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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
6章 アリスへの疑惑編
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第9話  ジニアス、怒る。


 ……女王国軍の兵器が洒落にならない。

 私は報告を受けながら人知れず頭を抱えていた。

 彼らは一気に首都を制圧すると、王城の麓に陣を構えた。

 そこを拠点に彼らは兵器を組み立て、こちらへと攻撃を仕掛けてきたのだが……。

 巨大な投石機のような何かで油壷をこちらへ飛ばして、バリスタのようなもので火矢を打ち込んでくる。

 何か、ようなもの、だ。

 間諜に探らせると、今まで見たこともない兵器だという。

 技術者たちがあれこれ相談しながらの攻撃らしい。

 一応屈強な兵士たちが兵器を守って近づけないようになっているとはいえ、当の技術者たちには緊張感の欠片もなかったとの報告を受けた。

 

「次はコレを使ってみましょう」


「まだまだ強度が足りないですね。これは一旦工房へ持って帰ります」


「少し角度を微調整してみますので、手伝ってください」


 そのような感じで数発打つ毎にメモを取っていたという。

 要するに我が王城を的にした兵器の実験という訳だ。

 何故我々が火を消し終わるまで攻撃を待っていたのか、という疑問も見事に氷解した。

『うっかり的を消炭にする訳にはいかないから』というのがその答えらしい。

 ……女王国はどれだけ我々を虚仮にすればいいのか。

 馬鹿にするのも大概にしろと言いたい。


 

 幸か不幸か、まだ王城に対して目立った損害はない。

 兵士の人的被害も少ない。

 首都に住まう民衆の被害も無いに等しいと聞いている。 

 だからといって喜べようはずもない。

 確かにこの王城は籠城戦術に最も適した場所である。

 建国以来ここが落とされたことは一度だってないし、それ以前も数える程しかなかったはず。

 ここで待機している将兵の士気が高く保たれているのも、その考えが彼らを支えているからだ。

 ……だが、所詮それは過去の話だ。

 少なくとも麓に配置されているような、途轍もない兵器が存在しない時代の話だ。

 まだ皆はそこまで意識していないが、実験が終了し本格的に攻撃が始まると彼らも気付くだろう。

 その時どうするのか、今の内に考えておかないといけない。



 そんな表面的な膠着状態の中、我が軍の兵士らしき人間が山を登って来ているとの報告があった。

 詳しく聞いたところ、ジェスという名の兵士らしい。

 例の女王斬首作戦の実行班だという。


「……生き残っていたのか」


 それも自力で山の中腹にあるこの王城を目指せる程度の健康体だ。


「戻ってきたら、城に入れる前に身ぐるみを剥がせ。……あちらで何かを仕込まれているはずだ」


 無様にも戻ってきやがったか。

 まぁ、女王国側がアイツに何を吹き込んだかによってこれからが決まるだろう。

 どうせこちらから打って出ることはできないのだ。




「お目通り頂きありがとうございます。トーラス将軍の下で部隊長をしておりましたジェス=ウォルシュです」


 彼が堂々とした態度で一礼する。

 ここは私の執務室だ。

 部屋にいるのは私、陛下、僧兵将軍ガイ様そしてコイツの四人だけだ。

 本来ならば皆のいる前で話させるべきなのだろうが、コイツの持っていたモノが危険過ぎた。

 正直なところ、まだ皆の前で封を開ける心の準備が出来ていない。

 それよりまずはコイツの話を聞きたかった。

 我々を前にして、何を根拠に胸を張ることができるのか。

 作戦を失敗させたことは仕方ない。これは本人だけの責任ではない。

 だが捕虜になっても拷問すら受けず、恥ずかしげもなく相手の書状を持って現れ、それなのにも関わらずこの態度は何だ?


