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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
1章 マインズ編
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第7話  ドーティ、アリスの商売技術を恐れる。 

 

 武器屋の朝は早い。

 店を開ける前に昨日の依頼をアリスと二人で済ませてしまう。

 持ち込まれた装備品の手入れの続きだ。

 二人とも無言のままこなしていく。

 最初の頃はこの沈黙状態が気詰まりだったが、三日目にもなると流石に慣れてくる。

 むしろこの静かな二人だけの空気、というのが心地良くさえ感じてくるのだ。


「……コレ、そろそろ買い換えてもらわないといけないかもね」


「……ん? ……あぁ、トーマスの旦那の剣か?……折れるまで使わせてやれ」


「思い入れがあるの?」


「あぁ、嫁さんを助けたときの剣らしい。大事なモンらしいな」


「……そう」


 必要な会話だけして、再び沈黙が続く。

 そんな風に時間がゆっくり流れる開店前の柔らかなひととき。

 これこそが俺の求めていた()()だった。



 そんな今日の昼下がり、一組の冒険者パーティがやってきた。 

 男二人、女二人のバランスのいいパーティだ。

 ……畜生! このリア充め!

 まぁ、それでもウチで買い物してくれるならば()()()だ。

 丁寧に応対しないとな。

 しかし、そんな彼らを見たアリスは突如思いもよらない行動に出た。

 売り場にあった剣を一本カウンターの下に隠し、素早く値札を引きちぎったのだ。

 ……隠した剣とは、彼女自身が持ち込んだあの剣。



 もしかしたら彼らに見られるとマズいのか?

 彼らに何か害することをして得た剣なのか?

 彼らとの間にどんな因縁があるのか?

 そもそも顔を合わせても大丈夫なのか?

 そんな嫌な予感が一気に過り、胸がざわついた。

  

「いらっしゃいませ! 今日は何かお探しでしょうか? ゆっくり見て行って下さいね」


 ところが、そんな俺の心配を余所にアリスとびきりの笑顔で接客を始めたのだ。

 ……それはそれで胸がざわつく。

 いつも俺に話しかけるときはこんな顔しないのに。

 やっぱり男は顔か? 顔なのか?

 悔しいが、彼女いない歴=年齢の俺じゃ勝てないかもしれない。

 一行は楽しそうに話しながらウチの商品を物色していた。

 とはいっても話すのは男女一組だけだ。

 もう一組は静かなものだ。

 どうやら色男の武器を探しているらしい。

 話の内容から察するに彼らはこの町で、それもついさっき結成されたパーティのようだった。

 

 

 俺に敗北感を味あわせた色男がクロード。

 聖騎士でリーダーらしい。

 なにやら天性の華やかさを感じるイヤな男だ。



 店に入ってからまだ一言も発していない無骨な感じの男がトパーズ。

 武道家だ。

 いかにも職人肌な、ある意味俺に近いタイプの男だな。

 お互い高みを目指して頑張ろうぜ。

 

 

 さっきからクロードに纏わりついてちょっとやかましい女がルビー。

 魔法使いだ。

 なんか高飛車な感じが鼻につく俺の苦手なタイプだな。

 典型的な女魔法使いって感じだ。

 

 

 最後、物静かにしているのがサファイア。

 狩人だ。

 この女は素材がいい。いかにも田舎者って感じで、それをルビーに揶揄されて拗ねているのがいい。

 比較対象が高飛車女だけに、その清純さが男心をくすぐるのだ。

 背負っている弓もいい。使い込まれているのがよくわかる。

 武器を大切にできる冒険者は基本的にいいヤツだ。

 

 

 クロードは並んでいる剣を片っ端から構えたり振ったりしながら色々と試しているが、中々決められずにいた。

 

「……ねぇ、さっきのお客さんから買い取ったこの剣、そろそろ店に出しましょうか?」


 そんな決めかねている彼を姿を見て、笑顔を見せたままのアリスがこちらに声を掛けてきた。

 そしてさり気なくクロードの目の前に例の剣を出すのだ。

 ……えっ? 訳が分からん。

 あたふたする俺をアリスが『お前はじっとしていろ』と言わんばかりに睨みつける。

 ――今まで感じたことのない類の恐怖を感じた。

 俺は黙って何度も頷く。

 そしてクロードはというと、突然目の前に現れた剣に目を奪われていた。


「……あっ、お兄さん、お目が高いですねぇ。これ、今日の朝入荷したばっかりの剣なんですよ。ねぇ、モノ凄くカッコイイでしょ。……私ね、ホントは剣のこと、あんまりよく分かんないだけどね。でもさぁ、この刃とかすごく綺麗じゃない? ほら!」


 アリスは彼に見せつけるように、ゆっくりと鞘から剣を抜いた。

 中々じらしが上手いな。

 彼女は今まで一度も聞いたことがないような媚びた声で接客していた。

 まるで恋する乙女のような表情でアリスはクロードと見つめあっていた。

 剣とアリスとを交互に見つめるクロードの後ろで、みるみる女魔法使いルビーの目が吊り上がっていく。

 ……女怖えぇ。マジ怖えぇ。

 しかしまたアリスもアリスだ、

 剣のことはよくわからない、なんて聞いてあきれる。

 どういうつもりなのか?

