばらく考えた後、ちらりとクロエさんの方を見た。

 クロエさんも何事かと首を傾げる。

 アリス様は特に何も言わず、再びキャンベルさんに向き直った。


「……軍を動かす必要はないからね。あちらもあれだけ私たちに啖呵を切っておいて、今さら援軍要請もないでしょう。……それでも、()()()()()()が軍を寄越せと言ってきたら、まずはきっちり頭を下げさせて。もしちゃんと下げてくるなら、そのときは速やかにブラウンたちを出してあげなさい」


「またっスか!?」


 いきなり話が飛んできて、ブラウンさんが情けない声を上げた。

 その反応にみんなが大笑いする。

『とりあえずブラウンさん』は女王国の合言葉のようなカンジだ。

 古都イーギス戦でも出撃させられていた。

 ……船酔いでヘロヘロだったのに、休む間もなく馬車に引きずられていった。

 あの姿は本当に可哀想だったけど、最高に笑えた。

 ボクもみんなと一緒に笑い声を上げたが、正直心から笑える気分にはなれなかった。


 

 ――あの会議室に生き別れになっていたサファイアお姉ちゃんがいたのだ。

 あの大きな部屋に入った瞬間、本当にびっくりした。

 レッドさんからはアリス様にケンカを売った冒険者一行の話は聞いていた。

 クロードとかいう名前のバカのことも。

 神の声が聞こえたとか頭のおかしいことを口走ったとか。

 もし敵対することになったら、ボクは躊躇いなく彼らの首を刎ねるだろうし、その日が来るのが待ち遠しい程だった。

 それなのに――。

 その一行にお姉ちゃんがいたのだ。

 もしお姉ちゃんとアリス様が敵対するなら、ボクは迷わずアリス様を選ぶ。

 たとえお姉ちゃん相手でも容赦はしない。

 アリス様はボクたち国民のすべてなのだから。

 ボクは何があってもアリス様を守ると決めたんだ。




「……どうしたの?」


 いつの間にか会議が終わっていたのか、アリス様がこちらに近づいていたのに気づいてハッとする。


「いえ、大丈夫です」


 任務前なのににしっかりしないと。

 申し訳ない気持ちでアリス様に相対し、いつものようにしっかり目を見て答える。


「大丈夫じゃないから聞いているのでしょう?」


 真顔のアリス様だ。

 この顔をするときは絶対に言い訳してはならない。

 決して嘘もついてはならない。

 側近ならば誰もが心得ていることだ。


「その、例のクロード一行の中に生き別れになっていたお姉ちゃんがいました……」


 ちゃんと正直に話す。

 するとアリス様が目を見開いた。


「……もしかしてサファイアちゃん?」


 一発で名前が出てきた。さすがアリス様だ。


「お姉ちゃんのこと知っていたのですか?」


 アリス様はその質問には答えずに、優しい笑みを浮かべてボクの顔をそっと撫でてくれる。


「よく見ると貴方たち似ているかもね」


「そうだと嬉しいです」


 ずっとお姉ちゃんみたいになりたかった。

 でも今は敵も同然。それが本当に悲しい。

 アリス様はボクの頭を撫でながら、しばらく考え込んでいた。


「ねぇ、お姉ちゃんに会いたい?」


 顔を上げると、そこにはいつもよりもずっと優しげに微笑むアリス様がいた。

 そりゃ、会いたいに決まってる。……でも。

 ボクの気持ちが伝わったのか、クスリと笑うアリス様。


「会ってもいいのよ。ケイトを通じてなら簡単に会えると思うわ」


「……いいのですか? 敵ですよ?」


「敵じゃないわ。仲間よ」

 

