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2周目は鬼畜プレイで  作者: わかやまみかん
6章 アリスへの疑惑編
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第3話  ルビー、クロードに押し倒される。


 トパーズがいつになく張り切っている。

 今回は、とある補領にて賊相手の制圧戦だ。

 昔、帝国との戦争で使われていた砦を根城にしている厄介な相手なのだが……。

 彼の獅子奮迅の活躍があって順調そのものだ。

 何故こんなにヤル気に満ち溢れているのかは、一目で分かった。

 彼の両手に装着された見慣れない手甲型の武具。

 砦を強襲する直前、誰にも見られないようにひっそりと荷物袋から取り出されたモノだ。

 もちろんアタシはちゃんと取り出す前の、こちらをチラチラと覗き見していた頃からしっかり観察していたケドね。

 でも敢えて何も言わなかった。

 もちろん本当はすぐにでも聞きたかったよ。

 アタシだって装備品ぐらいチョイチョイ買い替えるし、今日クロードが使っている剣も新調したモノだ。

 だから別に隠すほどじゃない。

 トパーズだって防具なんかは普通に買い替えているし。

 練兵の給金が出ているから、彼自身自由に使える金もそれなりに多いはずだ。

 彼が武具を欲しがっていたこと、だけど何処にも売っていないこと、そういったことも当然みんな知っている。

 それなのにも関わらず、あの感じだ。

 ……後ろ暗さ満点、さらに突っ込みどころ満点だ。



 何だかんだあって、砦の制圧が完了した。

 半数以上の賊をトパーズが一人で仕留めたんじゃないかな。


「……ごめん。ずっと気になっていたんだけど中々聞けなくて。……それどうしたの?」


 一息つく間もなく、直球でそれに切り込んだのはサファイアだった。

 彼女が指差すのはもちろん。

 本当はアタシ自身が訊くべきところだったのかもしれないけど、何となく勇気が出なかった。

 トパーズは全員の視線が集まった武具を大事そうに外しながら、小さく照れ笑いする。


「……いや、レジスタンスの偉い感じの人から頂いた物だが……」


 そう言ってまた袋に仕舞おうとする。


「……ちょっと見せてよ」


 アタシがお願いすると少しだけ迷ったが、こちらに渡してくれた。

 やっぱり見た目通り鋼で出来ている。

 どこにもくすみが無くて、ピカピカの新品だ。

 ポルトグランデの大きい店でも売っていなかったぐらいだから、きっと帝都から取り寄せたんだと思う。

 だけど手に取ってみてビックリしたのは、内側に填め込まれた魔晶石の大きさと数だ。

 装備品に魔力を付加するには、魔晶石に比例する。

 大きいものほど大きい魔法を、数が多いほどそれだけの種類の魔法を付加できる。

 

「……何コレ? ちょっと凄すぎるんだけど」


 アタシが思わず呟くとみんながこちらに寄ってきた。


「そんなに凄いのか?」


 クロードが尋ねる。


「どうやら力と素早さと体力が上がるみたい。それもかなりの量だと思う」


「……そうなの?」


 今度はサファイアが聞いてくる。


「……うん。こんなの絶対にお店じゃ売っていないから。……もし売ってたとしても、たぶんマインズ辺りなら普通に家が買えるぐらいの値段じゃないかな」

 

 それを聞いてみんな絶句していた。

 でも一番びっくりしてたのはトパーズだった。

 彼は大きく口を開けて、少しマヌケな感じで固まっていた。

 ……おそらくそんなに高価なものだとは聞いていなかったのだろう。

 帰りの馬車のでも、ポルトグランデに戻ってきても、ケイトちゃんへの報告の間も、トパーズはずっと落ち着かない様子だった。

 話しかけても、ずっとうわの空だった。



「……少し早いが行ってくる」


 打ち上げがてらのちょっと豪華な夕食も彼はほぼ無言で食べ終わると、いそいそと夜警へと出かけてしまった。

 思わず顔を見合わせるアタシたち。

 少し早いどころの話ではない。まだ相当時間があるはずなのに。

 ……絶対に何かある。

 でもこんなとき、どうしたらいいのか分からない……。

 一声かけるべきだったのだろうか。

 今からでも追いかけた方がいいのだろうか。

 女子力のないアタシにはどうすることもできなかった。

 宿舎の部屋に戻ると、当然ながらその話しになった。

 トパーズが明らかに変だと。

 一体何があったのか?

 そもそもあの武具は誰から貰ったのか?

 答えの出ない話を続けていると、今まで沈黙を守り続けていたクロードが口を開いた。

 

「……あの装備、実はアリスちゃんから貰ったんだ。僕はアレを受け取る現場をずっと見ていたから間違いない」


 次の瞬間、アタシは一気に谷底へと突き落とされた。

 ……あの時だ。絶対にあの時何かあったんだ。

 だって親しげにしていたもん。

 何か手も握っていたように見えたし。

 やっぱり見間違いじゃなかったんだ!

 トパーズ嘘ついていたんだ!

 ……何でそんなことを?


「僕には物凄く仲が良さそうに見えた。ホントに見たことないような笑顔をしてたよ、アイツ」


 何なのそれ?

 追い打ちをかけられてさらにへこむアタシ。  

 ……トパーズもアタシを選んでくれないのかな?

