第7話 トパーズ、ハシゴ酒に付き合う。
「アリスちゃんを殺す?」
神がどうだと変な独り言を始めたクロードのこと遠巻きで見ていたら、いきなり物騒なことを口走った。
周りで身体を休めていた兵士たちも、流石に『殺す』の一言は聞き捨てならなかったのか、一斉に彼を睨みつける。
クロードはそんな不穏な視線にも気付かずにどこか一点を見つめていた。
――ついに頭がイカれたか?
あれだけ教会に足繁く通っているのを見ていたので、変なことになってしまうのではと思っていたが……。
我に返ったクロードが周りを見渡し、ようやく自分の置かれた立場を自覚した。
彼はしばらく落ち着きなく視線を巡らせていたが、こちらに何も言わず足早に立ち去ってしまった。
この奇異の視線に晒されたままの状況で、置いて行かれる我々の身にもなれ!
サファイアが彼を追いかけたので、私とルビーもそれに続くように逃げ出した。
誰もいない建物の陰であれは何だったのかとクロードに問い詰めても、「だから、神の声が聞こえたんだ」などという訳の分からない言葉しか返ってこなかった。
彼自身も困惑している様子で、全く要領を得ない。
彼は不機嫌な顔でこちらに背を向けると、重たい足取りでフラフラと宿舎へと向かう。
我々はそれを黙って見送ることしかできなかった。
――余程疲れていたのだろう。ゆっくり頭も身体も休ませるといい。
ルビーもサファイアも夜を徹しての行軍からの戦闘という強行日程で参っていたのだろう。
それだけでも十分キツいのにクロードのアレがトドメの一撃となったのか、言葉少なに女性用の宿舎で休むとだけ言い残して去っていった。
私はまだ休みたいとも思わなかったので、中途半端な時間だが飲食店を探しながら散歩することにした。
「おーっす。飲みにいくぞ!」
歴史ある美しい街並みを見学しながらフラフラと歩いていると、いきなり後ろから首を絞められるように腕を回された。
振りほどきながら睨みつけると、そこにいたのは笑顔の夜警仲間たちだった。
「……え? 今の時間から?」
「当たり前ぇよ! このまま朝までぶっ続けだ!」
まだ朝ともいえる時間なのにこれからずっと?
躊躇している私に一切構わず、彼らはそのまま強引に私を引きずり、意気揚々と酒場へ乗り込んだ。
我々が入ったときには余裕のあった店内も、酔いが回ってくる頃には随分と混み合ってきた。
相席も当然のことで、後からバトラーさんの私兵団の皆とも一緒になった。
夜警任務などでよく見る顔だから気安いものだ。
お互い無事に任務が達成されたことを祝い、年齢も所属も関係なく乾杯を繰り返す。
その度にジョッキを空けていき、酔っ払いが量産される。
酔っ払いが増えてくると、どうしても話題になるのは女の話。
少々苦手なのだが、それでも付き合うのが礼儀というものだ。
「ビミョーに話しかけにくいよな、お前たちのパーティ」
相槌を打っているだけの私に、いきなり冒険者の一人が話を振ってきた。
思わず口ごもってしまうが別に私の返事など期待していなかったのか、彼はこちらに凭れ掛かりながら続ける。
「でも男女二人ずつって何かいいよな。……俺たちなんてなぁ、男ばっか六人だぜ!」
彼が大袈裟に嘆くと沸き起こる大笑い。
そんな風に見られていたのは意外だった。
「まぁ考えようによっちゃ、ネーちゃんのいる店にゃ行けねぇよなぁ。それはそれで考えモンだ」
連れの男が皮肉気に口元を歪める。
確かにそんな店に顔を出そうものなら、彼女たちから白い眼で見られること間違いなしだ。
「……それにしてもあのルビーっていう女魔法使いは健気だよな」
バトラーさんの私兵の男がこちらに身を乗り出して彼女の話を始めた。
他の男も続く。
「俺、あんなちょっと気の強そうな感じの女が好きなんだよ。……可愛いよなあの子! 思いっきり踏まれてぇよな! な?」
何故か秘めておくべき恥ずかしい性癖を力説する酔っ払い。
それを聞くのも酔っ払い。「それはオマエだけだ!」と爆笑が巻き起こる。
「この前もお前が夜警に出ている間、ずっと隅っこで待ってたんだぜ!」