「女王を名乗っていた小娘にその書状を候に渡せと命令されました」


 今、私が手にしているソレを指差しながら、いきなり意味不明なことを言う。


「……名乗っていた小娘だと?」


「はい。替え玉の小娘です」


 悪びれる様子もなく、むしろこちらに対して何やら含むような言い方で返してくる。

 そして彼は語りだした。

 そもそも無茶な作戦だから失敗したと。 

 死ぬ思いをしながら国のために戦い続けた多くの兵士たちが、この作戦のせいで全員犠牲になってしまったと。

 おまけに間諜が女王と判断した人間は替え玉だったと。

 小娘は最初のうちは女王と名乗っていたが、座り方、酒の飲み方などの素行の悪さですぐに替え玉だと判断できたと。

 それを指摘すると、はっきり替え玉であると認めたと。

 小娘が「縛っている意味はない」と言い放ち、縄を解いてイスに座らされ、酒を勧められたと。

 その書状を私に届けて、必ず戻って来いと命令されたと。



『呆れて物も言えない』という言葉の存在は知っていた。

 そんなこともあるかもしれないが、実際そんな状況に陥る人間はきっと自分の想像力不足を他人のせいにする無能なのだろう。

 そのようなことを子供(ガキ)の頃にうっすらと考えていたのを、今更ながらに思い出した。

 ……コレも私の想像力不足なのだろうか?


「お前、女王本人を見たことは?」「……ありませんが?」


 それが何か? と言いたげにジェスが平然と答えた。


「そうか……私はある。そして監視を続けていた間諜たちも全員ある。……その意味がわかるか?」


 彼の憎たらしい余裕の表情が固まった。


「女王国軍の北侵開始以降、彼らは一時たりとも女王を見失ったことはない。たったの一時たりともだ。……その意味がわかるか?」


 馬鹿でも聞き取れるようにゆっくりと問いかけると、兵士の顔から血の気が引いていく。


「彼らが、女王国の情報に精通した彼らが、女王の顔を見飽きるほど見てきた彼らが見間違えると本気で思っていたのか?」


 ジェスは青い顔をして下を向くだけだった。




「お前は女王の目の前にいながら、拘束も外されながら、悠々と酒を酌み交わしていたと?」


 一歩踏み出す。

 その気になれば指で目を突き刺すことぐらいはできただろう?


「お前のせいで一体何人の兵士が無駄死にしたのか、わかっているのか?」


 兵士が無言で一歩下がる。

 何かが()()()変わる局面だったのだぞ?


「今思い出したが、お前確かあのクソ将軍の部下として南征軍の部隊長をしていたモンだったなぁ?」


 更に詰め寄ると後ずさりする兵士。

 我が国の命運がこんな馬鹿のせいで尽きることになるとは。


「……そういや、必ず戻るように命令されたンだったなァ?」


 本当にそんな命令受けたのか?

 お前が勝手にそう言っただけじゃないのか?


「はい、ですので速やかに帰らないといけません」


 笑いが込み上げてきた。


「帰る……ねぇ?」


 完全に転びやがって。


「ちなみにあちらへ戻った後どうするつもりだ?」


「おそらくは捕虜になるのかと……」


「……違うなァ。戻ったらその場で斬られるんだよ!」


「そんなことは……」


 語るに落ちたな。

 我が国がここまで追い詰められたのは、全てお前のせいだ!