 ……もしかして商売モードなのか? 

 この色男に売りつける気なのか?



 

「仕入れ値も高かったんだよ!」


 アリスがついに仕掛けた。

 ……おい! 嘘をつくな! 

 タダだったろ。お前がタダで譲ってくれたんだろ?

 

「――いい剣っていうのは一目見ただけでスグに分かるモノだよねぇ?」


 それは見たら分かるが……。

 冒険者の武器としてはイマイチだぞ?

 当然、そんな俺の心の声も聞こえないクロードの目はその剣に吸い寄せられていて、もうそこから離すことができない。

 そんな彼を満足そうに見つめるアリス。

 そこに浮ついた乙女心なんてものは欠片も感じられなかった。

 ……アレは狩りをするハンターの目だ。

 完全にクロードを獲物として見ていた。 


「……まだ値段つけていないけれど、800Gぐらいかなって奥で話してたんだ」


 思わず噴き出しそうになった。

 ちょっと待て! どれだけ吹っ掛けるつもりだ、この娘!

 さっきお前が床にちぎり捨てた値札を見ろ! 

 300Gって書いてるだろうが。

 クロードはその値を聞くとあからさまにがっかりしている。

 ……そりゃ無理だよな。普通買えないよな。

 どう考えても吹っ掛けすぎだ。

 ゴメンな、ウチの看板娘が変なこと言って。

 しかしアリスはそんな俺の気も知らず、ここが攻め時と一気に勝負を賭けた。

 

「ねぇねぇ、クロードさんって()()()なのよね。今朝、町長さんが話してるの聞いちゃった。すごいね! カッコいいね!」


 身を乗り出し、クロードに顔をぐっと近付けた。……羨ましい。

 クロード君と言えば、完全に照れていた。もうデレデレだ。

 そして後ろで待機してる女二人から完全に表情が消えた。

 ……なんかウチの看板娘が色目使ってゴメンね。

 ただ、武道家だけは我関せずを貫いていた。……本当に男前だ。

 俺もアンタみたいな動じない男になりたい。

 

「ねぇねぇ大将! 500Gじゃだめかなぁ? ギリギリ利益でるでしょ。……ねぇダメぇ?」


 いかにも甘えた感じでこちらを見るアリスに、先程以上の殺気を感じた。

 ってか、大将って俺のことか? 初めてそんな呼ばれ方したから分からなかった。

 ……でもここが正念場ってことだな。

 よし、きっちり芝居に付き合ってやる!

 俺は考えたフリをして溜め息を一つ。


「しょうがねえな。……まぁ勇者様とはいい商売したいしな。……もう、500でいいよ」


 よし! 自然だったはず。

 アリスの見せた、弾けるような笑顔で確かな手ごたえを感じた。

 

「ホント!? うれしい! ……どうかな? 500でいいって。この剣、絶対に勇者様に似合うんだけどなぁ」


 緊張の沈黙の後、クロードは「買ってもいいかな?」と後ろに同意求めた。


「500なら、いいんじゃない。……元々あなたが町長からもらったお金だし」


 結局魔法使いの一言で購入決定。

 あと他のメンバーの装備も細々と購入してくれた。

 気分が良かったので少しばかり値引きもしてやった。

 ちなみに武道家の買い物はなし。

 見たところ彼の装備品はギルド支給の稽古着のみだ。

 まぁウチでは格闘用の爪も売っていないしな。

 買い物を済ませ満足して帰って行く一行の中で、彼一人寂しげな背中が妙に印象に残った。

 

 

 閉店後、俺たち二人は祝杯をあげた。

 結局、勇者一行はウチで800G近く使ってくれた。

 それにしてもアリスのしてやったりの笑顔。

 俺はアイツに見せたような接客用の笑顔じゃなくて、やっぱりこっちの顔の方が好みだ。

 ……嫁に来てくれないかなぁ。本当にそう思う。


『なぁ、俺の嫁に来ないか。上手くやっていけるよ、俺たち』


 なんて言えたらなぁ。

 まぁ言えねぇから今でも独り身なんだが……。




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