「なんだよ! ちくしょう。甘酸っぺぇよ!」
するとそれを聞いていた隣のテーブルの男が身を乗り出してきた。
「まじかよ!? お前絶対独り身だと思っていたのに彼女持ちかよ!」
「今日は飲むぞ。ちくしょう!」
周りのテーブルから次々に罵声を浴びせられる。
もちろん酒の席の軽口だから気にはならない。
……そうだったのか。ルビーが私を……。
酒のせいだろうか、ほんの少しだけ頬が火照っているような感じがした。
あの晩パックが言っていたのは正しかったのか。
あのときは半信半疑だったが、彼の勘も大したものだ。
もちろん腕前は大したという次元を遥かに超えていたが。
――まさかこんな所で会うとは思いもしなかった。
だが彼ならこういった大事な局面に居合わせて当然という感じもする。
実に不思議な男だ。
そんな彼の戦いを間近で見ることが出来たのは収穫だった。
元々組み手やらで彼の実力は知っていたつもりだったが、実戦での彼はケタ違いだった。
剣の腕のみならず体術も私以上だった。
きっと現役時代は相当名のある武人だったに違いない。
……勝手に引退させては失礼だ。今でも現役だ。
そしてもう一人――ヴァイスもだ。
実は将軍でしたっていうオチだった。
周りの尊敬を集めていることは知っていたが。
そんな将軍でもある彼を簡単に引き下がらせたパックとは一体何者なのか。
彼自身は何かを知っているような口ぶりだったが。
そんなことを考えていると、奥で飲んでいたらしいヴァイス当人がこちらのテーブルに向かってきた。
周りの数人がその姿を見るなり、ジョッキを置いて直立し敬礼する。
立ち上がらなかったのは私のような冒険者か、レジスタンスでの別部署の人間ぐらいだ。
その光景を見ながら、今更隠す必要もなくなったのだと感じた。
……どうやら次の局面とやらに入ったようだ。
「いいかい?」
「……ヴァイスさん」
「やめろやめろ、今まで通りにしてくれ。……面倒臭い。ただでさえさっきから敬礼ばかりされていい加減うんざりしているんだ。落ち着いて酒も飲めやしない」
ヴァイスはたった今敬礼していた者たちを半笑いで睨みつける。
彼の部下たちは恐縮していたがそこは酔っ払い、我々冒険者がいつも通り夜警仲間のヴァイスとして接するのを見て、すぐに普段の言葉遣いに戻っていた。
「それにしても大活躍だったな。多少予定は狂ったが結果的には大成功だ。まぁ手柄は全部あっちに持って行かれちまったんだがな」
彼は笑顔で酒を呷りながらも、鋭い視線で離れたテーブルで騒いでいる一団を睨みつけた。
きっとこの酒場も含めて多数の店が彼らによって占拠されていることだろう。
数千人規模の帝国軍本隊を僅かな時間で撤退させたあの軍隊の者たちだ。
確かにあの手際は恐ろしいものがあった。
奇襲とはこうするのだというのを見せつけられた。
何より戦争慣れしていると感じた。
実際彼らはこの一年間で相当数の戦場を経験していると聞いている。
――敵味方に別れて。
「アイツらの所属は知っているな?」
「……はい」
「まぁ同郷の者も混じっているしな……」
輪の中には山岳国の僧兵も混じっていた。
その彼らが聖王国貴族のローブを着た人間と楽しそうに酒を飲んでいるのだ。
帝国人には決して理解できないだろうが、異様な光景だった。
山岳国に伝わる戦勝の唄を彼らが肩を組みながら声を揃えて唄い、ジョッキで派手に乾杯しているのだ。
あの不倶戴天の両者が、だ。
そしてもう一つ驚いたことがあった。
凱旋で入都してくる彼ら僧兵の手に私がアリスから貰ったような鋼の手甲があったのだ。
それを目にした瞬間頭の中で全てが繋がり、一気に霧が晴れたような眩暈に襲われたのだ。
――要するにそういうことなのだと。
ヴァイスがもう一軒どうだと私一人だけを連れ出した。
酒場を出るとすでに薄暗くなっている。
どうやら相当な時間飲んでいたようだ。
二人して騒がしい下町を抜けて閑静な高級住宅街に入る。
「本当にこの先に酒場なんてあるのか?」