 一気に踏み込むと問答無用で斬り捨てた。 

 ……ただの八つ当たりだと分かっていたが、少しだけスッキリした。


「……見苦しいものをお見せして申し訳ございません」


 心配させないように無理やり笑顔を作って振り向くと、陛下の顔が真っ青になっていた。

 目の前で人が斬られる瞬間を目撃したのは初めてかもしれない。

 少しだけ申し訳なかった。


「……ガイ将軍、陛下を休ませてあげて下さい。……私は少し時間が欲しいので、一人になります」


 そして陛下の顔を覗き込み、いつも通りの笑顔を見せる。


「準備ができましたら、お呼びしますので部屋でお待ちください。……将軍も陛下に付いていて貰えますか?」


「……承知した」


 将軍は頷くと、陛下に付添い部屋を出て行った。



 私は兵士の死骸を運び出す部下を眺めながら今後のことを考えていた。

 この戦争を通じて、女王は我々で遊んでいる。

 今回の件もそれに尽きる。

 書状をこちらへ渡すだけなら他にいくらでも方法はあったのだ。

 だが敢えて兵士の誤解を利用して、わざわざ拘束を解き、酒を振舞い、話術を駆使して寝返らせた。

 ……私を挑発する為だけに。こんな回りくどいことを。

 腰を浮かしさえすれば簡単に首を絞められてしまう、そんな距離で、運試しのような軽い気持ちで、自らの命を懸けてみせた。

 こちら側にはこれだけ余裕があるのだと見せつけられたのだ。

 ……いや余裕なんて可愛いらしい言葉ではない。

 もっと趣味の悪い、口に出すのも憚れるおぞましい何かだ。



 我々は女王の命を狙うため常に監視してきた。

 あちらだってスキあらば私や王の命を取ろうとしてきたのだからお互い様だ。

 しかし女王は最初のエリーズ戦以降戦場に出ることは無かった。

 むしろそのことによって浮かび上がってきたのが『我が友』ケンタロス=キャンベルの存在感だった。

 忌まわしきブラウン、破戒僧軍団の長ファズ、そして『我が友』がエリーズに立ち塞がったのだ。

 最初は女王に対する点数稼ぎのようなモノだと思っていたが、すぐに考えを変えざるを得なかった。

 我が軍はエリーズ奪還のため幾度となく攻略戦を挑んだが、その度に彼が出陣して魔力が空になるまで魔法をぶっ放してきたのだ。

 そして身体を引きずるように街に戻ると、今度は負傷兵の確認と手当てに奔走。

 さらに事務仕事が苦手な兵士たちに代わって必要な物資などの請求手続きなど、何かに取り憑かれたかの如く精力的に動いていたそうだ。

 一度こちらの策が上手く嵌って攻略寸前まで行ったときも、矢の降り注ぐ最前線に一人でフラリと現れて、たった一発の極大火炎魔法を放ち、最奥の本陣に詰める将軍を含む百人近い兵士を一瞬で屠ったと聞いた時は寒気がした。

 彼はその場で失神して、糸の切れた人形のように倒れたらしい。

 兵士たちが慌てて飛び出してきて、『我が友』を街の中へと運び込んだとのことだった。

 私は完全に彼の潜在能力を見誤っていたのだ。

 戦場に立つ彼がこれほど恐ろしい存在だと思ってもみなかった。

 決して手放すべきではなかった。女王が何と言おうと連れて帰るべきだった。

 外交官としてはそれ程ではなかったから、というのは言い訳でしかない。 

 そもそもこの数百年の間、我らと五分だった聖王国の潜在能力を過小評価したことこそが失策の始まりだったと言える。

 そんな聖王国を数日で滅ぼした女王国の異常性の解明こそが、私の取り組むべき最大の課題だったのだ。



 初手を間違えてしまった我が軍は当然の如く連戦連敗だった。

 全く勝ち目のない状況に嫌気が差したのか、日毎に脱走兵が増えていく。 

 仕方なく臨時の徴兵を行うのだが、それが上手くいかない。

 給金や食べ物で釣っても全く反応がないのだ。

 国民の間にあるのは女王国や帝国に対する恐怖心と祖国に対する不信だ。

 敵の工作の効果があったとはいえ、いつの間にここまで嫌われていたのだと思うぐらい国民の視線が冷たいのだ。

 兵糧や医薬品の徴発すらままならない。

 そしてその状況を待っていたかのように、女王国が北侵を開始したのだ。

 こちらが侵攻を許し後退し続ける中、逆にあちらは我が国で軍備を増強しているという。

 我先にと山岳国民が運搬設営などの後方兵士の募集に群がっているらしい。 

 制圧された街の人間も勝ち馬に乗るため、駐留する女王国軍の為に余剰物資を提供しているとか。

 そこに満を持して女王も参陣し、さらに勢いを増していく女王国軍。

 やっと戦場に顔を見せた彼女を狩ろうと例の策を練ったが、結局それも上手くいかなかった。


 