 アリス様がきっぱりと言い切る。


「……クロエ、今晩家に帰った時にでもお願いしてもいいかしら?」


「はい。もちろんです。必ず娘に伝えておきます」


 クロエさんも優しい顔でボクの微笑みかける。

 ボクにとって彼女はもう一人のお母さんだ。

 レッドさんやブラウンさんはお兄ちゃん。

 そしてアリス様はお姉ちゃん。……まぁ一応マイカもお姉ちゃんかな。ちょっとだらしないケドね。




 それから数日たった昼頃クロエさんからお姉ちゃんに会えると聞かされた。

 時間と場所はこちらが指定するとのこと。

 今すぐにでもお姉ちゃんのところに走って行きたかったけれど、そこにアリス様の待ったが掛かった。


「……ねぇ、海猫亭の個室を取って貰えるかしら? せっかくだから二人で美味しいものを食べて欲しいわ」


 海猫亭は港湾区にあり、手軽な料理から高級料理まで出してくれるお店だ。

 ボクもみんなと一緒に何回も行ったことがある。

 クロエさんが「了解しました」と早速予約を取る為に動いてくれた。


「心配しないで。私の懐から出すから安心してね」


 そういうとアリス様はボクの頭を撫でてくれた。




 そしてボクはというと……アリス様とクロエさんにおめかしして貰っていた。

「そのままでもいいです」と言い張るボクを、アリス様が椅子に抑え込むようにして座らせたのだ。


「ダメよ。今生の別れになるかもしれないのだから……」


 少しだけ悲しそうな声で呟く。

 目の前ではクロエさんも慈しむような顔でボクに化粧をしてくれていた。

 ……そう。

 ボクたちの任務は常に死と隣り合わせだ。

 もちろん簡単に死ぬつもりはない。

 でも気持ちだけでどうすることもできないことはたくさんある。

 お姉ちゃんの仕事だってきっと同じ。


「……もし私が貴女の姉ならば、死ぬ直前には可愛らしい貴女の姿を思い浮かべながら、安らかな気持ちで死にたいわ」


 優しい声でボクの髪を梳かしながら囁くアリス様。

 凄く嬉しかった。

 そこまでボクのことを大事に思ってくれているなんて。

 ……サファイアお姉ちゃんもそんな風に思ってくれるのかなぁ?


「ほら、泣かないで。もう一度化粧をやり直させるつもりかしら?」


 クロエさんが咎めるような口振りで、だけど優しい笑顔で涙を拭ってくれる。

 ボクは本当に幸せ者だ。


「へへ……ゴメンなさい」


 そう謝るとボクは目を瞑ってしばらくの間、大好きな二人のおもちゃになった。



 

 短い距離なのにも関わらず、アリス様は馬車を出してくれた。

 おかげで店の前で降りた時は、何事かと視線を集めてしまってちょっとだけ恥ずかしかった。

 ボクは逃げるように店に入り、予約していた部屋に案内してもらう。

 先に到着していたお姉ちゃんは会議のときと同じような冒険者の服装だった。

 ボクだけこんなおめかし。

 ちょっと変かなぁ?


「久し振りだね!」


 お姉ちゃんに笑いかけると、疲れているのか力ない笑顔が返ってきた。


ポルトグランデ(こんなところ)で会うなんてホントびっくりしちゃった」


 生き別れになっていた姉妹が異国の地で。それも偉い人が集まる席で。

 お姉ちゃんもアリス様の横に控えているボクを見てビックリしたらしい。

 そりゃそうだね。



 そんな会話をしているうちに美味しそうな料理がどんどん並んでいく。

 凄すぎる。アリス様、張り切りすぎですよ!

 お姉ちゃんも落ち着きなく店員さんとテーブルを交互に見ていた。


「……大丈夫、大丈夫だから。お代はすでにアリス様が払ってくれているから」


 慌ててそう伝えるとお姉ちゃんは一瞬だけホッとしたような表情をみせた。

 ボクだって何も知らないうちにこんな豪華な料理が並んだら心配になる。


「……女王ってやっぱりお金持ちなんだね……」


「うーん。どうだろ? 普段のアリス様は意外と質素にしてるケド。……でも宝石とかは結構持っていると思う。あの会議のときとかも何かイロイロ凄かったし」


「……今のアンタも結構凄いと思うよ」


 お姉ちゃんが呆れたように言う。

 ボクもビックリした。

 出来上がりを姿見で見たときは『ドコの令嬢!?』って思ったもん。

 アリス様もクロエさんもちょっと遊びすぎだよ。


「へへっ、でもね、全部借り物だよ。……あっ、でもこの耳飾りはボクのだよ。この前アリス様から貰ったんだ」


 顔を傾けてお姉ちゃんに見せる。一応クロエさんお手製の魔装具だ。

 どんな魔法ですかって聞いたら、イタズラっぽい笑顔で「可愛く見える魔法が掛かっているのよ」って。

 ……ホントかなぁ。

 小さい魔石だから、それ程効果は無いんだろうけど。

 でもそうだったら嬉しいな。


「他の子たちも色々貰ったりしているの。みんなお嫁さんになるときはコレをつけていくーとか言っちゃってるの。あっ、でもマイカはもう売っ払っちゃって酒代に変えたんだって。……あぁ、マイカってのはコーナル村出身の子でね、ボクやアリス様より年上なんだけどダメな子なの。……あのねこの前も――」