「まぁまぁ、もうすぐだ」
酔い醒ましには丁度いいだろうよ、なんて呑気な顔ではぐらかす。
彼は悪い人間ではないから闇討ちとかそういったことを心配していないが、それでも冒険者、何かしらの警戒はしてしまうというものだ。
しばらく歩き、着いた先は立派な貴族屋敷だった。
……ロゼッティアの領主ホルスさんの屋敷よりも大きい。
「……ここなのか?」「あぁ」
「もしかしてヴァイスの?」
「そんな訳ないだろう? 将軍の薄給をなめるな」
そんな会話をしながらも彼は躊躇いなく門をくぐったので、仕方なく私もそれに付いていった。
丁寧な執事に案内されるまま奥まった一室に通されると、そこで待っていたのはバトラーさんだった。
どうやらここはバトラーさんの、いやゴールド卿の屋敷らしい。
彼は例によって恭しく一礼して私たちを出迎えてくれた。
わざわざ私たちの為に椅子を引き、さらにグラスにワインを注いでくれる。
「……改めまして自己紹介を。モーリス=ゴールドと申します。といってもすでにご存じでしたね。その節は部下たちが大変失礼なマネをしたそうで、彼らに代わって謝罪しますよ。申し訳ございませんでした」
そういって過剰なまでに深々と頭を下げる。
「私もちゃんと名乗っておこうか。……シルヴィ=ヴァイスだ。帝国軍で将軍をしている……といっても今頃は解任されているだろうがな」
そう言ってグラスを呷った。
確かに帝国軍に所属していながら仲間を斬った訳だから当然のことだろう。
むしろ賞金首と言ってもいい。
それは私も同じことか……。今日から我々パーティも反逆者の仲間入りだ。
「今回は皆様のおかげです。本当に苦労を掛けましたね。……ヴァイス殿にも感謝を」
「いやいや、私は自らの役目を果たしただけですよ。……別に貴方の為にやった訳では」
ヴァイスがそっけない返事をしながらグラスを傾ける。
どうやら、彼はバトラーさんの下にいる訳ではないらしい。
が、酔いの回った頭ではあまり深く考えられないので、疑問はそのままにしておいた。
「レオナール殿下も大層お喜びのご様子でしたよ」
「……長兄殿下の御名前だ」
ヴァイスが笑顔で私に補足してくれる。
どうやら表情に出ていたらしい。
「……レジスタンスの目的はご存じですね?」
バトラーさんがこちらに問いかける。
それは当然知っている。
現皇帝と宰相の排除、そして長兄殿下の即位。開かれた議会、その他諸々。
私が頷くと、彼は満足そうに笑う。
「このまま何事もなく順調に宰相と現皇帝の首を刎ねることができれば、我らの殿下が次の皇帝陛下です」
我らの殿下。露骨な立場表明だった。
つまりバトラーさんは自身を長兄殿下の側近だと言いたい訳だ。
そしてそれを前提にこれからの話を聞けと。
気が重いが黙って聞くことにする。
……それにしても首を刎ねるとは随分と物騒なことだ。
私がレジスタンスの空気感で受けた印象では、せいぜい僻地での幽閉程度のものだと思っていたが。
これは立ち位置の違いからくるものだろう。
この齟齬は覚えておかなければならない。
「ただ、私たちもそうそう思い通りにいくとは思っておりません。教会やら何やらが妨害するのは目に見えていますからね。……挙句、女王国などと名乗る未開人共が大きい顔をしている始末。この美しい都にも我が物顔で入ってきたとか……」
そう言うや穏やかだった表情を一転させ、苦々しげに口元を歪ませる。
私もその未開人の一人なのだが。
しかもその女王国軍が現れなければ、彼自慢の都は帝国軍によって制圧されていただろうに。
そんな不満を気取らせないよう、私は無表情を貫いた。
「それだけでも厄介なのに、ロレントが生きていたというではないですか……」
バトラーさんがヴァイスをチラリと見た。
無言で促された彼は自分でワインを勢いよく注ぎながら頷く。
「……十年経って随分と風貌は変わりましたが、アレは間違いないですね」