 そのような厳しい状況で、わざわざ私宛で届けられた書状。

 内容は考えるまでもない。

 我々に残された選択肢は決して多くない。

 私が考えなければならないことは『どれだけ綺麗に負けられるか』ということ。

 我が国はその段階まで追い詰められているのだ。

 何が守れて何が守れないのか。

 私は一人部屋に残り、その選択に集中した。

 


「忙しい中、お集まり頂きありがとうございます」


 私はこの国の主だった貴族を前に頭を下げた。

 ここは大広間。以前『我が友』で遊んだ場所だ。

 あの時はまさか一年経たずに、このような事態に陥ることになるとは思ってもいなかった。


「あちらの女王から私宛に書状が届きました。……ですがこれを開ける前にお話しなければいけないことがいくつかあります」


 まずは戦況の確認だ。

 この戦争を指揮する立場の私がこれを話すのは、自らの無能を晒すようで情けない限りだ。

 だからといって他人の口から言わせる訳にもいかない。

 そんな責任回避は私の中に流れるハルバートの血が許さない。

 何より王女を娶った山岳国男子としての誇りがある。

 恥を忍んでこれまで経過を報告した。




「……さて皆様はこの最悪の状況を鑑みて、今でも我々が勝てるとお思われますか?」


 開き直るかのような私のセリフに非難めいた言葉が巻き起こった。

 怒号の中で陛下が私の顔を心配そうに見ていた。

 だが、これは全て私が受けなければいけない誹りだ。

 ……この上で私は更に問わねばならない。

 