 ボクがいろんな話をしている間も、お姉ちゃんは黙々とごはんを食べていた。


「……ごめんね。なんかお姉ちゃんと会えたの嬉しくて。一人ではしゃいじゃって、駄目だねボク……」


 ちょっとうるさかったかもしれない。

 ボクの一番ダメなところだ。いつまでたっても直らない。

 少しの沈黙の後、今度はお姉ちゃんが口を開いた。


「家族はみんな元気?」


「うん。みんなすごく幸せに暮らしているよ」


「……本当に幸せ……なの?」


 お姉ちゃんの表情が曇った。

 やっぱりみんなのコト心配してくれているんだ。

 それが嬉しかった。

 だからちゃんと大丈夫だって安心してもらうために、今まで起こったことを順番に説明した。

 アリス様が山の民をまとめてフォート公を討ったこと。

 ボクが公とその側近二人を殺したことも包み隠さず話した。

 レジスタンスと取引を始める為、一緒にここポルトグランデに来たことも。

 彼らと取引を始めてから一気に山の暮らしが良くなった。

 お父さんとお母さんは新しい家で暮らしている。

 上のお兄ちゃんは隣村の女の人と結婚して、今は開拓村で畑を耕している。

 みんな忙しいって言っているけど、声が弾んでいた。

 凄くやりがいを感じているみたい。

 もちろんボクも。


「下のお兄ちゃんは兵士として今ポルトグランデに来てるよ。すでにイーギスで一戦してる。その気になればいつでも会えるよ。どうする? 明日にでも会う?」

 

「そう……なんだ。……でもいいや」


 お姉ちゃんは少し困ったような、疲れたような、そんな顔をして首を振った。




「ねぇねぇ、お姉ちゃんの話も聞かせてよ?」

 

 ご飯を食べ終わったら、食後のデザート。

 これも凄い。新鮮な果物が沢山乗っかっている。

 おなか一杯だけど、まだまだ入りそう。

 お姉ちゃんはワインを出してもらっていた。

 なんか凄い年代モノなんだって。

 お姉ちゃんはグラスを空けると、少し照れたように俯いて笑った。

 その仕草がちょっとだけ昔を思い出させる。


「……私、彼氏ができたよ」


「え! そうなの? すごいすごい! どんな人? ねぇ!」


 意外な言葉に思わず身を乗り出してしまったボク。

 あまりの驚きっぷりにお姉ちゃんはちょっとだけ嬉しそうな顔をした。

 お姉ちゃんの夢はきれいなお嫁さんになることだ。

 その影響もあって実はボクの夢も同じだったりする。

 でもこれはみんなには内緒。

 だって絶対バカにされるもん。

 お姉ちゃんは誇らしげに笑うとその名前を告げた。


「……もう逢っているよ。――クロードっていうの」


 


 ……え!? ウソでしょ? 

 ボクの表情が曇ったことで、お姉ちゃんは急に不機嫌になった。


「……彼のどこが不満なの?」


 お姉ちゃんは今まで聞いたこともないような低い声でこちらを睨みつける。 

 そんな、……不満だらけだ。

 アリス様に剣を突き付けたり、神の声だとか口走ったり。

 彼は女王国の敵だ。

 みんなあのバカを殺したいって言ってる。

 ……お姉ちゃんに彼氏が出来たことは喜びたいと思う。……思うケド。 


「……大丈夫なの?」


 何か言わなきゃと思って口に出してしまったその言葉は最悪だった。

 それを聞いたお姉ちゃんは当然のことながらキレた。


「クロードは私が初めてを捧げた人なの! ……彼もルビーじゃなくて、この私を選んでくれたの! 結婚しようって言ってくれたの! 彼のコト何も知らないくせに!」


 ……えっ?

 ……それってどういうこと。

 それまでは二股してたってこと。

 ねぇ、お姉ちゃん。それちょっとおかしいくない?


「……騙されている……とかじゃないよね?」


 思わずその言葉を口にしてしまった瞬間、力いっぱい顔をひっぱたかれた。

 ……お姉ちゃんに叩かれた。

 生まれて初めてお姉ちゃんに叩かれた。

 涙が止まらない。

 目の前の鬼のような形相をしてこっちを睨みつけている女性は、ボクの知らない人だった。

 彼女はボクから視線を外すと足早に個室を出て行った。



 ボクは一人残された個室で泣いた。

 悲しくて泣いた。

 声をあげて泣いた。

 あの貧しい山の生活の中でも優しかったお姉ちゃん。

 一つしかないものはボクに譲ってくれたお姉ちゃん。

 狩りで獣を追い詰めているときも、野に咲く花は絶対に踏まなかったお姉ちゃん。

 そのことをみんなに指摘されると、恥ずかしそうに俯いて、照れたように笑ったお姉ちゃん。

 山のみんなから目一杯愛されていた、あのボクの大好きなお姉ちゃんは今夜どこかに消えてしまった。

 ……全部全部あのクロードとかいうクズ野郎のせいだ!

 あの男がボクのお姉ちゃんを壊したのだ!

 絶対に許さない! 

 ボクは綺麗なお化粧をぐちゃぐちゃにしながら泣き続けていた。




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