「そうですか。……それにしてもテオドール=ターナーは父親に似て曲者なことですな。あのロレントを十年も隠し通すとは。確か彼とヤツは子供の頃から親しかったと聞いております。……あの二人の関係を考えると、おそらくレジスタンスのリーダーはロレントの方だと考えるのが自然ですな」
いきなり訳の分からない話を始める二人。
私は邪魔せずに行儀よく黙ってそれを聞いていた。
「だとしたらロレントの目的は?」
「やはり復讐でしょうな。常識で考えるならば、ですが。……宰相や皇帝のみならず、我々そして教会に対して何らかの――」
「だが、それならわざわざ我らと手を結ばなくても」
バトラーさんの言葉を遮るヴァイス。
正直全く話が見えない。酔っていることを別にしてもだ。
そんなことも関係なく彼らは私の存在を無視して話を続けた。
「確かにそこですよね。彼の意図が全く見えない。この十年ここまで完全に自分を隠せていたのに、知られるのを承知で復讐相手の都を守るために姿を現すなど」
バトラーさんが表情を曇らせる。
そこで二人が黙り込んだ。
「……トパーズ殿は彼と親しいとか。是非その辺りの話を伺いたいと、そう思いましてな」
いきなりこっちに話を振られても、私としては誰の話をしているのかも判らなかった。
「今日一緒に戦っていた彼のことだよ」
ヴァイスが笑った。
「……パックのこと、か?」
別に親しくしている訳ではないが、まぁ夜警任務の暇つぶしで話したり、組み手に付き合った程度だ。
隠すことでもないのでそのことを伝える。
それにしてもパックがそこまでの重要人物だったとは……。
私の話を聞いて考え込むバトラーさん。
「……貴方は彼のことをどこまで知っているのですか?」
そして私はロレントと彼らの因縁を聞かされた。
教会も貴族も幾度となく皇帝と宰相の暗殺を試みたが、ことごとく失敗したと。
立ち塞がったのは当時皇帝直属親衛隊長だったロレント。
鬼神のような強さだったという。
実はヴァイスも一度皇帝暗殺を命令されたが、返り討ちに遭って命からがら逃げた口だと笑った。
……だから皆で結託して陥れた。――反逆者として。
入念に準備し何とか宰相を出し抜くことに成功したものの、その後任の親衛隊長はさらに強かったというオチだったと。
調べれば脱獄したロレントの首を取ったのが、その後任の親衛隊長だったという。
結局どうすることも出来ずに手をこまねいていた頃、レジスタンスから声が掛かったと。
……そして殺されたはずのロレントはまだ生きていて、陥れた自分たちをどんな意図でもって勧誘してきたのか思案していると――。
そんな話を聞いてしまうと、やはり私としてはパックに同情してしまう。
「……ロレントに付くのですかな?」
私の表情を見てとったのかバトラーさんが笑顔を見せる。
付くも何もまだそこまで先のことは考えていないのだが。
「では、やはり女王国か? ……あの晩も何やら親密にしていたらしいな」
無言を続ける私に今度はヴァイスが口を挟む。
おそらく公園で勧誘されたあの晩のことを言っているのだ。
あれだけ目立つ行動をしていたら、当然こういった人たちの耳には入っていたことだろう。
――そんなことより。
やはりそうなのだ。アリスは……。
私が目を見開いたのを何か勘違いしたのかバトラーさんは鬼の首を取ったかのように告げる。
「あの小娘、普段はアリスと名乗っていますが本名はアリシアです。アリシア=ミア=レイクランド。水の女王国を名乗る蛮族の女王ですよ。……やはりご存じありませんでしたか?」
声を上げて笑うバトラーさん。
何やら思うところのある女王の鼻を明かすことができて、溜飲を下げたつもりなのかもしれない。
私としてもそのことに気付けたのは今朝の話だから、あまり得意な顔はできないが。
ただ彼の口から真実を知ることにならなくて本当によかったと思える私がいた。
アリスの真実を聞いても反応が薄いことに、少しばかり落胆したのかバトラーさんは話題を変えた。
「ところで、クロード君が『神の声が聞こえた』などと口走ったそうですが。それは本当でしょうか? その際アリスを殺すと言ったとも伺っておりますが……」
なぜそれを?