「この中で我らが勝利する為の道筋を示すことの出来る方はおられますか?」


 彼らも負けるなどと口が裂けても言うまい。 

 だが私はどうすれば勝てるのかを聞いているのだ。

 根性で何とかできるならば、ここまで我々が追い詰められることはなかった。 

 毅勇と蛮勇の区別が付かない残念な方々は、既に最前線を経由してキール様の庭に送り込んでいる。

 少なくともここに残っている方々は、一定の水準以上の頭脳を持っているはずだ。

 私が無言で彼らを見渡すと徐々罵声が小さくなっていく。

 その中で若い将軍が真っ直ぐ手を挙げた。

 静まり返ったこの状況で、中々度胸のある青年だ。

 彼に指差し発言を認める。


「……女王国は女王の圧倒的な存在感で束ねられた国だと聞いています。でしたら、多少の犠牲に目を瞑ってでも彼女の首を落としさえすれば、何かが変わるかもしれません」


 理にかなっている。実に真っ当な意見だ。

 ……勝てるとは言わない。

 だが、何かしらの綻びが生まれる可能性はある。

 そこに付け込めば我々にだって……。


「あぁ、その通りだ。私もそう思った」


 その一言で彼は察してくれたようだ。

 だからと言ってこの件に触れない訳にもいかない。

 仕方なく説明した。



 女王の首を落とすために作戦を立てたこと。

 どこから漏れるか判らなかったので、陛下にさえ伝えなかったこと。

 その作戦が失敗に終わったこと。

 捕えられた実行役の兵士が寝返り、女王からの書状を持って先程王城に戻ってきたこと。

 それらをできるだけ詳しく伝えた。


「……それは本当に女王だったのか? いや貴殿を疑うわけではないが……」


 そんな声が上がる。

 ……なるほど、あの女王のことをよく知らない人間はそのような発想になるわけか。

 別にジェスとやらが特別マヌケだった訳でもないらしい。

 少し悪いことをしたか……。


「この中で女王に会ったことがある人間は私だけですので上手く伝えられるかどうか判りませんが、間違いなく女王だと断言できます」


 私の部下が見間違うはずがない。

 そして何より私を挑発することが目的なのだから、女王がそれをしないと意味がないのだ。

 この程度のことで失敗して命を落とすなら、初めから戦争なんてしない。

 彼女はそういう人間だ。


「あのとき彼女は私にこう言いました。『山岳国ごときに手間取るような無能ならば、初めから女王になどなっていない』と。……我が国は女王の糧だそうです」


 大広間が一瞬にして静まり返った。

 ……そう。糧だ。

 我が国の兵士も民も物資も全て女王の糧になるのだ。

 将来自分の手に入るべきそれらを、むざむざ浪費するような策は彼女にとって下策なのだ。

 聖王国を訪れたときに気付くべきだった。

 綺麗な街並み、貴族という戦力。

 全てをそっくりそのまま譲り受けるために女王は策を練っていた。

 今回もそうだ。

 改めて彼女の異常性を思い知る。

 ……この戦争は次の戦争の為の通過点でしかないのだ。

 当然『その先』も見据えているはず。


「彼女は女王になるべくしてなった人間です。そしてまだその上を目指しています。帝国すらも手に入れようと考えていても不思議ではありません。……アレは我々の常識が通用する人間ではない!」


 自分で言葉を発して、ようやく心に引っかかっていた何かに気付いた。

 そうだ。女王は自分自身を帝国に譲り渡すようなタマではない。

 決して帝国の属国に甘んじるような人間ではない。

 皆も私の感じていることの一部でも理解してくれたのか、一様に黙り込んでいた。

 



「こちらとしては、やるべきことはやりました。あとは正面から当たるぐらいしか残っていません。それでもやりますか? 兵士たちに突撃命令を出して無駄に命を散らせますか? ……それとも負けを認めますか? 戦わずに民衆から蔑まれながらも生き永らえますか?」


 どちらに進んでも茨の道だ。


「おそらくこの書状はそのことに関する交渉の案内状です」


 私は控えていた政務官に『女王の御璽の入った書状』を渡した。

 意味するところは最後通告。

 破棄次第、全面戦争が始まる。

 きっとそれは蹂躙戦と呼んでも差し支えないはずだ。


「……読んでくれたまえ」


 彼は頷くと封を切った。



 書状は想像通り、戦後処理を円滑に行うための交渉を設けるとのことだ。

 戦後とあるが、停戦ではない。終戦だ。

 我々の負けだ。

 あちらから指名してきたのは二人。

 私と……。


「祖国への最期の奉公ですな」


 いい笑顔を見せたのは老将軍ガイ様。 

 あぁ、さすがだ。

 彼は破戒僧に対する見せしめの役割だろう。

 この二人が首を差し出しさえすれば、交渉次第では穏便にカタをつけることができるかもしれない。

 私たちは顔を見合せて頷いた。



 少しだけ落ち着いてきた広間で突然低い声が響いた。


「俺も行こう」


 陛下がそういって立ち上がったのだ。

 堂々とした風格。自信に充ち溢れた声。

 私が教え込んだ振る舞いだ。

 こんなときにそれを見せるなと、心の内で頭を抱える私を横目で見ながらも、彼はさらに言い募る。


「俺がここに残っても仕方あるまい」


 苦悩の欠片もない清々しい笑顔を見せる。

 この局面でのその言葉の意味を知らない訳がない。

 断固反対だ。絶対に反対だ。誰が何と言おうと反対だ。

 ガイ様も反対した。

 皆も声を揃えて反対する。

 だけど王は何処吹く風だ。


「……この俺に命令するのか?」


 一層低く響く声に広間が静まり返った。

 陛下はそれを満足そうに見渡すのだった。

 ……ガキの頃からコレと決めたら聞かないからなぁ、コイツは。

 もう好きにさせてやるよ。

 それでも私にだって譲れないものがある。

 コイツの命、妻や子供たちの命。それだけは絶対に守ってみせる。

 気合いを入れる為、私は大きく息を吐いた。 


 

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