 一人で落ち込んでいる中、二人は何やら秘密の相談をしているようだった。

 現実逃避していたせいで、何の話をしていたのか全く聞こえてこなかったけれど。


「今から見てきてくれないかな? 狩人スキルなら気付かれずに近寄れるだろう?」


「まぁ、できるだろうけど……」


 そんなやり取りがあったことだけは何となく覚えている。



 アタシが気がついた時には薄暗い部屋でクロードと二人っきりになっていた。

 二人で妙な沈黙が続く。

 よくよく考えると、今までは彼と二人っきりになりたくて仕方なかったのに。

 今となっては変な感じだ。

 そんなことを考えているとクロードが真剣な顔をしてアタシが座っているベッドに近づいてきた。

 身構えてしまうアタシ。


「……どうしたの?」 

 

 少しだけ擦れた声が出た。

 彼は躊躇いなくアタシの横に腰かけると、こちらの顔を覗き込んだ。


「最近僕を避けているように思うんだけど……」


「……そう……かな?」


 今はそんな話をしたくない。

 早く離れてくれないかな。

 そういう思いを込めて睨みつける。

 だけどそんな気も知らずに彼は続ける。


「トパーズとよく視線を合わせているし。息もぴったりだし」

 

 やっぱりクロードにもそう見えているのだろうか。

 サファイアも気付いているみたいだし。

 援護のつもりなのか、ちょくちょく二人きりにしてくれるときがある。

 でも今は、今だけは、トパーズの話はしないで欲しい。

 頑張って頭を切り替えようとしているのに。

 ……悲しくなる。


「彼がアタシに合わせてくれるているからだよ。……彼は戦うのが上手いから」


「……それは僕が下手だということか?」


 クロードの声に不満が混じった。

 あぁ、もう鬱陶しい!

 そんな話は今どうでもいいでしょ!


「……そんなことを言ってるんじゃないよ」


 察しなよ!

 ……そうだよ!

 彼はいつもアタシを見て、アタシの詠唱に合わせて、アタシが動きやすように空気を読んで戦ってくれているの!

 彼は大人だから、アンタみたいに独りよがりな戦い方は絶対にしないの!

 だからアタシも彼を見て、彼の呼吸を感じて、彼が動きやすいように、彼の力になれるように頑張ってるんだよ!

 ……だから何さ?

 もうこの話やめてくれないかなぁ! 


「君は僕が好きだったはずだよね?」


 ……そうだけど。

 なんでそれを今ここで言うの?

 信じられない!


「もう、トパーズの方が好きになったの?」


「……そんなことは……ない」


 アタシが力なく答えるとクロードの顔が思わせぶりに近付いてきた。

 これには、さすがのアタシでもカチンと来る。

 ……アタシはそんなに軽い女に見えたか?

 クロードが好きだったくせに、トパーズに心変りしたのは認めよう。

 紛れもない事実だ。

 だけど裏切られて傷ついたからといって、またすぐに別の男に心を許したりはしない!

 ましてや簡単に身体を許すような女なんかではない。……決してだ! 


「何をするつもり!? アンタはサファイアちゃんを選んだんでしょ。ねぇ! このアタシじゃなくて! ……この前の夜、二人で抱き合ってキスしているのちゃんと見てたんだから、アタシ!」


 あれは正直キツかった。

 いくらトパーズの方に気持ちが向いていたとはいえ。

 だけどずっと好きだったクロードを諦める決定打としては十分だった。


「それは、その……最近向こうが積極的で……」


 クロードが見苦しい言い訳をする。

 この期に及んで全然男らしくない!

 何よ! アタシがどれだけクロードに好意を寄せても、こっちに向いてくれなかったくせに。

 そのせいでアタシがどれだけ傷ついたと思っているの?




「でも、まだサファイアと付き合っている訳じゃない。それは彼女に確認してもらってもいいから」


 ……だから何?

 女の子の唇を奪っておいて、何なの? その言い草は!


「もしキミが僕を選んでくれるなら……」

 

 はぁ? 何を今さら!

 サファイアに何て言えばいいのよ!

 たとえまだ二人は付き合っていなかったとしても。

 それはルール違反だ。


「無いから! 絶対に無いから」


 クロードの言葉を遮る。

 アタシはもうクロードのことは好きにはならない。

 それだけは断言できる。

 サファイアに申し訳ないとかじゃなく、女の意地として。


「……トパーズはたぶんアリスのことが好きだよ。……きっとキミのことは選ばない」


 クロードが顔を寄せて耳元で囁いた。

 だから、それが、何?

 なんとなくわかってたよ、そんなこと!

 どうせ選んでくれないんじゃないかなって、気付いていたよ!

 でも、好きなんだよ! トパーズが!

 ……やばい。泣きそうだ。

 今、女として泣き顔だけは見せたくない。

 アタシは部屋を出て行こうとして立ち上がった。

 だけどクロードがそれを許さない。

 学生の頃と比べて明らかに逞しくなった身体で。包まれるようにベッドに押し倒された。


「……僕じゃダメなのかい?」


 少しだけ荒い呼吸で彼が耳元で囁くと、アタシの髪を撫でてきた。

 やめてよ! お願いだから! そんな目で見つめないで!

 あの頃のアタシが出てきてしまうから!

 もう捨てた、あの頃の、クロードのことが好きで好きでどうしょうもなかったアタシが。

 彼を押しのけようとするも、力強い男の腕力に抵抗できるわけもない。

 それでも身をよじるアタシの脳裏に一瞬だけトパーズの顔が浮かんだ。

 でもそのことが逆に力を奪っていくという結果に。

 ……彼はアタシを選んでくれなかったんだ。

 アリスちゃんを選んだんだ。

 涙が一筋こぼれて耳まで流れ込んでくるのを感じた。

 アタシの抵抗が止むのを確認して、クロードの顔がゆっくりと近付いてくる。



 アタシはただ、目を閉じることしかできなかった。 



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