流石にそれには過敏に反応してしまった。
白状したも同然だ。
それに気を良くしたのかバトラーさんが例の余裕の笑みを取り戻す。
「すみませんね……。何ぶん古都は私の庭のようなものでして」
そんな答えにならない答えが返ってくる。
どうやらこれが本題だったようだ。
バトラーさんが私の方に身を乗り出してきた。
「もしクロード君がアリシア女王の排除を願うならば、私たちと上手くやっていけるかもしれない、とまぁそのようなことを考えている訳ですよ」
やはりアリスのことをよく思っていないようだ。
私の表情を見てとったのか片目を瞑る。
「まぁこのことはまだご内密にお願いしますね」
そう言って美味しそうにワインを飲み干すのだった。
「クロード君ともいずれ、じっくり二人っきりで話し合いたいと思いますので、そのことを彼に伝えておいて頂けますかな?」
バトラーさんは意味ありげに口元を歪ませて、小さく咳払いをするかのようにクツクツと笑うのだった。
ヴァイスはまだバトラーさんと話すことがあるらしい。
丁寧な執事さんに見送られ、私は一人で屋敷を後にした。
少しばかり寒々しい気分で通りに出たら、ばったりクロードと出くわした。
こんなところで会いたくない人間に会ってしまった。
何か言ってこられても面倒なので、先にこちらから聞く。
「どうしたんだ、こんな時間に……」
自分のことを棚に上げているのは分かっている。
ただ先手を打っておきたかっただけの話だ。
「……大神殿で祈ってきた帰りだけど」
彼が不貞腐れたように返事する。
また教会か。……ここまで執着すると逆に怖い。
神の声とやらも本気で言っているのかもしれないな。
寒い季節ではないのだが、少し鳥肌が立った。
「ここは?」
今度はクロードが聞いてくる。圧倒されているような感じで屋敷を見上げる。
私も同じように視線を上げた。改めて見ても大きい。
「……バトラーさんの屋敷だよ」
それを聞いた途端にクロードが険しい顔を見せた。
「……アリスと密会の次はバトラーさんとね。一体何を企んでいるんだか」
やはりイヤミを言われる。
……ってそんなことより。
「……アリス?」
「知らないとでも思っているのか。夜警任務中に抜け出して二人っきりで逢っていたんだろう? パーティのみんな知っているぞ」
そうだったのか。……ルビーも知っているのだろうか。
だとしたら誤解だと伝えたほうがいいのかもしれない。
「もしかして僕たちを裏切るつもりなのか?」
「そういうのじゃないから。さっきもバトラーさんからお前に『今度ゆっくり二人っきりで話したい』と伝えてくれと頼まれたぐらいだし……」
別に後ろ暗くもないのだが、何故かしどろもどろで答えてしまう。
バトラーさんからの伝言を聞いて幾分機嫌が良くなったのか、クロードは「それならいいんだ」と言い再び歩き始めた。
このまま別々に宿舎へ戻るのも変な感じがしたので、私も少しだけ後ろを付いて歩いた。
その微妙な距離がパーティでの溝のように感じられた。




